第28話 二人きりの夜
あの後、ジークが囚われていたザイザルの騎士達と話しをし、彼らも交えての大宴会となった。
ほとんどの者がかすり傷や打撲程度の傷だったというのと、縛られてはいたものの、その後の治療や扱いが丁寧だったので、遺恨に残るような負の感情は育たなかったらしい。
ヒュドラ側からしたら、囚えた者達は大事な商品だった訳だから、最初からほぼ無傷で捕獲したかったし、状態を最善でキープしたかった……というだけだったのだが、まあ……物は言い様である。国を復興する為にうんたら……というジークの説明を受け、騎士達はそれを受け入れて今に至る。
そんなザイザルの騎士とヒュドラの騎士が肩を抱き合って飲んでいる場に、剣片手に遅れて飛び込んできたジーク付きの騎士達は、ただポカンとした。最初は全てを敵と思い、死地に向かう気持ちで斬り込んできたらしいが、実際には敵味方入り乱れての大宴会。どうなってんの??? と、目が点になってもしょうがない。
ジークは彼らに早急にアンネを追ってアステラ国に行き、アンネの護衛と共に、この説明とウスラへの書状を持たせた。
「ディータ」
「……」
「ディタってば」
「……」
狭い(防音)テントの中、ジークは二人用寝袋のような物にくるまり、実に良い笑顔で私のことを呼んでいた。私はというと、切り株のような椅子に腰をかけ、なるべくジークと目を合わせないようにしている。
まだ外は宴会真っ只中というのに、テントの中にはジークが私を呼ぶ甘い声しか聞こえない。どんだけ防音なんだ?! とその構造を不思議に思うのと共に、こんなテントを常備するクルトの閨事情って……と些か下世話な勘繰りをしてしまったり……。
なんて、嘘です。
そんなのどうでもいいくらい、思考がツルツル滑っていくくらい、二人っきりという事態に心臓がバクバクしてる。
密室に二人っきりってのは、普通にアルアルだし、抱き締められたりキスされたりなんてことは、そりゃ付き合ってるんだしドンとこいだ!
最後まで致さなかったら、そりゃどちらかというと大好物でもある。
でも、この状況……。
二人っきりで一晩過ごす……しかも密着半端ない二人用寝袋で……ってのはどうなの?
いくらジークに約束させているとはいえ、本当に何事もなくすむとは、さすがの私も思えない。
「侍女さん達の部屋に行こうかな。ほら、一応あそこは小屋だし、床あるし、テントだと虫とか怖いし」
「あっちは雑魚寝でしょ? ここなら二人きりだよ。第一、こんな場所で僕が君を別に置いておくと思う? 万が一、酔っ払った奴らが乱入してきたりしたらどうするのさ」
「なら、侍女さん達だって危ないじゃない」
「それは騎士をつけてあるから」
「なら、私だって大丈夫でしょ」
「君を守るのは僕。他の男はダメ。君が侍女の小屋に行くなら、僕も行くよ。彼女達、僕と一緒じゃ寝れないんじゃないかな」
「当たり前でしょ」
「なら、侍女達の安眠の為にも、ディタはほらここ」
ポンポンとジークの真横を叩かれ、私はジトッとジークを見下ろす。
「何もしない? 」
「……」
「約束したよね? 」
「何も……しなくはないかな? うん、それは無理だよ。約束できないことは言わない。だって、ディタには嘘つかないから」
そんな笑顔で、なんてことを……。
絆されそうになり、私は赤らむ頬を隠すようにじっと地面を睨む。
あぁ……、もういいのかな?
私がちょっと我慢すればいいだけだよね。死ぬ程痛い訳でもないし、そりゃ……かなりの苦痛ではあるけど、こんなに好かれた相手としたことないし。……いや、好かれたとかじゃなく、私がこんなに好きになったのも初めてだし。
ウァァァ……。
頭がグチャグチャになる!!!
「ディタ……」
もうその声ダメでしょ!
ポンポンとか寝袋の端を開けて叩かれちゃうと、グズグズした思考の中、ゆっくりだけど足がそっちへ向かってしまう。腕が触れるくらい近くまで近寄ると、優しくフワリと抱きしめられる。
「……ここ、おいで」
甘過ぎますゥッ……!
気がついたら、ジークの腕の中、スッポリと寝袋の中にいた。
背中をトントンと叩かれ、自分よりも少し高い体温とか、その熱い吐息とか、しっとりとしたそれでいて節のある大きな掌とか……。まじでヤバい! 流されてどうにかなっちゃう流れだよね。
しかも、やぶさかでない自分もいたりする。
「暖かいな……」
ウン?
何か、寝息が……気のせい?
「……ディタ……大好き……」
ウウン?
背中をトントンしていた手が、その位置からぶれることなく止まり、ちょっと下に下りることも、前に回ることもなく、ただギュッと抱き締めながら、安らかな寝息が聞こえてきて……。
ハイッッッ???!!!
寝たフリとかじゃなく、完璧に寝てませんか?
そりゃ、婚前交渉とか無理って言ったのは私だし、どう考えてもヤりたいなんて思えないけど、でも、でも、でも!!!
なんで寝ちゃうかな?!
私はまんじりともせず、それから数時間目を見開いてジークの安らかに上下する胸元を睨み付けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます