第51話 ゾエレの屋敷
魔導協会オリンシア帝国支部 図書室
魔導協会には世界各地に支部がいくつかある、その中でも、大規模な建物の中には図書室が完備されていたりする、上位の魔導士であれば、より高度な魔導書を読むこともできるため、よく活用されている。
その日は誰もいないという珍しい日だったある二人を除いて。
テケト=トーティは本を読みながら横目に見ながら
「アテラズ、お前も調べものです?」
アテラズはテケトの言葉を無視して本を探し始める。
「お前に話す必要があるか?」
「......話す必要はないですね」
辞書のように分厚い本をいくつも取り出し、近くに机に置いて座る。
「お前に聞いておきたい事がありました、いいです?」
「構わん」
「お前は、イオブの残党相手から何を取り出していたんです?」
アテラズは本を読みながら答える。
「アクロテスが作り出した薬だ、魔導協会に全て渡した」
「......本当です?」
「嘘をついてどうする」
テケトはアテラズの隣の椅子に座る。
「お前が魔導協会に渡した物の改良版ともいえる薬が最近裏社会で出回っているようでして」
「興味深いな、だが、アクロテスはそういった薬をバラまいていたんだろう?」
「そうですね、ただお前の薬はアクロテス直々の薬だったらしくて、そうとう数は限られるそうなんですよね」
「ほう、とんだ偶然もあったものだ、お前が何を考えているのかは知らないが、俺は何も知らない」
テケトとアテラズは本を読みながら、淡々と会話していると、テケトはある話題を切り出す。
「そういえば、クラトス=ドラレウスに会ってきましたよ」
アテラズは気にせず本を読む。
「今回のクラトスの活躍は評価に値しますよね、アテラズ」
「......」
「アテラズ、ヒュドラの毒について知っている事を話していただけませんか」
読んでいた本を閉じて立ち上がる。
「俺は何も知らないな、そのヒュドラの毒についても知らない、そして、お前が奴をどう評価しようと、どうでもいい」
「知らぬ存ぜぬで隠し通せると思ないことですね、テケトは確かに実力ではお前に劣りますが、人脈とかには自身があるのです、お前と違って信頼も信用もされています」
アテラズは本を元の場所にしまうとそそくさと図書室を後にする。
「確かに、俺のような汚れ仕事をする不浄の人間より、お前のような聖浄な存在の方が信頼されやすいだろう」
「仕事内容ではなく、お前の普段の言動についてです、いつもあなたを庇っているネレイアイ=ナイナイア、貴方の師でもあるゲライアト=ヒュタリア、みな苦言を呈しています」
アテラズはテケトに背中を見せながら話す。
「......ネレイアイは予想していたがな」
「ゲライアトは意外でしたか、彼は意見表明するタイプではないですが、このことネレイアイに聞いたようです、古い仲ですからね、彼ら」
「ネレイアイには弱い......か......フン、くだらない」
アテラズはそのままその場を去っていこうとするが、さらに続ける。
「何か理由があるのなら、早々に教えてくださいね、後戻りができるうちに......」
「......」
「っアテラズ......」
最後の忠告を最後に図書室にはテケトだけが残るのだった。
◆◇◆◇
カリヤ=ハシュルと共にある屋敷に到着する。
屋敷の周りには警備の為であろう魔導士達も多く、物々しい雰囲気を出していた。
「ここがゾエレ=ローズが住まう屋敷だ」
「ひゃぁ、大きいわぁ」
「......だが、やけに警備員が多いな、俺が来た時はそれほどでもなかったんだが......」
カリヤも短時間で何かあったのか、人の出入りが目立つ事を気づく。
「......変わらないな」
クラトスはかつて、婚約を要求してきた少女がいる事を確信する。
「......では行くぞ」
カリヤはそう言って、屋敷に入っていくのだった。
「わぁ、私こんな屋敷入るの初めてかも......」
ナシアーデは歩きながら、物珍し気に辺りを見渡す。
「クラトスはあんまり驚いてないわね?」
「あー......そうだな、非正規魔導士時代に依頼で此処にちょっと来たことが......」
「うそ!?」
思わず大声を上げてしまい、すかさず口を手で塞ぐ。
どうやらカリヤもその事を聞いていたようだ。
「なるほどな、珍しくご執心だったのは、お前を気に入っているからか」
「だろうな(言い訳を考えておこう......)」
そうこうと話していると庭に出る。
中央には金髪にエメラルドの瞳をした少女、ゾエレ=ローズ、そしてもう一人の人物がいた。
「......先客がいるな、中に入って――」
「――皆さんもこちらへ、ゾエレ様がお呼びです」
メイドはカリヤが中に戻ろうとしたところを呼び止める、ゾエレが呼んでいるとのことでゾエレの元に向かう。
「カリヤ=ハシュル、わざわざありがとうございますね、こちらの方は魔導協会からいらしたゲライアト=ヒュタリア」
「ゲライアト=ヒュタリアです、以後お見知りおきを......」
白髪交じりの黒髪をし、やつれた顔の男は静かに頭を下げる。
「アンタは確か......」
「お久しぶりですね、クラトス」
ゲライアト=ヒュタリア、父であるアテラズ=ドラレウスと知り合いである事をアーシアで話していた。
「ナシアーデ=パナケさんそして......クラトス、本当なら色々話したい事があるのですが......」
ゾエレはそういってカリヤの方を見る、それを察し
「あぁわかってる......クラトス、ナシアーデ【ロックバード】にもいつか来てくれよ、歓迎するぜ」
そういってカリヤ=ハシュルは庭を離れていく。
ゾエレ=ローズは姿が見えなくなったのを確認すると話をつづけた。
「私の屋敷に魔導士がいましたね?」
「いたな、カリヤが言うにはつい最近にはいなかったらしいが」
「えぇ、キコス国は政情が安定してきて、特に首都ラエレドでは一人でも人が出歩けるほどに治安が良いのです、ですので最近は護衛も少し減らしていました、しかし......ゲライアトさん話しても?」
ゾエレはゲライアトを見る。
「ここからは私が、クラトスやナシアーデ、公認魔導士に関係ある事ですので」
ゲライアトは軽く咳をして、続ける。
「この国には禁忌魔法を収納している工房がある事がわかりまして、調査をしていたのです」
「禁忌魔法......どうしてそんな工房がある事がわかったの?」
思わずナシアーデは聞く。
「アクロテス=ヘスペーはご存じでしょう、彼はあらゆる場所に禁忌魔法の工房を作っていたのです、この国にはそれがあると......」
「......それで警備が厳重に?」
禁忌魔法について、アーシアで発動されそうになった禁忌魔法『デモンゲート』クラトスもナシアーデでも見たわけではないが、聞いたところによれば恐ろしい魔物を呼ぼうとしていたらしい。失敗したが禁忌魔法はとても恐ろしいモノであることは理解していた。
「......その禁忌魔法はある魔導書に起因して発動させるものらしいですが、現地でそれの奪い合いが発生し......取られたと......」
「っじゃあ、魔導協会の魔導士は負けて、みすみすとられたのか!?」
「......私達の魔導協会の頼みごとって、その魔導書を取り返すこと?」
「はい、魔導協会の魔導士には禁忌魔法『キハイオロス』を止める為に魔導書の奪取をお願いします、S級魔導士リデュース=ローズ様による命令でもありますので」
ゲライアトはクラトス=ドラレウスとナシアーデ=パナケに指令を出す。
「私の屋敷に護衛が多いのもお兄様が手配してのことです、どんな奴が禁忌魔法を持っているかわからないということで......」
「ただ、戦力として私は入ってません、所詮万年C級魔導士......ほら、実力ある魔導士は後ろにいる方、彼ですよ」
クラトスが振り向くと立っていたのはボサボサな金髪の髪の男
「どうも......」っと言いながら軽く会釈をしていた。
「その金髪の男はスキャマ=ドーザス、旧イオブ出身ですから魔道具の使用はお手の物、B級魔導士ですので、このキコス国でも上位の実力でしょう、そして」
ゲライアトは手を叩くと影のように現れる黒髪の男。
「ゾエレ=ローズの護衛をリデュース様より任されましたアネル=ハトルアです」
「あっアネルさん!?」
「アネル=ハトルア、B級ですがA級にもっとも近い魔導士と言われています」
ゲライアトはそういうと、アネルは近づいてくる。
「久しぶりですクラトスさん、他の魔導師に色々教えてもらいましたよ?色々頑張ったとか......僕も負けてられないなぁ」
パンッ
ゾエレは両手をパンと叩き周囲に注意を引いたところである提案をする。
「さて、お互い自己紹介を終えた所で、皆でお茶でも如何です?」
突然の提案にクラトス達は困惑をし、自分はこの後ギルドに戻る旨を伝えるが......
「ギルドを大切にするのは良いことです......ですがご安心を、私が貴方のギルドに伝えておきますので......ね?」
ゾエレ=ローズはキコス国内のギルドを裏で支配する一人、それくらい造作もないのだ。
「さぁ、皆さんも一緒に楽しみにしててください」
そして何よりS級魔導士として魔導協会に力を持つリテュルス=ローズを兄に持つゾエレを相手に魔導協会の魔導士も強くは出られず、この突然のお茶の誘いは半ば強引な形で参加する羽目になるのだった。
「さぁ、楽しみですね......クラトス=ドラレウス」
「......そーですね」
クラトスは不敵な笑みを浮かべるゾエレにただただ萎縮するのみだった。
魔導師クラトスは最高な魔導師を志す! 村日星成 @muras
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