19話 眠りとは言えない眠り。

『首都・記憶管理局』


陸軍のカーン少佐は、記憶管理局の西側にある政府要人用の一室で目を覚ました。


「私がここにいると言う事は、誰かが私を破壊したと?」

「詳しい事は、後ほど担当の者にお聞きください」


抑揚のない声で記憶管理技士は言った。

そして、カーン少佐の記憶が、将校専用の機体への移送を確認すると、機体の拘束を解いた。


「多少、動きが鈍いな」

「移送当初は、鈍く感じることがありますが、三日ほど経てば、しっくり来るようになります」

技師は何億回は言ったであろう言葉を言った。


側に控えていたスミス中尉は、カーンの動きを確認すると抑揚のない声で告げた。


「少佐、評議会議長がお待ちです。」

「了解した」


カーン少佐とスミス中尉が、出て行き部屋は無音になった。


「永遠に続く停滞と永遠に続く退屈」


無音の部屋で、記憶管理技師は、無音の部屋に少しでも音を満たそうと呟いた。


「今日の仕事はこれで終わりだ」


無音の部屋にその音が響いた。

誰かが聞く事もないその音は、記憶管理技士にとって絆の様なものだ。


音を出すことによって、自分が生命であることを、自分に言い聞かせる。

音によって生命と維持できているような気がする。


部屋は再び無音になった。


記憶管理技士は、自らの電源を切り、休息に着いた。

夢を見る事ない眠り。眠りとは言えない眠り。


それは自身が機械であることを、再確認してしまう行為と言える。


「わたしの存在は、意味があるのだろうか?」

意識のどこかで呟いたような気がした。



つづく





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る