VRMMOのキャラ名の大事

加部川ツトシ

ゲームを始めてみたら

「おっしゃ! ようやくスタートだ!」


 西洋風の町並みに降り立ち、思わずそんな事を叫んでしまう。おっと、思った以上に大声になってしまって注目を集めてしまった。……なんかちょっと笑われてる気がするのは気のせいか?

 ちょっと悪目立ちしてしまったので、少し位置を離れておこう。しょうもない理由で笑われるのも居心地は良くないしな。


「それにしても哲也はまだか……?」


 周囲を見回してみても、一緒に始めた友人の姿は見つからない。さてはキャラメイクに拘り過ぎて、時間かかってるな? まぁこのゲームはキャラ削除が出来ない代わりに、課金アイテムでキャラメイクのやり直しや育て直しは出来るらしいしな。余計な金を使いたくないから、初めから気合を入れているんだろう。

 俺はデフォルトで自分自身のリアルの顔を元にちょっと弄った程度ではあるからな。でもまぁ気持ちは分かるから、もう少し待っておこう。



 俺は今、大人気のVRMMORPGを始めたばかりである。品薄で入手するまで半年以上かかったけども、今日ようやくログインする事が出来た。良くある剣と魔法のファンタジーのゲームではあるけど、王道を外していないという事で人気自体は高いんだよな。

 お、何やらかなりのイケメンがこっちに近付いてきたな。もしかして、このキャラが哲也かな?


「おっす、待たせたな!」

「やっぱり哲也か。随分とまぁイケメン設定にしやがったな」

「おうよ! ゲームなんだから、好きなようにしないとな! それはそうとオンラインゲームで本名は禁止な?」

「あ、そりゃそうだ。えーと、名前は何に……」


 哲也のキャラ名を見てみれば、そこにはアキラとあった。おいおい、最近流行りの漫画の主人公の名前じゃないか。うん、それ自体は別にいいんだけどさ……。


「……そうか、名前はアキラか」

「別に名前は好きに付けていいだろ……って、ちょっと待て! お前もアキラじゃねぇか!?」

「あー、うん、まぁな」


 そう、哲也が言うように俺もアキラという名前を付けていた。いや、だってさ、キャラ名は重複可能だったし……。まさか、一緒にやろうと思っていた友人とキャラ名が被るとは……。

 いや、大丈夫だ。見た目は全然違うし、お互いを呼び合う時には特に問題はない!


「まぁ、名前が被ったくらいなら何とでもなるか」

「そうだよな。頑張っていこうぜ、アキラ!」

「そうだな、アキラ!」

「……ぶっ! やっぱ変だってこれ!」

「あっはっは、確かにな!」


 お互いにお互いをアキラと呼び合ったら変なものである。まぁ、これくらいなら笑い話になる程度だけどね。さて被った名前を気にしていても仕方ないから、どんどん進めていこう。このゲームをするために半年も待ったんだしね。


「おーい、アキラ!」


 そんな時に誰かから声をかけられた。まだゲームを始めたばかりなのに、声をかけてくる人なんているのか?


「「……誰だ?」」


 そして哲也と反応が思いっきり被った。……なるほど、他にも近くにアキラという人がいるのか。


「アキラって呼ぶんじゃねぇよ! 他のアキラ連中まで思いっきり振り向いてんじゃねぇか!?」

「いや、そう思うなら名前変えてくれね? 課金アイテムで名前を変えれるだろ?」

「あれ、地味に高いんだよ! なぁ、元アキラ?」

「俺は今はケインだよ! アキラって名前のやつが多すぎるんだよ、このゲーム!」


 どうやらアキラの人数は多いらしい。……キャラ名、失敗したかな?


「ぷっ、またやってるよ……」

「これで何度目だよ、アキラ騒動」

「アキラの人、挙手!」

「おらよ!」

「え、はい」

「クスクス、はーい!」

「俺も!」


 その挙手の掛け声に合わせて悪ふざけのように周囲の人達がどんどん手を上げていく。そして、その人達の名前を見ていけば全てアキラであった。……うん、どう考えてもアキラが多過ぎる。

 

「……悪い、リアルの名前で呼ぶぞ。哲也、名前変えない?」

「……そうだな。これはいくらなんでも多過ぎる……」

「……だよな。名前変更の課金アイテムっていくらだっけ?」

「……今見たけど、5000円だとよ」

「高!?」


 名前変更だけで予想以上に高い値段だったけども、流石に多過ぎるアキラの数に紛れる気もしない。いや、普通に困るでしょ、この人数の同名キャラってさ!? でも逆にネタとして楽しんでいる人もいるっぽい……。



 そうして俺と哲也は余計な出費と分かりつつも課金アイテムで名前を変えた。キャラメイク担当のAIに苦情を言いながら、重複しない名前をチェックしながらである

 課金アイテムでキャラメイクのし直しや強化のし直しが可能という事になっていたけど、キャラを削除が出来ない仕様はかなり仇になっていた。


 オンラインゲームで無制限に好きな名前が付けられるというのも、場合によっては相当問題があるらしい。見た目で判断すれば良いんだろうけど、数が多ければそれにも限界があるというものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VRMMOのキャラ名の大事 加部川ツトシ @kabekawa_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ