第2話

ベーコンエッグを食べるレイラとリアム。トマトスープを飲むサラ。

その様子をじっと見るリアム。

「サラさんは、ベーコンエッグ食べないんですか?」

「ええ、最近食欲がなくてね」

 プッと笑うレイラ。

「リアムね、お母さんが私を食べるために育ててるって思ってるの。魔女だから」

 焦ってベーコンを口から落とすリアム。

「ばか! なんでいうんだよ!」

「え〜だって面白いんだもん」


 表情を硬らせたサラは手が止めた。

「嘘だよね?」

 レイラが聞くと、サラはトマトスープを置いて、ふ〜と息を吐いた。

「やっぱり、あなたを泊めるべきではありませんでしたね」

 テーブルがガタガタと音を立て、置いてあったフォークとナイフが浮いた。

「え?」

 レイラの顔に一抹の不安が過ぎった。

「レイラ! 逃げろ!」

 椅子を倒して立ち上がったリアムがレイラの腕を掴んで走り出す。

戸を開けようとするが、レイラが抵抗して立ち止まった。

「嘘でしょ? お客さんが来たから、ちょっと脅かしてるだけでしょ?」

サラを見つめるレイラの声は震えている。サラの髪は逆立ち、目は赤く光っている。ナイフが飛んできて、レイラの横をかすめた。

「レイラ!」

リアムがもう一度腕を掴んで外へ走り出す。


すっかり晴れた空の映る水溜りを避けながら、リアムはレイラの手を引きながら山道を転がるように走った。


「急ごう。このまま行けば街に出る」

「街はダメ! 街は危ないって」

「それは魔女がついた嘘だ!」

 手を振り解いて立ち止まるレイラ。


「嘘じゃないもん! お母さん言ったもん!」

 レイラの目には涙が溜まっていた。

「レイラも見ただろ! 完全に君を襲おうとしてた。あれはもうお母さんなんかじゃない」

 涙を流して、リアムを睨む。


「嘘つきはリアムだ!」

 来た道を戻って走り出すが、石に躓いて転んでしまった。

「時間がないんだ!」

 リアムも走ってきて叫んだ。

「……時間?」

「いいから早く!」


 腕を掴んで起こそうとするが、リアムの腕に力が入らない。

リアムの体が白く光りだした。

「ああ。もうダメだ……」

レイラは何かを諦めたような表情のリアムを見つめて固まった。

「いいかいレイラ。この道をずっとまっすぐに降っていくんだ。そうすれば街がある。街は安全だし、人は優しい。絶対に小屋に戻ってはダメだ」

「リアム……?」

リアムはもう全身から光を放ち、半分透けている。


「今まで嘘をついてきて、ごめんね」


 涙をためたまま、笑顔でリアムは消えた。

代わりにそこには黒猫が現れた。レイラをひと舐めして、山道を登っていく。遠くに見える家の屋根は少し吹き飛んでいた。


「お母さんの、嘘つき……」


 レイラは泣きながら坂を下った。

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最後の魔法 Miya @Mi_ya

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