第4話
そう、そうだった。あいつは転校していたんだった。あのとき、クラスのみんなでお別れ会みたいなのを開いた。そいて、俺があいつと仲がよかったから、司会みたいなことやらされたんだった。思い出した。
「大人になって、思い出の話をするってのは恥ずかしいな。昔の同級生と、って!」
「何を言ってる、お前が始めたんだろう」
「……でも、いいなと思っているよ。こうしてまた、お前と鬼ごっこで遊べたことも」
無性に、恥ずかしくなるようなことを男性は言っていた。とてもじゃないが、この男性みたいに俺は素直に話すことはできない。
「かわりに、すごい疲れたけどな! あはは! 学生のときと違って体力完全に落ちたわ、ちょっとは運動しないとな!」
男性は立ち上がり、俺の方に向いた。
「ほら、行けよ。お前、この祭りでやることあるんだろ? さっさと終わらせて飲みに行こうぜ?」
男性は、俺に行け行けと手で払う。俺はそのお言葉甘えて、その場を去ろうとする。
「またな」
「あぁ……また」
その短い言葉で、男性のいた場所から俺は離れて行った。
「……さて、上手く行きますかねーこれは」
最後に男性が、何かを呟いていたが俺には聞こえていなかった。
俺は急いで、去年キャンプ帽子をかぶった女性と始めて会った場所に向かった。
そこには、彼女はもういないかも知れない。俺の脳裏に嫌な予感がする。
ついてみると、やはりここに誰もいなかった。
やっぱり会えないのか。そもそも、今年の赤鬼祭には参加していないんじゃないか。
ネガティブな考えだけが脳裏を埋め尽くしていく。
「……くそっ」
気づいたら目的の場所もなく焦り、俺はただ走りだしていた。
……会えない。……会えない。……会えない。
何故か、切ない気持ちだけが沸き上がってくる。
走っているせいで、息があがっているからか? ――違う。
いい歳して、赤鬼祭で鬼ごっこしているからか?――これも違う。
じゃあ、なんだ? なんでこんな気持ちになる?
こんな切ない気持ちに。
……そうだ。あの男性の話を聞いて、思い出したヤツのせいだ。あいつを思い出してから転校した日のことも思い出してしまったんだ。
最後の別れのとき、あいつは最後の最後まで泣き虫だった。顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていて俺にいろいろ話してたけど。
あいつは泣いているせいで、何を言っているのか俺にはよくわからなかった。
それで、俺は泣いてばかりいるあいつにまた遊ぼうなって言った。
うんまたね、ってあいつは言っていた。涙を拭いながら。
でも、あいつの転校した先が遠かった。簡単に会いには行けない。子供のときの俺は、それを知らなかった。
この切なさは、その思い出から来るものだ。
……なんで思い出したんだ。忘れていたのに。
――――忘れていた? 忘れようとしていたじゃなくて?
俺は気がつくと、去年あの女性と逃げてたどり着いた行き止まりにきていた。
「……やっと、みぃつけた!」
後ろから声がする。
振り返ると、そこには去年いたキャンプ帽子をかぶった女子の姿があった。
「見つかってよかったぁ、見つからなかったらどうしようと思ったよ」
俺を探すために、結構走ったんだろう。女性は、息を切らしていた。
「……なんで俺を?」
「またねって言ったでしょ?」
カチリと、俺の心の中で何かがはまった気がした。
「もうお前は、鬼なんだな」
女性のベストを見ると、赤いライトがついていた。
「これで、君とまた遊べるでしょ?」
「なるほど」
俺のベストは青いライトがついている。鬼ごっこは、鬼から逃げなくてはならない遊びだ。
「泣き虫は卒業できそうもないな……まぁ、今の状況を言うと泣き虫の赤鬼かな?」
「……ひどいなぁ、これでも泣かないように日々努力してるだよ。でもね……」
女性は、自分の頭からキャンプ帽子を取るとそれを使って上手く顔を隠そうとする。しかし、女性の瞳から涙が流れているのがわかる。
「こうして、会ってまた遊べると思うとね……嬉しくて嬉しくてたまらなくて……君は相変わらず鬼だね、青鬼くん」
女性は、昔のことと今の状況を組み合わせて皮肉ってきた。
「さぁ、鬼ごっこを始めよう! まずは、お前が鬼だからな!」
俺は気合いを入れる。ここは行き止まり、逃げ場がないから作戦を考えなくてはいけない。
「いいよ! まだまだ、太陽が沈むまで時間はいっぱいある!」
こうして二人は、空が茜色に染まるまで鬼ごっこを楽しんだ。――もう一度、あの頃を繰り返すかのように。
そして青が赤ヘと変わったとき、彼女はこう言ったのだ。
「追いかけて来たよ!」と。
とりあえず、鬼ごっこ始めました! 猫のまんま @kuroinoraneko
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