4話 ブリキのおもちゃは、まんざらでもないらしい・・・

『西都・サマルカンド』


青色の街の至る所に、首都から派遣された装甲騎兵が、警戒を強めながらパトロールをしていた。


その様子を見下ろす、鉱物資源企業団公社ビル最上階の総裁室で、コーリー博士は、ソファーの座り心地に感動していた。


高価で繊細な作りのアンドロイドのみが、感じられる高級感だ。


「評議会は、今回の反乱の背後に、公社が関わっていると感づき始めたようです」


コーリーは、珍しい顔した公社総裁に言った。


公社総裁の顔は、ロボットなのだ。

遠い昔、最新のコンピューターが、家庭用のゲーム機未満の性能しかなかった頃に、人間が思い描いたロボット。あの四角い顔のロボットだ。


身体もそれに見合った造りだ。


公共の風俗を乱さない範囲なら、どのような容姿にするのかは、其々の自由だが・・・


ブリキのおもちゃの様な総裁は答えた。


「巡航ミサイルの発射には、我々は直接は関わってはいない。

あれは基地内の不満分子の仕業だ。今回の装甲騎兵の派遣はその件だ。

その程度で我々にまで手が及ぶことは無いはずだ」


大型のテレビモニターには、人類を乗せた宇宙船が上昇していく様子が映っていた。

何度もニュースで流され続けた映像だ。


ブリキのおもちゃの目は、ニュースに視線を移した。


「あの人類には、総裁が手を差し伸べなければ、行き場所などありません。」


巨大な利権を握っている特権階級のブリキのおもちゃに、コーリーは言った。


コーリーの言葉に総裁は、ロボットダンスの様な動きをした。


相槌?

何かの感情のジェスチャー?

もしくは、ふざけているのか?

もちろん、ブリキのロボットの表情からは、何も読み取れない。

完ぺきなポーカーフェイスと言ってよい。


ブリキのおもちゃの目は、コーリーに向けられた。


「人類に手を差し伸べれば、議長を敵に回すことになる。

そうなれば、あっという間に下にいる装甲騎兵が、セラミックの足で我々の記憶装置を粉々に踏み潰す。

所詮、出来たばかりの一般アンドロイド集団に過ぎん民兵組織では、装甲騎兵の足元にも及ばん。それは発電所の件で、お前もよく解っているはずだ」


テレビモニターの中で、ニュースキャスターが、悲愴的なコメントをしていたが、無音のモニターからは、何も聞こえなかった。


「ソフィーを、我らの陣営に引き入れて見ては・・・」


「お前が消耗品扱いしたアンドロイドの?」


「何かを成す為には、消耗品は戦略上必須です。

私はそういった意味で、消耗品として扱ったのです。

そして、すべての戦線で勝ち続ける事など、不可能です。

どこかでは捨て駒も必要です」


「お前が民兵に引き込んでおきながらの、捨てた消耗品を、今更引き込めるのか?」


「例え、この惑星最強のアローン兵を取り込んだ所で、電力と物資の補給が無ければ、アローン兵と言えども、ただのセラミックとカーボンの塊に過ぎません。

背に腹は変えられません。

あのアンドロイドはそう言う状況判断が出来る、アンドロイドの様に、見受けられました。」


「勝手だな」


>自らの手を汚さない奴が何を言う!


コーリーの思考回路に、そんな文字列が並んだ。

しかし、音として出力された言葉は別だった。


「アローン兵1万2千機・・・総裁も欲しているのではありませんか?

在れば・・・我々が望む新しい時代作り出せます」


ブリキのロボットの表情は、まんざらでもない顔に見えた。


この総裁室のやりとりをアレム神父は、窓の下に広がる青の都市サマルカンドを見下ろしながら、聞いていた。




つづく


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る