第1話

 その夢を見始めたのは・・・いつだったかな。もう覚えてはいない。

 うん? そうだよ。もう長い事、ほぼ毎日その夢を見続けているんだ、自分は。


 しかも、とても現実的でね。

 夢って言うと、空を飛んだりバケモノに追われてたり、あとはヒーローになって活躍したりを思い浮かべがちだけど、そんな内容じゃあない。

 むしろ、やたら現実と同じ事ばかり。

 年齢もずっと現実と同じ年齢だったよ。中学生の時には中学生、高校に入ればその晩に入学式の夢を見たっけな。


 最近見た夢の中の自分も、これまたどこにでも居る平凡な高校生さ。

 成績は中の上で運動神経はあんまりよくない。友達は多くないけど、居ないって程じゃあない。っと、そういえば友人も現実と同じような面子ばかりだった気がするな。

 あんまりにも現実に忠実な夢なもんだから、夢を見てもすぐには夢だと分からない事も結構あるんだ。

 見慣れた自室の天井を見ながら目覚めて、「あれ? 今は夢の中? それとも起きたのか?」なーんて、ちょくちょく混乱するよ。笑えるだろう?

 とにかくそんな感じで、本当に現実の延長戦みたいな夢なんだ。


 でも夢と現実の明らかな違いが、たった一つ在ってね。

 知っての通り自分は一人っ子だが。夢の中の自分は、両親以外に兄が居る四人家族なんだ。


 この、今の自分との決定的な違いである兄。これがまぁ優秀な人だ。

 幼い頃から、頭脳明晰、スポーツ万能。オマケに性格も良い。でもちょっと教室内でバカ騒ぎをして教師に怒られることもある・・・まぁ、いわゆるクラスの中心人物、スクールカースト一軍って奴だね。

 教室の隅で少ない友人と駄弁るのが好きな自分とは正直気が合わないけど、別に嫌いじゃない。クラス単位での行事などでは仲良くするが普段は基本関わりがない、って程度の人間関係を築くタイプの人だよ。


 でも、それが家族。しかも自分とは二卵性の双子だとね。離れられないし、どうしても比べられやすいって言うか。

 周囲からはよく「似てない」だの「兄はあんなに優秀なのに」だの言われてたよ。


 あぁ、両親に言われたんじゃないよ? 親戚や教師、クラスメイトに言われたんだ。

 むしろ両親は「双子だって違う人間なんだから、似てなくても当たり前だろう」ってスタンスだった。兄も自分も平等に愛されていたと思うよ。

 ただまぁ、いい事で褒められる、悪ければどこを間違えたか見直すように叱られる。運動で活躍すれば褒められる。そんな普通の事を普通にしてるだけだとね。結果的に出来が良い方が、そりゃあ多く褒められるのは当然だよね。

 両親は何も悪くないよ、むしろ普通の人なんだ。

 強いて言うなら、兄は両親の良い所だけを、自分は悪い所も受け継いだけの話でさ。


 ・・・なーんて。夢の事だから客観的に見られるけどさ。

 実際にそんな身内が居たら、あんな奴嫌いだ、って腐りたくなるよな。

 夢の中の自分もそんな感じだった。

 でも、兄は本当に悪い人じゃないんだよ。

 だから、夢の中の自分は凄くモヤモヤしながらも、兄を嫌いにはなりきれず。

 複雑な思いを抱きながら成長していったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢オチです 月下雪人 @yuki_0223

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ