第4話 戸惑い



「私は......誰なんだ」






男の口から咄嗟に口に出た言葉だった。






男には何も思い出せなかった。


何故森で倒れていたのか、何をしていのか。そして自分の名前さえも。








少しの間が空いてから、男は答えた。 








「多分......私の名はケヴィン......だと思う」






「多分とはどういうことなんだ?」






「上手く説明出来ないのだが......頭に唯一残ってる名前なんだ」






「本当か?何も思い出せないのか?」




アロフは懐疑的な目をケヴィンに向けた。






「アロフ、無理もないわ。あれだけの傷を負っていたんだもの」






「傷......そういえばさっきもケガをしてたと言っていたね。私は傷を負っていたのかね?」






「あ、それは......」




ソフィは言葉を詰まらせた。






「ごめんなさい。なんでもないの。気になさらないで」






 (........?何か余計な事を言ったか?)








ソフィは話を続けた。






「あ、そうだ。ケヴィンさん...でいいのかしら?しばらくこの家にいてもいいのよ。行く宛もないのでしょう?」






「おい、ソフィ。今回は仕方なかったが、いくら何でも男をずっとお前の家に置いておくわけには」






「彼の言う事はもっともだ。.........気持ちは嬉しいが」






「あ、じゃあアロフの家はどう?!」




ハレルは目を輝かせながらそう答えた。






「ハレル、なぜそこで俺に話を振るんだ......。俺はソフィの頼みだからここまで付き合ってるだけなんだぞ」






「だってダメって言い始めたのはアロフじゃない。それにアロフとケヴィンさん、二人ともなんとなくだけど気が合うと思うの」






「なんだそれは......」






「ね?お願い!私達も色々手伝うから!いいでしょ?」




ハレルは手を合わせながら懇願した。アロフは頭を抱えながら答えた。






「腑に落ちん........。............わかったよ。ケヴィンさん。しっかり村のこと、手伝ってもらうぞ」




アロフは観念した様子だ。


一連の流れをみてケヴィンはとても申し訳なさそうに、うなだれていた。






「やった!ありがとうアロフ!」




ハレルは嬉しそうだ。






「アロフ、ありがとう。私も嬉しいわ」






「......そうか」






「あら、まんざらでも無さそうじゃない?」




ソフィはアロフをからかうように答えた。






(この状況を作った張本人だが......彼らはここまで私の為に......。)








「......ただし。水を刺すようで悪いが、まずは村長がなんて言うか、だが」








「「あっ」」




 時が一瞬止まった。








「すっかり忘れてたわ。きっとケヴィンさんの意識が戻ったと知ればまたここにやってくるでしょうね......少し頭が痛いわね」






ケヴィンは状況を察した。




(ここは村なんだな。そしてその長と皆は私の事で何か話があるのだろう)




「すまない。私の事で何か話があるんだね」






「......ごめんなさい。あなたを責めているわけじゃないの。私達はあなたが無事でいてくれて嬉しいのよ?」




ソフィは謝った。








「さてさて、この話は一旦おしまい!お腹減ってると思っていっぱいソフィと料理作ったんだから!みんなでご飯たべよ?」




ハレルは重苦しい空気を一蹴した。






「そうだな、こんなに張り切った食事、しばらくなかったんじゃないか?」






「フフっ。ハレルも頑張ってくれたからね」








自分は何をしたかったのか、何者なのか。ケヴィンの失ったものは大きかった。


だが、ケヴィンは彼らのような人間と巡りあわせてくれたことを神に感謝した。




_______






食事も終え一息ついたその時、


ソフィの家のドアをノックする音が響く。

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