第2話 受付にて
ドアを開けるとそこには藁葺き屋根に漆喰の壁を使って建てられた家が何軒か立ち並び、多くの武装したプレイヤーが行き交っていた。
「わぁ……これがゲームの世界かー」
その中にはNPCも含まれるわけだが翠には区別がつかなかった。
「あの!すみません!」
「はい?」
なので翠は近くを通りがかった農家のNPCに話しかけてしまった。
「あわわ……あの……このゲームは何をすれば……」
「ああ、新米の冒険者だね。そこの冒険者ギルドに行けば仕事がもらえるよ」
そう言いながらNPCは少し遠くの大きな木造建築の建物を指さした。
「あ、ありがとうございます!」
翠はNPCにペコペコ頭を下げた。
それを見て周りのプレイヤーは苦笑いをしていたが、翠は知る由もなかった。
農家のNPCは手を振ると、通りを歩き始めた。
「と、とにかく冒険者ギルドへ……いっくぞー!」
翠はテクテク歩き出した。
「はえー」
翠は自分の頭上を超えて遥か高い木造の建物、冒険者ギルドの建物をぼうっと見つめていた。
なぜならば現実世界では天然資源の枯渇が加速しており、今や木造の建物は金持ちの道楽となっていたからである。
「現実ならいくらするんだろうこの建物……って!いけない!早くゲームクリアしないと蒼に感想聞かれたら困る!」
翠は冒険者ギルドの扉を開いた。
「わぁー!」
中に入ってみて翠は思わず声を上げた。
ギルドの受付兼酒場では屈強な戦士が肩を組み合いジョッキを交わしていたり、机の上で踊り子が所狭しと踊っていたからである。
なにより彼女を驚かせたのは……。
「外より更に人が多い……」
その人口密度だった。
満席なのは当然のこと、立ち飲みや床に座り込んで酒を飲むものまでいた。
「よし、行こう」
翠は開いた口を閉じてギルド受付へ向かう決心を固めると、トコトコ歩き始めた。
「うおっ」
「きゃっ、ごめんなさい!」
何とか人混みを進んでいた翠だったが、斜め前から出てきた男の存在に気づけずぶつかってしまった。
「いやいいんだ、そっちこそ大丈夫?」
男はぶつかってふらついた翠を心配そうな表情で見つめていた。
「大丈夫です!」
男は革製の鎧を身につけているが、下手な装飾はなく、ただ実用性に特化している様子だった。
翠は麻のシャツとスカートしか着ていない自分を見て、少し男を羨ましく思った。
「じゃ。俺はこれで」
「は、はい!すみませんでした!」
翠は最後に軽く頭を下げると、男はこちらに笑顔で手を振りながら去っていった。
それを見送った翠は再びギルド受付へ足を進めた。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」
眩しい営業スマイルで翠に挨拶する受付嬢。
「あのっ!今日始めたばかりでどうしたらいいかわからないんですけど」
「……ああ、冒険者希望の新人さんですね」
「そうです!」
「でしたらまず冒険者登録をお願いします。この水晶玉に手をかざして下さい」
受付嬢はそう言うと、机の下から水色の水晶玉を取り出した。
「わかりました!えいっ!」
翠は水晶玉に向かって勢いよく手をかざした。
すると水晶玉が発行してウィンドウが翠の眼前に出現した。
「えーと……冒険者登録が完了しました。現在の職業は……」
現在のキミドリのステータス
所属ギルド 冒険者ギルドのみ
職業 無職
レベル 1
体力 100
魔力 100
筋力 1
器用 1
速度 1
頭脳 1
倫理 0
所有スキル なし
「なんかずいぶん寂しいですね……」
「まあ始めたではこんなものですよ……」
「じゃあこれからどうしたらいいでしょうか?」
「そうですね……訓練所でステータスを上げて転職するのをお勧めしますが……」
受付嬢は少し考え込んで翠の方に再び眩しいほどの営業スマイルを見せつけた。
「今からモンスターを倒しにいくのはいかがでしょう?ステータス上昇も訓練所の比ではありませんし、何より最初の狩場である平原には……」
「平原ですね!行ってみます!ありがとうございます!」
翠は受付嬢にペコリと一礼して出口に向かって駆け出していった。
「多くの冒険者が居るから彼らと協力して……って行っちゃったわよあの子……」
『おい』
「……しかも森の方には危険なモンスターが多いって言い損なったわね……大丈夫かしら」
『おい!聞いているのか!』
「なんですか部長?」
『聞こえているなら返事をしろ!全くお前と言う奴は……』
「あーやだやだ話が長くなる!で?なんの用ですか?」
『GMが仕事をサボって何をしているのかと思えば受付の真似事とは……何のためだ?』
「いやちょっと初心者に嫌がら……最短攻略法をですね……」
『馬鹿者!我々の仕事はより快適にこのゲームを利用していただく事だろうに』
「でも会社も会社ですよねー。GMにはNPCに擬態して管理運営しろだなんて」
『話題をすり替えてもダメだぞ』
「ダメですかーあはは……仕事に戻りまーす。GM権限による擬態を解除、通常モードに移行せよ……っと」
受付嬢の身体が一瞬光ると、そこには先ほどとは打って変わって優しげな微笑みを浮かべる受付嬢が居た。
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