20話 華やかな武士団と無難な支配者デューカ
沈黙する神父に、コーリーは話を続けた。
「首都の電力の60パーセントは、あの発電所から供給されています。
我々機械は電力が無くなれば、動く事も考える事もままならなくなります。
我々があの発電所を制圧した上で、評議会と交渉すれば、あの人類に似た生命体の追放も、思いとどまらせる事も可能でしょう」
「そう簡単に行くとは思えん」
アレム神父は、そう言ったが、表情は微かに変化していた。
コーリーは、言葉を続けた。
「この反乱には、サイン・コサイン・タンジェントがついています。」
「サイン・コサイン・タンジェント?三角関数?」
アレム神父は、数学用語の羅列に思考回路がぶっ壊れそうになった。
人類時代から数学は大嫌いだったのだ。
驚愕の表情に変わったアレム神父に関して、コーリーはあらゆる可能性を思考したが結論は出なかった。そして、
「まあ、見ていてください。」
と言うに留めた。
発電所制圧作戦と同時に、宇宙港制圧作戦も計画されていた。
発電所が本命で、宇宙港は陽動だ。
発電所の管理官が無能だから、反乱軍に制圧され、宇宙港の管理官は有能だから、制圧を阻止する。
評議会に忠誠を誓った発電所の管理官は、抹消され、反乱軍に通じた宇宙港の管理官は、昇進し、政府中枢へと上り詰める。
コーリーに聞かされたシナリオだ。
「さすがコーリー博士、灰汁(あく)どいな」
とソフィーの相方のデューカは笑った。
その程度で「灰汁どい・・・」と思う、デューカの甘さに、ソフィーは笑った。
反乱軍を主導して起きながら、ソフィーは冷たい視線で、この反乱を眺めていた。
この反乱は成功しない・・・・諸々が、甘く稚拙すぎる。
だとしても、あの人類に似た、か弱き生命体に対して、何も行動を起こさない自分を許せない何かが、記憶装置の奥底にあった。
その何かは、人だった頃の肌のぬくもり、人として滅びてしまった悔しさ。
そんな諸々の哀愁を呼び起こさせた。
この反乱が失敗する可能性が大きい以上、その後の為に、政府中枢へ希望の種を植え付けておくべきだろう。
【発電所・第一ゲート前】
完全に違法な重装甲を纏ったアンドロイドたちは、誇らしげにその雄姿を自慢し合っていた。まるで人類時代の華やかな武士団と言ったところだ。
一体幾らかけているんだか解らないほどの高額なのは、素人でも解った。
中には戦車に変形できるものもいた。
これらはすべて違法な装備だし安全性を無視した危険な装備もある。
コーリーから資金援助を、言い値で受け取っているはずだ。
「READY」
無線機からソフィーの声が聞こえると、華やかな武士団はゲート前の、対アンドロイドと対戦車バリケードを睨んだ。
「GO!」
号令が無線から聞こえてきた。
各所の狙撃ポイントから援護射撃の銃声が響く中、装甲を付けたホィールローダーがゲートに突入し、バリケードを取り除いた。
援護射撃に守られ、完全に違法な重装甲を纏った華やかなアンドロイドたちが、ゲートに向かって突入した。
「アローン兵は味方だ!撃つなよ!」
ソフィーは無線に向かって叫んだが、反応はなかった。
苦笑すると、銃撃の爆音の中ソフィーの思考回路は孤独なアローンについて思考した。特殊機械兵をアローンと呼び始めたのが誰だかは解らない。
『嫌われて孤立しているから』と言うのが定説だ。
躊躇せずに、アンドロイドたちの大切な記憶装置を、踏みにじる冷酷さが、嫌われる一つの要因だ。
意思機能が搭載されていないのだから、躊躇しないのは当然だなのだが。
評議会直属の精鋭部隊のアローン兵が、評議会を裏切って反乱軍に味方するのかは不明だし、本当に反乱軍の側に着くのかも、確信はない。
現場では、不確定要素が多々あるのは仕方がない。
ソフィーの側で機関銃をぶっ放していたデューカは
「この状況で、どれがどれだかわかんねーよ」
と叫んで、乱射を続けた。
敵アンドロイドは機械の破片と化した。
無難なデューカ。
アンドロイドたちは、姿形を自由に選択できる。
好きな髪型、好きな顔、好きな身体。
姿形において、このデューカは全てが無難なのだ。
人だった頃からの習性なのだろう。
デューカは機関銃の弾幕によって、戦場を支配し、敵はその動きを完全に封じられた。弾幕を放つセンスがあるのだろう。
その支配は、無難の極みだった。
危険を試みず勇敢に戦う敵。抜群の戦闘力を持つ敵。
統制を見出し1人目立とうとする敵。
戦場で英雄的な振る舞いをする敵は、無難じゃない!と見なされ、無難な支配者デューカの弾幕よって、粉砕された。
「無難に生きていれば、砕かれずに済んだものを!」
しかし、無難なデューカも、ソフィーの前では勇猛果敢な戦士を装いたがる。
勝手なアンドロイドだ。
発電所の警備兵は、無難な弾幕の援護に守られた華麗な武士団によって、粉々に砕け散った。
「第1ゲート沈黙、突入するぜ!」
デューカは叫んだ。
「後詰が来るまで待て!」
ソフィーは止めたが、
「俺達が制圧する前に発電所ごと爆破されたら、元も子も無いんだろ」
と突撃部隊とデューカは第1ゲートへと突入して行った。
「統制の取れた部隊だこと」
銀色の髪のアンドロイドは笑った。
1章は、今回で終了でございます。\(^▽^)/
ここまで、読んで頂き、ありがとうございます。m(u_u)m
2章も、お楽しみ。(^-^)/
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