第5話 自室にて
次の日の夕方。
夕食も食べ、早めに風呂と宿題を片付けた翠は早速ポコットナイツの世界へ旅立とうとしていた。
しかし。
「姉ちゃん!ほらこれみて!」
「きゃあっ!」
レプロギアを使う場合、安全な閉鎖空間を作らないと、五感を現実世界から完全に遮断してしまうフルダイブが出来ないように制限がかけられている。
そのため翠は自室の鍵を閉めようとしたのだが、そのタイミングで目の前のドアが開き、蒼が現れたことに翠は思わず声を出してしまった。
「もー!びっくりするじゃない!何よ?」
「ほら!見てよ俺の体温!平熱だろ?」
そう言うと目の前で指を躍らせる蒼。
すると翠の視界にウィンドウが開き、蒼の健康状況を閲覧するか否かを問われた。
電脳世界にフルダイブする据え置き型のレプロギアに対して、視覚や聴覚などに一部干渉して現実世界を拡張する携帯型ギアの事をエクスギアと呼び、基本的には耳に装着するタイプが多い。
翠はイヤリング型の物を、蒼は補聴器型の物を使用している。
これらのおかげで現実世界では眼鏡や補聴器などの器具を使うものは激減した。
仕方なく翠はウィンドウを開くと、蒼が完全な健康状態に戻っている事を画面は示していた。
「これがどうしたの?」
「どうしたの?じゃねぇよ!やっぱりポコナイβ我慢できねぇよ!やらせて!姉ちゃんのギア使わせてよぉ!」
翠の足元に膝をついてすがりつく蒼。
「じゃ、じゃあエクスギアで監視してもいいなら……」
「やったー!流石姉ちゃん!」
「はぁ……」
すっかり元気になったのかぴょんぴょん跳ね回る蒼を見て、ため息をつく翠だった。
「じゃあダイブすっけど変なことすんなよ!」
「ははは……するわけないじゃん」
蒼は翠のベッドに寝転び、彼女のレプロギアを装着して電源を入れた。
「……大丈夫かなぁ?」
翠の視界脇には蒼の視界がウィンドウによって表示されていた。
「姉ちゃん……マイルームだからって自室を再現とかめんどくさがりすぎだよ」
「えーだって細かい設定とかわかんなかったんだもん!でも人形とか写真は飾ってあるからね!」
蒼が言うマイルームとは、レプロギアを起動した瞬間自身が待機する場所のことである。
特定の建物の中身などを購入して再現したり、自作することも可能である。
「人形がなんの役に立つやら……あ、ポコナイβあったあった」
蒼は部屋の机からポコナイβのソフトを取り出し、起動させようとした。
「よしよし……ってあれ?」
「?……どうしたの蒼?」
蒼の視界を翠が確認すると「生態IDが一致しません。本来のテスターが再起動させて下さい」と表示されていた。
「あ、あぁ……ああああああああ!!このゲーム生態ID登録式かよぉおおお!」
「せいたい?」
「姉ちゃん生態IDもしらねぇのかよ……」
生態IDとは国が国民を管理するために、遺伝情報を電子化したもので、様々な物事に用いられる。
この世界ではバスに乗るのも搭乗パネルに触れるだけで料金支払いが終わる。
「で?結局どう言うことなの蒼?」
「このゲームは姉ちゃんしか出来ねぇってことだよ」
「ふーん」
落ち込んだ声を出す蒼に少し同情する翠。
「ま、また感想聞かせてあげるから!」
「うぅー……うん」
蒼はログアウトして翠のレプロギアを外した。
「さて、一悶着あったけどやっとゲーム始められるよー」
翠はレプロギアを起動してポコナイβにログインした。
眩い光の後に目を開けると、そこにはどことも知れない一室に、昨日の自分が作ったアバターが存在していた。
「昨日アバター作った部屋かな?今日はもうドアがある……」
昨日と違うのはアバター作成後出現したドアがすでに存在することだった。
「よし、いこう」
翠はドアを開いた。
「よいしょっと」
キミドリはドアを後ろ手で閉じる。
「まずはリゴさんと連絡をつけないと……」
キミドリはウィンドウを開き、コミュニティ、フレンドの順に選択した。
フレンド欄のリゴの表示はログインしてだった。
「よし!ログインしてるね!そして……こうして……」
続いてキミドリはリゴの欄を選択し、メールの文章を入力し始めた。
「ログインしました。どこで会いましょう?……っと」
入力を終えた羊皮紙状のウィンドウは、折り畳まれて紙飛行機になり明後日の方角へ飛んでいった。
「…………あっ!なんか飛んできた!」
しばらく佇んでいると明後日の方角から紙飛行機が飛んできた。
すると紙飛行機はキミドリの目の前まで飛んでくると、逆再生するように開き、内容を表示した。
「えーと……訓練所入口で待つ……か。よし!急ごう!」
キミドリは訓練所の方向へ向かって走り出そうとした。
「あれ?そう言えば訓練所ってどこだろ?」
キミドリは近くの人に聞けばいいやと思いながらメールが飛んできた方向に向かって走り出した。
「おう、意外と早いじゃねぇか」
「あ、こんばんは!」
キミドリが大急ぎで訓練所入口にたどり着くと、入口横の柱にもたれかかるリゴがいた。
リゴは柱にもたれかかるのをやめてキミドリに歩み寄った。
「じゃあ今日は武器の基本的な使い方を教えようと思う」
「わーい!」
「でもその前に……」
「っ!」
先程まで温和な表示をしていたリゴが急に真剣な表情になったので、キミドリは緊張した。
「お前ゲーマーじゃねぇな?」
「へ?」
二人の間を冷ややかな風が通り過ぎていった。
ポコットナイツ まぜそば @rohisamanoa
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