第3話 森にて
翠は冒険者ギルドの建物を出た。
「あの、平原はどちらに向かえば出られますか?」
翠は通りすがりの農民風の格好をした女性NPCに道を訪ねた。
「冒険者かー。平原はあっちだよ」
そう言うと女性NPCの指差した方向に大きな門が存在していた。
「あれかー。ありがとうございました!」
翠はそれを確認すると女性NPCにペコリと一礼して駆け出した。
しばらく走ると門は目の前になりその先に広がる平原が見えてきた。
「わー……すごいけどモンスター強そうだなぁ」
平原では、何グループもの冒険者が数人がかりで猪型のモンスターと戦っていた。
猪自体、体当たりしか攻撃もなく、その攻撃は直線的だった。
そのため猪の攻撃を一人が引き受けて、残りが猪を攻撃し、撃破する戦法が取られているようだったが、翠には理解できなかった。
「あれと戦うのはやめてもっと弱そうなモンスターを探そう」
翠は平原のモンスターを見たが、どこもかしこも猪だらけでもっと弱そうなモンスターは見当たらなかった。
「やっぱ訓練所ってとこに行こうかな……あ!」
翠が諦めて村へ帰ろうとしたその時、森の入り口にカラフルなウサギのようなモンスターを彼女は発見した。
「あのウサギさんなら倒せそう……まてー!!」
翠は森の中に向かって大急ぎで走って行った。
「ウサギさーん!どこいったのー?そしてここはどこなのー?」
翠は森の奥で道に迷ってしまった。
「きゅ?」
「あ」
彷徨い歩くこと数分、翠はついにカラフルウサギを見つけることに成功した。
「きゅー?」
「あぁ……可愛い……ペットにしたい……」
極彩色に彩られた体毛、小首をかしげる仕草、キラキラした七色の瞳。
翠は愛くるしいそのウサギの頭を撫でようとゆっくり手を伸ばした。
「ぎゅいいぃいいい!!」
「きゃっ!な、なんでそんな大声で鳴くの?」
ウサギは突如翠を威嚇するような体制になったかと思えば、小さい体のどこから出るのかわからないほどの大声で鳴いた。
「ギュッ!」
「「ギュッ!!」」
「「「ギュギュギュッ!!」」」
「え!?ええええ!?ど、どうしよう?戦わなきゃ?」
すると森の茂みという茂みからカラフルウサギの仲間と思われる個体が翠を囲った。
翠は慌てて腰に携えた短剣を抜いて慣れない手つきで身構えた。
「ギュイッ!」
「きゃあっ!」
カラフルウサギの一匹が勢いよく翠に飛びかかる。
体当たりをかわせず翠は体当たりを直撃してしまい、その衝撃で手元から短剣を落としてしまう。
カラフルウサギの攻撃力が翠のステータスを上回り“武器落とし”が発生したためである。
翠は視界に映ったステータスウィンドウを確認する。
体力ゲージが一割ほど削れていた。
「!……やられちゃう!武器を取らなきゃ!」
翠は足元に落とした短剣を拾った。
「ギュギュッ!」
すると今度は後ろから衝撃を感じた。
再び武器落としが発見、体力が減った。
「っ!……武器を拾ってちゃダメだ!うわぁああああ!」
「「「ギュギュッ!?」」」
翠は両手を振り回した。
翠の意味不明な動きに、カラフルウサギは彼女から少しばかり距離を置いた。
「今のうちっ!」
翠はウサギ達が散開した瞬間、短剣を拾って構え直した。
「ギュイイッ!」
「やあっ!」
翠に対して左方向からカラフルウサギの唸り声がしたので、翠は飛びかかってくるウサギに対して短剣で切り掛かった。
「ギィッ!」
「やっ……てない!?」
翠の斬撃はカラフルウサギに僅かばかりのダメージを与えることに成功したが、致命傷には程遠かった。
「「「ギュイイッ!!」」」
「あ、集まって何を……」
翠が一匹のカラフルウサギを相手していた隙に他のウサギは彼女を囲うのをやめて一か所に集まっていた。
「「「ギュイッ!!!」」」
「っ!!」
次の瞬間、翠の身体は宙に舞ってから地面を転げ回った。
ウサギ達は翠に対して一斉に体当たりを行った。
ウサギ達のこの一斉攻撃にはダメージのマイナス補正が入るが“武器吹き飛ばし”と“攻撃対象吹き飛ばし”にプラス補正がかかる。
それらが重なり翠は武器を失い、遠くまで飛ばされたが、体力ゲージは僅かばかり残った。
「ううー。よく見えない」
吹き飛ばしの効果に対し受け身を取らなかった翠の視界は、霧がかかったようになり落とした武器や敵の位置が見えなくなっていた。
「「「ギュギュギュッ」」」
それを見ていたウサギ達は統率された動きで再び一斉攻撃を翠に行おうとしていた。
「嬢ちゃん。じっとしてろ」
「へ?」
その時、翠の後ろから茂みをかき分ける音と壮年の男性の声が聞こえた。
翠が不思議に思いながらもじっとしていると、彼女の頭上を風切り音がした次の瞬間。
「「「ブギュッ!!!」」」
凄まじい衝突音の後にウサギ達が翠と逆方向へ吹き飛ばされた。
何匹かは木々に衝突した衝撃で撃破されてしまった。
「ストライーック!っと。嬢ちゃん。立てるか?」
視界が回復した翠が見たのは、スキンヘッドが眩しい筋肉質な壮年の黒人男性、そしてそこら中を転げ回るカラフルウサギだった。
「あ、ありがとうございます……」
「礼を言われるのは後だ!来るぞ!嬢ちゃんは武器を拾ってこい!」
「はいっ!」
「「ギュイイッ!」」
意識を取り戻したウサギ達が男性に向かって飛びかかる横を、翠は落ちている短剣を拾いに駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます