20話 その麗しさに心を躍らせた。
宇宙港に着くと、大柄なアンドロイドは、関係者用ゲートから入るように、サクラに告げた。
花屋の軽トラックがゲートに近づくと、警備員が
「通行証を」
と機械的に言った。
機械的に言動を繰り返すとアンドロイドは、完全に機械化した存在になる。
思考回路の奥にあるであろう『心』を、見失うと、アンドロイドは少しずつただの機械になっていく。
どれだけのアンドロイドが『心』を失くしたのかは、外見上からは解らない。
でもアンドロイドが心を失うのなんて簡単な事。
サクラの隣に乗っている大柄なアンドロイドが、
「ご苦労、この車はいいんだ」
と言うと、ただの機械に成りつつある警備員は慌てて敬礼をし、素早くゲートを開けた。
慌てた警備員は、瞬時にアンドロイドらしさを取り戻した。
それ以降、花屋の軽トラックは、スムーズに宇宙港を駆け抜けた。
一般アンドロイドなら、「テロを防ぐ為だ」とか、「安全の為だ」となんやかんや手続きがあって、数時間はかかるはずだ。
宇宙港の管制塔に近い建物で、大柄なアンドロイドに止まる様に言われ、サクラは車を止めた。
「少々時間が掛かりそうなので、あちらのロビーでお待ちください。」
大柄なアンドロイドの口調は丁寧では在るが、威圧的な雰囲気を漂わせ始めた。
車を降りると宇宙港の離着陸場には、あの人類を乗せた宇宙船が停泊していた。
見た感じよくある普通の円盤タイプだ。
宇宙船の周りには黒い装甲のアローン兵が、物々しい警備をしていた。
今、話題の2大スターの登場に、サクラは目を輝かせた。
20分ほど待たされた後、大柄なアンドロイドが、給水車両を伴ってやって来た。
「お待たせしました。あの宇宙船に、花を運び入れてもらえませんか」
「人類に?」
「お願いします」
まさかの事態に、サクラの心は躍った。
サクラは給水車両と伴に、花屋の軽トラックを宇宙船に横付けした。
機銃を構えたしたアローン兵が、近づいてきて軽トラックの中を覗いた。
「新鮮な水と、我が惑星に咲く花を贈りに来た。作為は無い」
大柄なアンドロイドは、無言の圧力を帯びた口調で言った。
その無言の圧力を、アローン兵が理解したとは思えなかった。
アローン兵は淡々と車内検査を始めた。
彼らは、大柄なアンドロイドとは、違う威圧感を発していた。
機械的に破壊を繰り返す事が出来る者に対する恐怖だ。
サクラは、アローン兵から視線を逸らそうと、窓の外を見た。
すると、宇宙船の窓から事の成り行きを見つめる、
人類の少女の姿を見つけた。
「あれが人類」
サクラは、その麗しさに心を躍らせた。
つづく
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