第三話 作戦会議と敵の襲来
さて、神のままでいることを決意したはいいが……しかしあの男を撃退しようにも、僕は神の力の何たるかを知らない。
こうなってしまった以上、きっちりと把握しておく必要があるだろう。自覚していない能力など、宝の持ち腐れだ。
「その、神って具体的にはどんなことができるんだ?」
「ええっと、そうですね……。まずは神域の説明からはじめましょうか」
そうして、巫は説明を開始した。
「麻布さんが私たちを発見したときのことを思い返してみてください。
戦いの余波すら全く知覚できない状態から一歩踏み出しただけで、いきなり私たちの戦闘が目に飛び込んできたでしょう?
それは、麻布さんが神域に紛れ込んだことにより生じた現象です」
「神域?」
「はい。神様の周囲には、常に神域が展開されています。
その内部で行われていることについて、外側からは一切知覚できません。いつもと何ら変わらない風景に見えるわけですね。
ですが、ある程度神様に近づく──つまり神域の内側に一度でも入ってしまうと……」
「あのときの僕みたいに、そこで起きている現象を正しく認識できるようになるってわけか」
「はい、その通りです」
これでようやく、ひとつ謎が解けた。だから目の前の風景が、いきなり巫たちの戦闘場面に変わったのか。
いや、より正確には違う。もとからあの場所では戦闘が繰り広げられていたと解釈すべきか。
僕が最初見ていた風景こそがまやかし。神域に紛れ込んだことで実際の状態が可視化されたにすぎない。
「そして、神様が離れればそこは神域でなくなり、神様の行為によって起こった物理的な変化は世界の修正力によって元に戻ります。
ただし、霊的な変化は
神様が多く存在しながらもその御姿を拝見したことのある人間が
いたとしても神域内部での変化は元に戻ってしまうため、証拠が残らずに眉唾物扱いされてしまいますし。
何の物的証拠もなく忽然と人が消えてしまうことを神隠しと呼んだりしますが、それもこの神域に付随する現象です」
つまり、あの河原の戦闘による破壊の
ただし、戻らない変化もある。
巫による空間転移は霊的な事象であるため、そこで最後の御札を使ってしまった事実を変えることはできず。
僕に攻撃したことを敵の神が残そうと思った
う~ん、頭がこんがらがってきた……いや理屈の上では何となくわかるのだが、感覚として理解しづらい話だ。
「なかなか複雑なんだな……。それで、他にはどんな能力があるんだ?」
「そうですね……。筋力や反応速度など、身体能力全般は普通の人間を遥かに超えているはずです。
あとは自然治癒力も飛躍的に上昇します。より正確には自然治癒力というより復元能力に近いのですが」
「さっきも凄い勢いで再生したもんな、僕の胴体。それに服まで元に戻ってる。
これだけ強い治癒能力──いや、復元能力か──があれば、死ぬことなんてないように思うけど」
胴体が全部なくなっているにも関わらず、一秒足らずで再生したのだ。正直、どんな重傷でも立ち所に治りそうである。
しかし巫は
「いいえ。神様のエネルギー源とは自身の中にある霊力です。霊力が多く残っていれば残っているほど復元の
先ほどの場合、神様になりたてで霊力がフルにあったからこそあそこまで早く体が復元されたのです。逆に言えば、残っている霊力が少なければ復元の効率は著しく下がります。
霊力は自然に回復しますが、戦闘となると霊力の消費量が回復量に追いつかなくなる場合もありますので気を付けなければなりません」
「なるほど。復元能力に頼りきりってわけにもいかないのか。なるべく手傷を負わないようにしないとな」
「はい、復元の権能は便利ですが、霊力がどんどん削られていきますからね。
それに、戦う相手も神様ですので、麻布さんと同じく高い復元能力を持っています。
私が戦ったときにはまだ本気を出していないようだったので、彼の実力は分かりかねますが……それでも相当の力を持っているように見えました」
「一筋縄ではいきそうにないな……」
実力も復元能力も相手のほうが上。さらにこちらは神になりたてで実戦経験が皆無。お互い復元能力を持っている以上、運よく強い
「はい。たしかにそう簡単にはいかないと思います。
ですが、神様というのは生まれたときにこそ最も強い光を放つものです。神様になりたての麻布さんならば、その力を十全以上に発揮できることでしょう。
それにいくら戦力差があろうとも、それを
「神器?」
「はい。神器とは、神様がそれぞれ固有に持っている特殊な呪具です。
武具であったり勾玉であったり、あるいは鏡であったりと形状は多種多様ですが……どれも強力であることに変わりないので、上手く使えば不利な状況から一発逆転できる可能性があります。
まあ、それは相手にも言えることですが」
なるほど。それはたしかに役立ちそうだが――
「その、僕はそんなもの持ってないんだけど……」
そう言うと、巫は困ったように首を
「う~ん、神様を生み出すなんてことは初めてなので、私にも少々わかりかねますね……。
おそらく、不定形の霊力を凝縮させて形を与えることで神器を創造できるのではないでしょうか」
よくわからないが、なんとなくイメージすることはできる。そのイメージをもとになんとかやってみるしかないか……そんなふうに思っていると、
「へぇ、なんだか面白いことになってるじゃねえか」
唐突に、後ろから声がした。
慌てて振り返ると、そこには先ほどの男――すなわち僕たちが倒そうとしている神が、鋭い視線を向けて立っている。
「……っ」
あまりの急な登場に驚き、絶句する僕と巫。それを見ながら、神は嫌らしくニタリと笑った。
「なーに鳩が豆鉄砲を食らったような顔してんだ。こっちだって驚いてるっつーのに。
いやー、まさかそいつを死なせないために神にしちまうとはな。俺のためにわざわざ飽きない展開を用意してくれたってか?」
軽い調子で放たれる言葉。それなのになぜこいつが言うと、ここまで恐ろしいものに感じられるのだろうか。
自ずと後ろに下がりそうになる。だけどそれは駄目だ。
僕はこれから、こいつと戦わなくてはならないんだ。臆してばかりいられない。相手のペースに呑まれないように、とにかく何か言い返さないと。
そう決意したが、そんな僕よりも先に巫が口を開いた。
「どうしてこんなにも早く、私たちの居場所が分かったのですか!? 最大限の隠蔽術式で居場所を隠していたのに……っ!」
「はっ。人間の隠蔽術式なんて、神にとっては子供のかくれんぼと何ら変わりねえんだよ」
「いいえ。いくら神様でも、この短時間で術式を破るのは不可能です。それをいとも容易く解くなんて、相当高い神格を持っているとしか考えられません。あなたは一体何者なのですか?」
そう問いかける巫を不思議そうな顔で見た神は、次の瞬間弾かれたように笑い出した。
「ふ……ははははは! 高い神格ときたか! たしかにそうだ。俺はそこいらの神とは格が違う。
いいぜ、教えてやろう。この名を聞けば、おまえら二人ともビビッて動けなくなっちまうかもしれねえが……まあ、どの道ここで殺すつもりだしどっちでもいいか」
そして神は、残忍な笑みを浮かべて口にする。
――あまりにも有名な、最強の英雄神の名を。
「俺の名は――
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