20話 最近、強くなった太陽風のせいかも知れない

『サマルカンドへ至る道』



ただ広い草原が広がっていた。

人類が居た頃は、ベットタウンの住宅街だったはずだが、火災や自然災害の結果、今ではその痕跡すら残ってなかった。


車道から、かなり離れた場所には、幕が張られていた。

一見すると、遺跡調査をしているように見えなくもなかった。


ソフィーたちの車両は、まるで何かの機材の様にブルーシートで覆われたいた。

古ぼけた作業用の机の上の古いラジカセから、古い歌謡曲が流れていた。


コーリーのお気に入りのこの赤いラジカセには、暗号通信機やら暗号解読機やらが詰め込まれている。


そして、このカセットテープを再生出来る機器は、絶滅危惧種だ。


「だからこそ、秘密に最適なのだ!」


コーリーは力説した。

当然、秘密通信する相手も、再生機を持っていなければならず、そんなもの数千年見た事はない。


この惑星のどこかにコーリーと秘密通信出来るアンドロイドがいるのだろうか?


「レベル5の太陽風警報が出とると。

思考回路や機体の誤作動に注意ばい」


ラジオのDJが告げた。無法ラジオだ。

過去の遺物のラジオに関しては、法規制すら存在し無くなっている。


太陽風は電気機器やアンドロイドの機体の故障の原因になりやすい。


「太陽風警報だって」


ソフィーは言った。デューカは、青空に輝く太陽を見上げた。

最近、太陽風は徐々に強さを増していた。


このまま際限なく強くなっていくと、この惑星の思考回路のすべてが暴走しながら破滅するだろう。


きっとコーリーは歓喜しながら破滅し、ソフィーは涙しながら破滅に向かうのだろう。


その時、デューカは....とりあえず、ソフィーの手を握っておこう。と思った。


もし自分が、ソフィーを壊してしまおうと、ソフィーに壊されてしまおうと、5000年も付き合っていりゃ、そんな事どうでもいい。側に居れればいい。

人として死んだときも一緒だった。


太陽風が強いからと言って、それを知覚できる訳ではないが、思考回路を構成する半導体が、ミスを起こし暴走しやすくなる恐怖は、無視するのが精神衛生上の知恵だ。


強い太陽風が吹く中、遺跡調査隊に偽装した幕の下でアンドロイド達が、重機で地面を掘っていた。


コーリーが手配した者たちだろう。

サマルカンド地下を流れる地下水路を探ってるらしい。


「5000年前の地下水路が使えるのか?」

「少なくとも道は通じている」


デューカの問いに、コーリーは答えた。


幕内で潜水仕様に改造されたアローン兵は、見た目はもうアローン兵ではなく、亀だった。


「これ、カッコいいか?」

「可愛いじゃん」


ソフィーは答えた。

「地下水路から、こいつが出てきたら、安いホラー映画だぜ」

「面白いじゃん、映画化されたら一緒に行こうね」

「こんな映画には誰もいないぜ。きっと」


とデューカは言ったが、年千年ぶりかのデートのお誘いに、心は躍った。

サマルカンドへは、12の部隊に別けて進入することになった。


その一隊が、亀の様なアローン兵による地下水路進入部隊だ。




『宇宙ステーション・アントン』


アントンの管理官ケイは自室に、側近のヤーシャを呼んだ。


「『人類をアントンに収容せよ』と評議会議長から直接命令が下った。

ヤーシャ、君があの宇宙船に乗っている人類達を説得して、連れてきてはくれないか?」


「人類をアントンに収容?」

「惑星レアで反乱の兆候が確認された。軍の一部も加わっているらしい。

評議会議長はその反乱分子が人類を手に入れる前に、人類を飼いならしたいらしい」

「先日、事故に見せかけて葬ろうとしたばかりじゃないですか」

「状況が変われば、命令も変わるさ。現場はそれに従うだけだ」


今度は、惑星レアで反乱の兆候。


ケイは氷山に入った亀裂を想像した。

最初は小さな亀裂が、いずれ氷山を真っ二つに破壊してしまう光景を。


そんな事を思ってしまうのは、最近強くなった太陽風のせいかも知れない。



つづく


あけまして おめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。O(≧∇≦)O イエイ!!

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