予知夢使いのギルド職員

黒うさぎ

第1話 予知夢使いのギルド職員

 予知夢。

 それは未来の出来事を夢に見ることができるスキルだ。

 誰もが1つスキルを授かって産まれてくるこの世界で、俺が授かったスキルこそ予知夢だった。


 未来の出来事がわかるというのは凄く便利に思うかもしれない。

 しかしながらこの予知夢というスキルは、そんな都合のいいスキルではない。

 なにせスキルを発動するためには寝なくてはならないし、その上夢を見ないといけない。

 さらに見ることのできる未来も自分で選ぶことができない。


 この歳になるまで夢を見た回数だけ予知夢を発動してきたわけだが、わかった未来といったら次の日の天気や晩御飯のメニューといった、どっちでもいいようなことばかりだった。

 多少ましだったものでも、精々ギルド職員の採用試験に合格したことを発表前日の夜に知ることができたという程度のものだ。

 数あるスキルの中でもハズレといって差し支えないだろう。


 さて、この予知夢で見た夢の内容についてだが、実は干渉することができる。

 例えば次の日の夜に酒場でオーク肉のステーキを食べる夢を見たとする。

 なにもしなければ俺は確実にオーク肉のステーキを食べることになるだろう。

 しかしここで俺が酒場に行かずに宿で定食を頼めばこの未来を回避することができるのだ。

 もちろん全ての未来に干渉できるわけではない。

 雨が降るとわかったからといって、晴れにできるわけないのだから。


 そんなハズレスキルを持つ、しがないギルド職員にすぎない俺だが、今日ばかりは平静ではいられなかった。

 予知夢を見たのだ。

 それも天気や晩御飯のようなちゃちなものではない。

 人の命に関わる、重大なものだった。


 ここロイスの街からほど近いところにあるガタ村が、明日の昼に魔物の群れに襲われるのだ。

 夢では襲われたガタ村の人たちは抵抗むなしく皆殺しにされてしまっていた。


 あまりに衝撃的な夢の内容に、初めは自分でも本当に起こる未来なのか確信が持てなかった。

 しかし、これまで俺の予知夢が外れたことは一度もない。

 その事は俺が一番よく理解していた。


 幸いガタ村が襲われるまでまだ1日の猶予がある。

 ギルド長に頼んで冒険者を派遣してもらえば、ガタ村の人たちを助けることができる。


 こうしてはいられない。

 俺は足早にギルド長の部屋を目指した。


 普段はまったく役に立たないこのスキルだが、今回は大手柄といってもいいだろう。

 あの怒りっぽいギルド長も今日ばかりは誉めてくれるに違いない。

 もしかしたら特別ボーナスを出してくれるかも。

 そう考えると足取りも軽くなる。


 人の不幸で 喜ぶのは不謹慎かもしれないが、まだ起こっていないことなのだ。

 これくらい許されるだろう。


 目的の部屋につくと軽くノックして中に入る。


「ギルド長、至急お伝えしたいことが」


 資料を眺めていたギルド長が顔を上げる。


「何かあったのか?」


「予知夢を見ました。

 明日の昼にガタ村が魔物の群れに襲われます。

 至急冒険者を派遣して下さい」


「それは本当なのか?」


 ギルド長が目を細める。


「俺の予知夢が一度でも外れたことがありましたか」


 ギルド長は腕を組むと、しばしの間目をつぶって沈黙した。


「……わかった。

 すぐに手配しよう。

 魔物の構成はわかるか?」


「ゴブリンとオークだけでした。

 ただ数がいたのでできればCランク以上のパーティー、Dランクなら3パーティーはいた方がいいと思います」


「そうか。

 確かCランクのエルヴィンのパーティーが暇をしていたはずだ。

 指名依頼を出すとしよう。

 リット、よくやった」


(よくやった?

 まさかそれだけ?)


 あまりにそっけないギルド長の態度に焦る。

 このままではボーナスが貰えないのでは?


「ありがとうございます。

 それでですね、ギルド長……」


「なんだ、まだ何かあるのか」


「今回、ガタ村の人々を救うことができました。

 いえ、まだ救っていませんが、冒険者さえ派遣すれば問題なく解決するでしょう。

 自分でいうのもなんですが、これはなかなかの手柄だと思うんですよ」


「ふむ、確かに大手柄だな」


「ですよね!

 ですから手柄を立てた部下には何かあってもいいのかな~って」


「はぁ、お前な。

 お前だって部下がしたことに対して、俺がこれまでどう対応してきたか知っているだろう?」


 笑みをたたえたギルド長がこちらを見てくる。


「!

 ですよね!

 さすがは我らがギルド長。

 すみません、俺としたことがつい先走ってしまって。

 つまりボーナスを……」


「ああ、そうだ。

 俺は手柄を立てた職員にはちゃんとボーナスを出してきたよな」


「ありがとうございます!」


 俺は深々と頭を下げた。


「そして職員の失態に対しては、減給をもって対応してきたはずだ」


 突然ギルド長室の温度が下がった。


(おや、流れがおかしな方向に向かっている気が……)


「ギルド長、いったいそれはどういう?」


「リット、予知夢を見たあとすぐに俺のところに来たか?」


「もちろんです!

 人の命に関わる大切なことですから」


「そうだよな、お前はそういう男だ。

 ところで確かこの時間のお前の業務は、裏で依頼の整理だったよな?」


「そうですけど……」


「じゃあどうして仕事をしているはずのお前が予知夢を見ることができたんだ?」


「それは……、その……」


 冷や汗が頬を伝う。


「お前のボーナスは仕事中に居眠りをしたことで帳消しだ」


「それはあんまりですよ~~!!」


 リットの悲痛な叫びがギルドにこだました。







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