君と過ごした時間

メトロノーム

君と過ごした時間

初めて君と出逢ったのは、春。桜が咲き誇り、柔らかな季節だった。


誰も近寄ろうとしない俺に、声をかけた君。ずっと一人だった俺は、戸惑いながらも嬉しかった。

話すことが苦手な俺。だけど、君は嫌な顔もせず話してくれる。


優しくて天使のような君は、皆んなの憧れ。そんな君が俺のそばにいて笑ってくれる。

夢のようだけど、確かに君はそこにいた。


二人並んで歩く帰り道は、いつもの道なのに違って見える。

君の声、君の姿が美しくて瞳をそらす。

誰かとこうして歩くなんて、思っていなかったから。でも、すごく楽しかった。


君と話すことに慣れてきた頃。君の笑顔が、たくさん見られるようになった。

俺の話に笑ってくれる君。幸せな日々。


そんなある日。君に誘われ、二人で遊びに行くことになった。

服なんてどれを着ていけばいいのか分からない。けど、すごく嬉しかった。


結局、普通の私服を着て行った俺。待ち合わせの場所に着く。

少しの間待っていれば、君が駆けてきた。

そんな君の姿に目を奪われる。とても可愛くて、本当に天使だった。


誰かと遊ぶなんて初めてで緊張する。きっと君と二人だから余計に。

君と入ったのはゲームセンターだった。


色々なゲームがたくさんあって、君と一緒にやったんだ。

どれも楽しくて、時間はあっという間にに過ぎていく。もう帰らなければいけない時間。

君は最後にプリクラを撮ろうと言って、俺を連れて行く。


初めて入るプリクラ機の中。俺が戸惑っていれば、君が笑う。

そして、君は慣れた手つきでボタンを押していく。


機械から声が聞こえ、君は俺を引き寄せる。

画面に映る二人。撮られた写真に写る俺は、カメラを向いていない。

君が笑う。それにつられて俺も笑った。


次々に撮られていく写真。ポーズを決めて君と撮る。

そして出来上がった写真。とても良く撮れていた。君と二人、写真を半分に分ける。

思い出も二人分け合った。


帰りの電車の中。君と二人並んで座る。

それまで意識しないようにしていたのに、胸が高鳴り始めた。

静かな車内に響く電車の音にまざって、俺の胸の鼓動も響いている。


肩に重みを感じて横を見れば、君が頭を乗せていた。

疲れてしまったのか、眠れる森の美女のように眠っている。君の綺麗な寝顔は、本当に天使だった。


この空間には俺と君、二人しかいない。二人の世界が作られる。時が止まったように。

俺の胸の高鳴りは止まることを知らない。


電車の揺れた勢いで、君の体が反対側に傾く。とっさに君の体を俺の方に抱き寄せる。

君の香り、君の体温が伝わってきて、俺の頭を痺れさせる。

ずっと、このまま時間が止まっていてほしいと強く願った。


あの時、やっと気づいたんだ。自分の気持ちに。でも遅かった。遅すぎたんだ。

もう君はいない。過ぎ去った時間はもう戻らない。


あの時、俺の気持ちを伝えられていたら。

君は応えてくれただろうか。いや、きっと応えられなかったはずだ。

君にとって俺は「友達」「女友達」だったんだから。


俺がもし「女」じゃなかったら。「男」だったとしたら。

君にこの気持ちを伝えられただろうか。君にこの気持ちを言えただろうか。


出会った時から、君は俺を理解してくれていた。俺のことを考えてくれていた。俺のことを分かってくれていたんだ。


今までの人生の中で君だけだった。俺のことを本当に想ってくれていたのは。

もっと早く気づけばよかった。自分の「想い」に。


君のくれた言葉、温もり、全部覚えている。忘れてなんていない、忘れたくなんてないんだ。君のあの笑顔も。


君は覚えてくれているだろうか。俺のこと、俺といた時間を。

きっと覚えていないかもしれない。


それでもいい。君の時間に俺はいた。その事実は変わらない。そして、俺の時間にも君がいた。


君の中で、俺は「男」じゃなかった。

君の中で、俺は「恋愛対象」じゃなかった。

君の中で、俺は「女」だった。

君の中で、俺は「女友達」だった。


確かに俺は「男」じゃなくて「女」だ。けど、「心」は誰よりも「男」なんだ。

でも、俺の「恋」は一方通行。伝わらない「想い」


「俺が君を幸せする」とそう言えるのなら、言いたいよ。けど無理だから。幸せに出来るのは俺じゃない。


「君は今幸せですか?」

「幸せに過ごしていますか?」

いいんだ、君が幸せなら。幸せに過ごしているなら、それでいい。


俺の時間の中に、君がいてくれたこと。

君の時間の中に、俺がいたこと。

それだけで、俺は幸せなんだ。


君と過ごした時間は、俺にとって大切な宝物。あの時間も、あの笑顔も、輝いてる。

俺の記憶の中で、光り輝いているんだ。


君が全部くれたんだ。君が全部教えてくれたんだ。

「人を好きになることの大切さ。好きな人への想いの大事さ」を。

君と過ごした時間の中で...





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