この夏において

夏ってこと

大きなアラームの音で目が覚めた。

起き上がってぼうっとする。



寝起きがいいというのが俺の数少ない長所であるが、夏だというのもあるのだろう。冬はこうもいかない。


小さく開けた窓からは心地よい海風が汗ばんだ肌をなめ、うみねこがきゃあ、きゃあと鳴く。


こんな朝はランニングでもして一日のエンジンをかけよう。

そう思って支度を始めた。



ランニング用に揃えた服をたんすから出し、まだ少し眠たい目を擦ってゆっくりと袖を通す。


上は半袖でオレンジっぽい蛍光色の吸汗速乾シャツ。下は通気性のいい黒のショートパンツだ。つまりなかなか走りやすそうないい感じのやつである。


俺はカタチから入るタイプなので、ランニングを習慣にすると意気込み、ウェアとランニングシューズもセットで購入した。


だが結局こうして気分の乗った日にしかできず、何ならただの散歩になっているときもある。我ながら不甲斐ない。



そんなことを考えながらも自分の部屋のリトルオーシャンビューに別れを告げ、急な階段を降り、洗面所で顔を洗い歯を磨く。清潔感はいついかなる時も重要である。たとえ一人で散歩、、いや、ランニングするときにもね。


諸々の支度を終え、都会では珍しいだろう引き戸の玄関をガラガラと開け、まだ暑さが控えめの時間帯の外に出る。家の前の道路の反対側には小さな公園があり、そこでウォーミングアップをしようと思ったところで、木の陰から見知った人が見えた気がした。


公園に入って広場に出ると、そこでは俺と似たような格好をした女の子が伸脚をしていた。ちなみに下はピチッとしたやつを履いている。暑くないのか。


彼女も俺に気づいたらしく、会釈をしてきた。声をかけようか迷ったが、別に無視をする理由もないのでなるべく気さくに声をかける。


「おはよう。早いね、木崎さんもランニング?」


彼女は少し迷ってから


「風馬くんおはよう! うん、、、 ダイエットのために今日から始めようと思ってたんだけど、部活辞めてからぜんぜん運動してなかったから、今日は歩くだけにしようと思ってる」

と言ってはにかんだ。


というのも、彼女はもともと女子バスケの圧倒的エースとして有名で、中学生にして県内で有数の有名人であり、選抜にも選ばれていた実力者だったが、何故か高校はバスケでの推薦を蹴って鳩山高校に来た。またこれも何故かは知らないが、今はどっかの文化部に入っているらしい。


つまりいまいち掴みどころのない人だ。


俺は不思議な人という印象を持っているが、彼女には友達も多く、ファンも多い。悪い人ではないだろう。



そんなほとんど関わりのない俺が、一つ確信を持って言えるのは、彼女の容姿が抜群に良いということである。

170センチの高身長に適度に細くて長い足、透き通った白い肌に、控えめなボディーライン。ショートカットの黒髪は、俺の好みにどストライクである。


そんな美少女に朝から会えるなんて今日はラッキーだなんて思いながら


「俺も今日は早朝の涼しいうちに少しウォーキングしようと思ってたんだよね~」


と俺が下心まるだしの誘いの準備を進めようとしたら、まさかの木崎さんが、からっとした笑顔で言った。


「ほんと?じゃあ一緒に歩こうよ!風馬くんにちょっと聞きたいこともあったし」


「おっけ あ 飲み物忘れたから取ってくる。ちょっと待ってて」

といって振り向き家に走る俺。後ろから返事が聞こえてくるがそれよりも何よりも、この超展開に驚きを隠せず、早まる鼓動を抑えるのに必死なのであった。



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