(第二回)陸上戦艦【ラーテ】

『何もかもが規格外である陸上戦艦ラーテ』






【まず、ラーテとは…】



ドイツが開発・製造した超重戦車としては、重量188tのマウスや140tのE-100が知られています。

しかし、陸上戦艦の異名を持つラーテの規模はこれらの超重戦車をはるかに凌ぐ、重量約1,000t、全長35m、全幅14m、高さ11mという桁違いのもので、主砲はシャルンホルスト級戦艦の主砲塔である28cm 3連装砲から中砲を省いた連装砲塔を搭載する予定であった(連装砲塔にした理由は重量削減の為とも言われている)


このように誇大妄想的な兵器が計画された要因として、ドイツ陸軍は実際に80cm列車砲「ドーラ」という口径80センチの巨大列車砲を実用化しており、技術的にも実用面からも充分に可能である、と考えられていたことが挙げられる(ちなみにラーテとはハツカネズミより大型の鼠などの事を指す。要はマウスよりも巨大戦車を作れるぞと言うクルップ社のポルシェに対する当てつけのネーミング)


80cm列車砲には、軌道上を移動する列車砲ではなく陸上を移動できる「自走砲」化の計画があり、ラーテはこの延長線上で計画されたものであろうと考えられている。

しかしドイツでは、本車を更に凌ぐ重量1500t級の超巨大戦車すら構想されていた。


開発にはこういう経緯があります。

当時のドイツはある面においては技術が突出しており、なにしろ艦船用の16000PSディーゼルエンジンがすでに量産中で、戦艦から下ろして余っていた28cm砲の転用に困ってもいました。重量1000tなら馬力荷重は16ps/tなのでパンターの15.7ps/tを上回る高速戦車になりそうなのでラーテ計画はすんなり承認されてしまいます。

50tをはるかに超える車重を持つ本車の場合、軟弱地盤にはまって行動不能になることや、機械故障や戦闘損傷で走行不能になった際の回収作業が困難になることは明白であり、1000t・1500t級の超巨大戦車が完成したとしても、道路や橋がその重量を支えられるはずもなく、故障・損傷時の対処は事実上不可能になっただろうと推察される。

ティーガーI重戦車の実戦での運用結果から、1944年にはラーテはP1500と共に計画中止とされ、構想のみに終わってしまいました。


ここまでは周知の事実かもしれませんが、このラーテは意外と深いのです。




【ラーテの知られざる事実】


実はラーテは最初からシャルンホルスト級の主砲を使うと考えられていた訳では無く、むしろ第一次大戦の戦艦砲塔を使った30.5cm の沿岸砲塔とかが話に出てた模様で、1942年秋にはP1000超重戦車の最初の設計が示されます。主砲塔は流用ではなく新造で砲は先述の30.5cmの湾岸砲塔でした。副砲もまた艦砲系で、駆逐艦の12.7cm連装砲を2基搭載予定でした。

この副砲は戦車にしてはまあまあ仰角が取れるようになる予定で、これは対空射撃もさせるつもりだったようです。

しかし鈍重な12.8cm連装砲(正式な名前は12.7cmですが実口径は12.8cmなのです)では航空機に追随できないと考えられ、代わりに2cm機関砲の追加が検討されました。

1942年9月後半には新しいP1000案が提示されますが、ここでやっと28cm砲の話が出てきます。

2月に巡洋戦艦グナイゼナウが爆撃されて砲塔を損傷、これに伴い38cm砲への換装計画が持ち上がるのですがそれはさておき、ともかく砲塔が外されたので、これをラーテに回そうというわけです。

しかし、軽量化など様々な問題を抱え、駆逐艦の砲塔を持ってくるのは諦めることになります。副砲塔としては12.8cmの代わりに潜水艦用8.8cm砲はどうか、と検討されたり。これなら確かに遥かに軽量ですが、でも対空能力はほぼ皆無だったり…


ラーテは狂気めいた非現実的な構想と思われがちですが、意外にもこの時点までは作られる可能性はあったようです。ただしクルップ社に余計な仕事をかけないよう軍需大臣シュペーアがあらゆる努力を払ってやめさせたとのこと。大体1942年末とのことで、ラーテ計画自体は1年も生きてないです。

ラーテと先程名前が出たP1500は、どっちも超重いという事で同じ括りに入れたくなりますが、全然違うジャンルの兵器なのです。


グロッテ技師のラーテに対する構想は元々あくまで装甲自走沿岸砲ですから。戦車戦なんかはしません。そして沿岸砲であれば、直撃はまあ諦めるとして、砲爆撃の弾片を防げればまずは十分です。計画上、車体長35m 幅14m 車体高6.5mのラーテに200tの装甲を貼るとすると、これ全周30mmの上面10mmとか、その程度の厚さにしか出来ません。びっくりするほど軽装甲なのです。しかし、30mmもあれば超大口径の至近弾破片以外は大体安心なはずです。


そうやって必要最低限の装甲厚に落とすことで巨大でありながら普通の戦車並みの機動力を確保して、敵襲が予想される沿岸地域に素早く持っていける。それが計画上ではラーテのやりたかった事なんでしょう。

よく勘違いされがちですが、ラーテは敵を蹴散らしながら進撃する移動要塞ではないのです。

シャルンホルストの武装を流用する計画があったからといって、別に防御力もそれに準じるとは限らないです(ちなみにWikipediaさんは砲塔の装甲にそのまま準じてるみたいですが…)そもそも砲塔は作り直しなのです。元の砲塔は単体で750tもあり、真ん中の一門抜いた所で到底不可能です。




【まとめ】



ラーテは実現可能性のない妄想めいたプランみたいに考えられがちですが、それはラーテをマウスの延長線上にあるものと考えるせいかも知れません。前線で撃ち合うつもりの超々重戦車では確かに1000tってのはいかにも…って感じですし

しかし、実際ラーテはマウスの延長線上にある超々重戦車ではなくて、あくまで装甲が施された自走沿岸砲なのです。

そうなると使われ方は大分変わってきます。最前線で塹壕などを踏み越える必要はないし、自領内で使う物なので強力な支援も受けられる。となると案外成立し得る物だったのかもしれません。

どちらかと言えばP1500のほうが従来のラーテのイメージに近いかもですね。装甲自走臼砲ではありますが、計画上では対空砲塔とか火炎放射器も付く予定だったみたいですし…

ラーテは分厚い装甲で弾きながら要塞とか蹴散らす超重戦車では無いのか…とがっかりする気持ちも分かりますが、ドイツは他にちゃんとそういうのも計画してたらしいのです(詳しくはご自分で調べてみて下さい)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る