5話 あなた、地味な格好してるね
『大気圏外』
人類の少女は宇宙船の窓から、少しでも平常心を保とうと、水の惑星を見下ろした。
ブリッジの奥から、2機の機械の兵隊が、少女の背丈を軽く超える盾を持って近づいてきた。
機械の兵隊に取っても、宇宙船ブリッジ内で、鉢植えが爆発するとは想定外だったのかも知れない。
宇宙船ブリッジには、身を挺して爆発を最小限に抑えた機械の兵隊の破片が、散らばっていた。
爆発物は、今、破片になっている機械の兵隊の犠牲的な行為がなければ、すくなくとも少女は死んでいた。
機械の破片とかした犠牲的な機械の兵隊は、誰にも弔われることもなく、ただ機械の破片として、清掃用ロボットによって、片づけられ始めた。
少女の両脇では少女を守る、黒い装甲を纏った機械の兵隊が、微動だにせずに立ち尽くしていた。
それは、まるでセラミックとカーボンで出来た、置物の様に見えなくも無かった。
「この先、どうするつもりですか?」
少女は尋ねた。
黒い置物の様な機械の兵隊は、制止したまま何も答えなかった。
先程まで、撒き散らしてあった消火剤はふき取られてはいたものの、爆風で吹き飛ばされた備え付けの家具は、破壊されたままだった。
それを、少女は「子ども達には見せられない。」と思った。
この機械の兵隊が敵なの?
味方なの?
宇宙港で起こった爆発は事故だったの?
私達を狙ったもの?
あの星は私達を受け入れるの?
拒絶するの?
今おかれている状況が、何1つもわからないままの、少女は、小さくため息をつくと、冷たい宇宙空間をじっと見つめた。
両脇で少女を守る二つの盾は、白く柔らかで、まるで少女を包んでくれてる様な、優しさを感じた。
『サマルカンド・路地』
デユーカが警戒しながら細い路地を歩いていると、路地の横に建っていた3階建ての建物が巨大ロボットの様に動き出した。
「なんじゃこれ?」
さらに、3階建ての巨大ロボットの中から、一回り小さなロボットが現れ、そのロボットからさらに一回り小さなロボットが現れ・・・最終的には、1メートルくらいの小さめのアンドロイドが現れた。こいつが本体らしい。
その小さなアンドロイドはデユーカに言った。
「何見てんだよ!見せもんじゃねーぞ!」
見せもんじゃなーのかよ!
いくらサマルカンドが自由だからって自由過ぎだろう。
大通りに出ると、今度は全身赤色のアンドロイドが声を掛けてきた。
「あなた、地味な格好してるね」
デューカに声を掛けてきた、そのアンドロイドが、ヒューマノイドとして、どこか変だとは思った。
すると、そのアンドロイドは、目の前で、乙女の様な曲線の美しいスポーツカーに変形した。
「変形すんのかよ!」
「あなたも、もっと自由を謳歌しなよ♪」
スポーツカーは、そう言うと、颯爽とどこかへ走り去って行った。
「さすが自由都市サマルカンド、慣れない俺にはまだ自由過ぎるぜぃ」
アンドロイドのメンテナンスに対する労力と、政治力と資金が無ければ、出来ない改造だ。実際、かなり面倒くさい。
商都サマルカンドは、統制が厳しいこの惑星に置いて、最も自由な雰囲気を醸し出していた。
都市に集まる富の力が、評議会の統制力に抗していた。
「しかし、なんで、こんなに装甲騎兵がうじゃうじゃいるんだ。めんどくせえ」
デューカは、怪しまれない程度に歩く速度を速めた。
背後で、装甲騎兵が
「そこのアンドロイド止まれ!」
とデューカに対して制止命令を出した。
「なんで、俺?
他にもおかしな奴なんていっぱい居るじゃん、俺が最もまともと言っても良いのに、ん?もしかして逆にまとも過ぎるのか?」
変態だらけの中に、まともな奴がいたらそりゃ目立つか!
デューカは聞こえない振りをしながら、路地裏に向かった。
「止まれ!」
再び装甲騎兵が大声を上げた。
その声に危険を感じたデューカは、路地裏に向けて全力で走り始めた。
背後でデューカを狙ったものと思われる、複数の銃声が聞こえた。
すぐ側で、何がが弾ける音がした。
「威嚇射撃なしかよ」
しかしその銃撃も、戦場での銃撃に比べれば、かなり大人し目ではあった。
つづく
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