2話 アンドロイドの胸騒ぎ
『評議会議長室』
【安全装置が解除された様です】
深夜2時過ぎに、美しい秘書アンドロイドから手渡されたメモには、そう書かれていた。その情報に、議長も多少躊躇した。
この場合の安全装置とは、アンドロイドに秘密裏に内蔵されているプログラムの事だ。この安全装置プログラムによって、ある一定の範囲を超える喜怒哀楽の感情は、自動的に削除される。
もちろんその存在を知るアンドロイドは、政府中枢の一部に限られている。
反乱分子の発電所襲撃は、予想以上に惑星首都のアンドロイドたちの思考回路に不安と不信を植え付けたのだろう。
安全装置が効かないアンドロイドが、惑星中にいると思うと、多少なりとも恐怖を感じる。
深夜3時、慌てた内務次官の声が、議長室に響いた。
>こいつも安全装置が外れた輩(やから)か。
「議長、タタール発電所が反乱分子の襲撃を受けています」
内務次官・・・優秀な官僚だが、それ以上ではない。
表面上の事しか知らされない官僚が、どういう反応をするのかを知るには適切な人材だ。
議長の元には、幾つものルートで表にはでない情報が幾つも上がってくる。
偽情報もあるのは事実だが、その中から真実を見極める力が、自身の権力を維持していると言う自負が、議長にはあった。
「議長、鎮圧のご命令を」
議長は、首を振って「今は動くな」と制した。
「しかし、首都の電量の60パーセントはあの発電所から、送られてきています。
それが止まれば首都機能に重大な障害が発生します」
>40パーセントも絶賛稼働中だ!
>それだけあれば、政府中枢には影響はない!!!
しかし、この官僚はうんざりするほどの正論を言う。
敵が拠点を攻撃した。だからその拠点へ増援を送る。
そんな事、敵の予想範囲。
それは敵の罠に飛び込んでいくような物だ。
「鎮圧に派遣した部隊が、逆に首都を襲うとも限らん。
宇宙港での特殊機械兵の反乱原因が掴めぬ以上、今は動けん」
「しかし・・・・」
内務次官は怯えた表情した。
安全装置の解除によって、不安の制御が出来ずにいるらしい。
この程度の反乱で、これほどの表情を示すのは可笑しなことなのだが、議長自身も胸騒ぎがするのは事実だ。
>私も安全装置が外れたのか?
議長は、それを踏まえて、さらに冷静さを保つように気持ちを引き締めた。
しかし、それだけではない意味不明な胸騒ぎがするのだが・・・
『アンドロイドの胸騒ぎ』と言う表現なのかは解らないが、それ以外、表現のしようがなかった。
その不可解な胸騒ぎが、この惑星の支配階級全体に広がっていた。
安全装置の件も原因は、あの人類のせいだろう。
>忌々しい。今更、人類に怯えてどうする?
議長は、不安げな内務次官に向かって、
「心配するな、あの発電所で反乱分子は一網打尽に、粉々にしてくれる。
発電所など後で幾らでも作れる。
発電所の警備兵には悪いが・・・
彼らには敵を引き付けるだけ引き付けさせて、後は反乱分子ごと発電所を自爆させる。反乱分子の全てとはいかんが、主力部隊の壊滅ぐらいは出来る。
電力に関しては、すでに手を打ってある」
「そう言う事なら・・・・」
「アローン兵の反乱原因の調査を急がせろ。」
内務次官が退室すると議長は呟いた。
「厄介な・・・・」
怯えが、部下の正常な行動を阻害する。
>故に安全装置の再起動を急がねばならない。
>私の権力が脅かされる前に手を打たねばならない。
つづく
いつも読んで頂き、ありがとうございます。O(≧∇≦)O イエイ!!
【アンドロイド】
評議会議長 惑星政府の最高権力者 権力への執着は強い。
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