自分の小説の一番のファンは自分だ、という話

深夜テンション、Pay attention

 影響を受けやすいタイプだという自覚がいつまでも付きまとって、昔書いた手垢まみれの作品を見るたびに苦笑いしたくなる。長い間熟成されてきた逆張りマインドが心をキリキリと刺激して、過去の不出来な作品たちを黒歴史に葬ろうとする。

 あの時感じていた感情は、おそらく再現できない瞬間的なもので。あの時見つけた宝石の原石は、今思い返すとただのガラス玉だったのかもしれない。


 レトリックに凝り固まって、それがない文章を稚拙だと笑っていた中学生の頃。

 洒脱なユーモアに憧れて、硬い文章をつまらないと思っていた高校生の頃。


 そんな創作への思想は過去のツイートやら作品やらに脱臭できずに残っていて、まとめて黒歴史クリーナーで掃除して何食わぬ顔で小説を書きたいって今でもたまに思う。足跡をうまく消す、大怪盗みたいに。


 こういう思考を続けていくと過去の自分すら信用できなくなってきて、これで読者に何かを訴えようと本気で思ってたんかダッセェって急激に冷めそうになって。書き直したくなって、凸凹の道を舗装したくなるISSAの気分もなんとなくわかって。


 それでも、その時々に抱いていた自分への全能感とかギラついた欲とかはまだまだ捨てられていない。

 思いついたアイデアを形にしている時の脳内麻薬がドバドバ出る感じも、冷静になってこれ面白いか?って自信を失いかける瞬間も、公開した後に褒めてもらって安堵と共に調子に乗り出すのも。

 そういうサイクルを繰り返すことで、僕は創作という究極の暇つぶしを飽きずに続けている。


 ネットの海は広く、空は高い。井の中の蛙になる前に、僕よりももっと才能がある人が、僕よりももっと筆が早い人が、色々な人の心を動かすエンタメ作品を世に出している。

「自分の一番好みの作品は自分にしか書けない」なんて言葉で自分を慰めつつ、僕は「まだ全然飛べるな……」って考えながらちょっとずつ飛距離を伸ばそうと背伸びをしまくって生きている。

 いつかこの背伸びさえもダサいって思えるほどに大きくなれる日まで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分の小説の一番のファンは自分だ、という話 @fox_0829

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る