第4話 ログアウト後

 翠が短剣に向かって駆け出したのを見届けて、男はニヤリと笑いながら両手斧を構えた。


「さーて。俺の斧スキルの肥やしになっとくれよー!」

「「ギュイイッ!」」


 ウサギ達は男を囲った。


「ギュッ!」

「お前らが囲む時はなぁ!」

「ギュピッ!!」


 カラフルウサギの唸り声がした瞬間、男はそのウサギに向かって斧を振り下ろした。

 ウサギは真っ二つになった。


「ギュイッ!」

「鳴く奴だけ攻撃すればいいって情報は収集済みよぉ!おりゃあ!」

「ギュビャッ!」


 男の背面のウサギが飛び掛かったが、彼の背面斬りが一手早く届いたようで、ウサギはまた上下に分かれた。

 ウサギが唸り、男が斧を振るう。

 そんな事を幾らか繰り返しているうちに。


「……よし、武器取れた。ってもう倒し終わってる!すごい!」

「ふぅ、そっちも武器拾えたみてぇだな」


 カラフルウサギは全て撃破され、男の周りには大量の金貨が落ちていた。


「すごいですね……私何もできなかった」

「そんな事はない。誰でもなれたらこれくらい出来るようになる」


 肩を落とす翠の頭をポンと撫でて男は彼女を励ました。


「改めてありがとうございました!あの……お名前って教えてもらってもいいですか?」

「リゴ。嬢ちゃんの名前は?」

「私はみど……キミドリです!」

「キミドリか。よろしくな。あとこれは提案なんだが……」

「?……なんですか?」


 リゴは神妙な顔をしたので翠は身構えた。


「俺と一緒に訓練してみないか?このゲームの勝手が分かってないみたいだからちょうどいいと思うぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、ギルドに『指定した冒険者が合計ステータスを一定値まで上昇させる手伝いをせよ』ってクエストがあってな。それにキミドリはちょうどいいんだよ」

「なるほど……なら是非お願いします!」


 翠はペコリと一礼した。


「じゃあ今夜はここら辺で切り上げようかな。俺にも勉強があるし……」

「学生さんなんですか?私もなんです!」

「俺大学生だけどキミドリは?」

「高校生です!先輩ですね!」

「じゃあ明日会えたら訓練開始って事で……ほいっ」


 リゴが指先を踊らせると、翠の視界にウィンドウが開く。

 そこにはフレンド申請とその可否が問われていた。


「あ!ありがとうございます!」


 翠は感謝を述べると申請を許可した。








「じゃあキミドリもログアウトしたことだし俺もログアウトするか」


 リゴはウィンドウを操作してログアウトを行った。


「……お腹すいた」


 現実世界でのリゴの声は男性のものでは無く女性のそれであった。

 女性の髪はあまりブラシで解いていないのか、焦げ茶色のストレートは毛が跳ねまくっており、ぶかぶかのパーカーにショートパンツというラフな格好で、電気もついてない部屋の分厚い布団から彼女は出てきた。


「ポークラーメンしかない……しけてんな」


 階段をおり、台所の電気もつけずに食料を漁る女性。

 ゲーム上のはつらつとしたイメージとは違い、陰湿さを感じさせるほどリゴこと女性の声色は落ち込んだものだった。

 その時、台所が眩い光に包まれた。


「雅(みやび)」

「か、母さん……」

「あんたこんな時間に台所で何してんの?」

「い、今から勉強……夜食……」


 寝巻き姿の母親が雅を問いただす。

 雅はバツが悪そうな顔でポークラーメンの袋を胸元に抱えた。


「こんな時間に食べて太るわよ」

「いいもん」

「まああんたの場合全部胸と尻につくからいいのかねぇ?」

「〜っ!!」


 母親にからかわれ顔を真っ赤にする雅。

 彼女の名は「今泉 雅(いまいずみ みやび)」という。

 ゲーム慣れしておりプレイ中は性格が親分肌になってしまうのがちょっとした悩み。

 女子大学生で痩せ型なのに胸と尻だけに肉がつくのが悩みである。






「ってことがあってさー!カッコよかったなーリゴさん!」

「……カッコよかったなーリゴさん!じゃねぇよ姉ちゃん!!」

「え?」

「俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇんだよ……アクションとRPGの比率とかNPCやモンスターのAIの品質とか!他にもあるけど姉ちゃんの話だと全然面白さがわかんねーよ!」


 蒼はベッドの中で頭を掻き毟りながらもがく。


「面白かったよ?よくわかんなかったけど」


 翠は小首を傾げた。


「姉ちゃんマニュアルとかちゃんと読んだ?βテストのゲームだからあれが唯一の情報源なんだから……」

「まにゅある?」

「まさか姉ちゃん……読んでない?」

「うん!」

「うんじゃないよぉ!テスターとしてあるまじき行為だよぉ!」


 ベッドの中で暴れまわる蒼をみて「こいつもう元気なんじゃね?」と思う翠だった。


「ともかく!私は明日リゴさんと約束したから蒼の風邪が治っても私がするからね!」

「このっ!鬼っ!悪魔っ!」

「なんとでもいえー!ははははは」


 ベッドから出られない蒼を背に翠は彼の部屋から出て行った。 


「あー明日が楽しみだなぁ!」


 翠は自室のベッドに飛び込むとニコニコしながら眠りについた。


 二度目になるが彼女の名は「古畑 翠(ふるはた みどり)」という。

 女子高校生でゲーム初心者。

 ショートボブの黒髪に出るとこが最低限出てる女の子。

 そして本作の中心人物である。

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