秋を探して

雨世界

1 私は、君に恋をしていた。

 秋を探して


 登場人物


 野村秋 高校一年生 女子高校生


 初花祭 高校一年生 男子高校生


 小雪  秋の担任の先生


 プロローグ

 

 ……愛してる? 本当に? 


 本編


 私は、君に恋をしていた。


 見慣れたはずの早朝の高校の校舎の中は、がやがやとみんなの声で騒がしい、いつもの風景とは違って、誰もいなくて、しんと静まり返っていた。

 誰も人がいない教室。

 誰もいない階段。

 廊下。職員室。

 屋上。体育館。下駄箱。そして、……誰もいない校庭。

 どこを見ても、どんなところを探し回ってみても、誰も、みんなも、先生たちも、高校の中にはどこにもいなかった。

 いつも通りに学校に登校した野村秋は、そんな静かな場所に一人でいた。

 そんなおかしな高校の校舎の中にある、いつもの自分の一年二組の教室のいつもの窓際の自分の席に座って、その場所で、一年伊久美の教室のみんなや担任の小雪先生が教室の中にやってくるのを、一人で、ただじっと待っていた。

 でも、結局、どんなに待っても、誰も秋のいる教室の中にはやってこなかった。


 やがて、ホームルームの時間になって、時間を告げる鐘の音が鳴って、それからまた時間は過ぎて、今度は、一時間目の授業の開始を告げる鐘の音が鳴った。

 野村秋は一人、誰もいない教室の中で、鞄から教科書とノートと筆箱を出して、授業を受ける準備をした。

 一時間目の授業は秋の苦手な数学だった。

 秋は一人、誰もいない教室の中で前回の授業の続きから、数学の勉強を始めた。

 静かな教室中にはかりかりと秋の動かす、ノートに計算式を書き込むシャープペンシルの音だけが、聞こえていた。

 やがて、ぽたっという音がして、秋の机の上にある、数学のノートの上に一粒の液体がこぼれて落ちた。

 それは秋の目から流れ出した涙だった。


「……う、」

 と秋は言った。

 絶対に泣かないと決めていた。

 でも、泣いてしまった。

 あまりにも悲しくて、あまりにも心が、胸が痛くて、……辛くって、秋はついに泣き出してしまった。

 一度泣き出すと、秋の涙は止まらなくなった。


「うっ、う……」

 秋は手に持っていうたシャープペンシルを机の上に置いて、小さく震える両手で、その顔を覆うようにして、その場で声を押し殺すようにして泣き始めた。

 せっかく書いたのに、ノートの計算式は秋の流した涙で滲んで読めなくなった。


 どうしよう?

 ……どうしよう、祭くん。

 私、涙が止まらないよ。

 悲しくって、辛くって、全然止まってくれないよ。

 ……ねえ、どうしよう?

 私、これからどうすればいいの? 祭りくん。

 お願い。

 ……助けて。祭くん。お願い。誰か、私を助けてよ!! ……助けてよ、……祭くん。


 秋は心の中でそう叫んだ。

 でも、その秋の叫びは結局、『誰の心にも』届かなかった。

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