ポコットナイツ
まぜそば
第1話 はじまりはじまり
空は夕暮れ間も無く日が落ちようとしていた。
「ハァ……ハァ……ね、姉ちゃん……」
「あ、蒼……」
部屋には姉である古畑 翠(ふるはた みどり)と、その弟古畑 蒼(ふるはた あお)の二人だけだった。
肩で荒い息をする蒼に困惑する翠。
「姉ちゃん……もう俺我慢できないよ!」
「だ……だめだよ蒼!だって……」
その時、翠の掌がベッドに入っている蒼の額を覆った。
「ほら!やっぱり熱あるじゃない!」
「やだやだ!今日ログインしないとβテスト参加出来なくなるぅううぅ……」
「だめよ!しかも私の名前まで使って当選したの私じゃない……私のギア使うつもりなの?」
「いいだろー?姉弟(きょうだい)なんだしさー!」
「はぁ……こりゃ重症ね……」
ベッドの中で力なくもがく蒼に呆れながらも心配な翠。
翠が言うギアとは通称「レプロギア」と言われている物である。
五感を再現したバーチャル世界を体感できるマシンで、普通は電脳世界に再現された街で買い物をしたりする物である。
「……わかった……じゃあ姉ちゃんが遊んでよ……そんで感想聞かせて」
「えー……でも私ゲームなんてした事ないよー」
「大丈夫だって!昔のゲームみたくコントローラーとかがいるわけじゃないし」
祈るように両眼をキラキラさせて懇願する蒼にますます困り果てる翠。
「……姉ちゃん……」
「……わかった!わかりました!やりゃいいんでしょやれば!」
「さっすが姉ちゃん!頼りになるー!」
「だから安静にしとくのよ!分かった?」
「うん!じゃあ早速よろしくね!」
「はいはい」
弟の部屋のドアを閉めて翠はため息を一つはいた。
そして自室に戻り自分のベッド脇に置いてあるヘルメット状の少し大型のレプロギアを頭にかぶせて寝転んだ。
「はぁ……私がなんでこんなことを……」
ぶつぶつ言いながら翠はレプロギアのスイッチを入れる。
すると翠の視界は暗転し体の感覚が急激に薄れていくのを翠は感じていた。
しばらくすると目の前がだんだん明るくなり体の感覚を取り戻していく。
そして目を開けるとそこは自室を再現したバーチャル空間だった。
「こんばんは翠様。今日はいかがなさいましょう?」
翠の頭上から降りてきた明るい球体が彼女に話しかける。
それはAIのガイドサポートの声だった。
「こんばんはガイドさん!今日は弟に頼まれてゲームすることになっちゃって……」
「ほう……すると今朝送られてきた当選メールに添付されていたゲームですね」
ガイドサポートは自身から封筒を排出した。
すると封筒がひとりでに開き、中から透明感のある板状のものが飛び出した。
「ええと……ポコットナイツ……これかな?」
翠はそう言うと浮遊するポコットナイツと書かれた物に触れた。
すると目の前にウィンドウが開き、長々とした説明文の下に同意の有無を問われる表示が有った。
「うわっ!こう言うの読むの面倒なんだよね……ガイドさん」
「はい」
「この説明文に不審な点が無いか確認してくれる?」
「承知しました」
ガイドサポートはウィンドウに近づき説明文をスキャニングし始めた。
「……特に問題は無いですね」
「そっか!ありがとうガイドさん!」
「いえいえ」
「じゃあ早速始めよっか」
翠は同意するという表示をタップした。
すると眩しい閃光が広がり自分の部屋を飲み込んでいった。
光が収まり目を開けると、翠はどことも知れない一室に居た。
非常に殺風景な物ではあったが、グラフィックの質は再現された現実の都市と遜色がなかった。
「ここは……」
そう言うと翠の目の前に羊皮紙状のウィンドウが表示された。
「わーこのウィンドウオシャレだなー……なになに……ようこそポコットナイツの世界へ。ここではアバターの作成を行います……目の前に再現されたあなたをカスタマイズするか一から作成するかお選びください……」
翠が読み終えると翠の目の前に自身と遜色ないアバターが立っていた。
「うわっ!びっくりしたー!裸じゃん私のアバター!」
全裸の自分が立っているのに翠は何故か自分が裸になったかのような恥ずかしさを感じた。
「カスタマイズってどうするんだろう……」
翠がアバターの腕に触れるとその感触は粘土のような物だった。
「ほうほう。これで胸を大きくしたり出来るのか」
そう考えた翠はアバターの胸元をいじり始める。
しかし思った以上に自然で大きい素敵な胸と言うものは再現し辛いようで胸元にボールやスイカがくっついたような変な胸になってしまった。
「あーもうめんどくさい!体型は初期設定でいいや!あと出来ることは……あ!髪と目の色変えようっと……私の名前は翠だし……でも少し明るめがいいな!黄緑にしよう!」
そう言うと翠はウィンドウを弄り、髪の色と目の色を黄緑色に設定した。
「あとは名前かー……私の名前が翠だからミドリ……でもこの子黄緑色だしなぁ……あ!キミドリでいこう!」
翠はウィンドウの名前と書かれた横に「キミドリ」と書き込んだ。
すると出口の無かった部屋の一か所が輝き、その後にドアが出来ていた。
「わっ。出口だ!とりあえず出てみよう」
翠はドアノブに手をかけドアを開いた。
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