3話 ねえ、私の参謀ちゃん♪

『首都』



正午過ぎの首都上空を、人類を乗せた宇宙船が、静かに上昇していた。


ちょうど昼休みに入っていた首都のアンドロイドたちは、太陽の光を浴びたその姿を見上げた。


花屋の前で仕事をしていたサクラも、その姿を見上げ、人類の美しい少女の姿を思い浮かべると心がときめいた。


評議会議長室から、その様子を眺めていた評議会議長は、思考回路の奥から湧き上がる、イラつきを抑えていた。


回路内の思考など、電気信号のやり取りに過ぎない。

と解っていても、イラつくものはイラつく。


「しかし、人類はどこに行く気でしょうか?」


議長秘書は少しでも、そのイラつきを和らげようと、言葉を掛けた。


秘書の表情は、美しく柔らかかった。

思考の冷静さ維持するために、作らせたアンドロイドだ。


その意図を察した議長は、落ち着くため3秒間、そのアンドロイドを見つめた。そして、「さあ」とだけ、相槌を打った。


僅かな感情の乱れで、この権力を手放す訳には行かない。

権力欲に獲り付かれている。自分でも自覚をしていた。


人間の時は、権力など見向きもしなかったのに、議長は自嘲した。


自らの思考回路に搭載されているAIによるものなのか、しかしアンドロイドと生きて、自身がAIであると意識することはない。


自分はあくまで人類時代の延長の存在。

そう信じている。


しかし・・

もしかすると・・・

だとすると・・・・


「自分を形成するプログラムを疑う?」





『首都郊外・地下鉄遺跡』


ソフィーも首都上空を上昇する宇宙船を見あげた。


「ねえ、私の参謀ちゃん♪あれは誰の意思?」

「ねえ、私の参謀ちゃん♪」と言われた参謀の思考回路は、クラッシュした。


『私の』が参謀の小さな感情領域には、刺激が強すぎたのだろう。しかし高性能なアローン兵の思考回路は、1秒未満で復旧した。


参謀は、高性能な自身の思考回路を自慢したかったのかも知れない。

すぐに復旧したキリッとした目で、ソフィーを見た。


参謀の思考回路内の事情なんて知らないソフィーは、何の反応も示さなかったが。


参謀は少し凹んだ。そして自他について少し学んだ。


アローン兵とは言え、まったく感情がない訳ではない。

通常のアンドロイドの1000分の1程度の感情領域は、確保されている。


感情を完全に0にしてしまっては、支障をきたすと判断されたためだ。


「あの宇宙船は、あの宇宙船を占拠しているアローン兵が、コントロール化においてあるはずです」


「それはそのアローン兵の意思なの?

アローン兵は人工知能を搭載していない訳だから、意思は無いはずじゃない?

そもそも、あの宇宙船を占拠したのは誰の意思?」


参謀は完全に言葉に詰まった。


ソフィーは参謀の思考回路を探ったが、そこには必死で答えを探す参謀のプログラムしかなかった。


「いずれその意思の存在も確かめないとね」


人類を乗せた宇宙船が、入道雲の中に消えて行くのを、見ながら、ソフィーは参謀に告げた。




つづく 



いつも読んで頂き、ありがとうございます。(⁎˃ᴗ˂⁎)



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