(第三回)列車砲【80cm列車砲】
【文字通り巨砲、レールを走る戦艦】
まず、80cm列車砲を語る前に列車砲とは何か、軽く説明を……
同じ巨砲を搭載する戦艦では、その主砲の口径の大きさが話題に上がりますが、歴史上もっとも大口径の火砲が据え付けられたのは、実は戦艦ではなく、鉄道車両です。
砲を運搬する列車の、貨車をそのまま砲台にし、火砲として使用する「列車砲」という発想は、鉄道の発展と共に生まれました。古くは1861年から1865年にかけての、アメリカにおける南北戦争時代にはすでに原型があり、要塞攻撃のために使用された記録があります。19世紀末の1890年代には欧州の各国がこの兵器をこぞって研究し、第一次世界大戦では列強各国が戦場に配備します。
第一次世界大戦中の列車砲の運用の様子については、当時の日本の新聞でも知ることができます。ヴェルダンの戦いやソンムの戦いなど、欧州で激戦が続いていた1916年の新聞には「フランスが欧州戦役において列車砲なるものを攻城戦や反撃のために砲撃として使用している」とあります。またその有用性については「輸送が軽快で、射撃のための準備が少なく、いたるところで戦闘をして、瞬く間に砲を隠すことができる」とかなり評価しています。
それがあってか、日本軍は満州に砲口径が24cmの列車砲を配備していました。しかも、この列車砲は大和型戦艦に搭載されていた46cm三連装砲より射程が長く、日本軍で実戦配備された砲の中では射程が最長でした。しかし、残念ながらこの列車砲は戦況悪化により爆破処分されてしまいました。
…まぁ、今回紹介する80cm列車砲は輸送が軽快でも無いですし、瞬く間に砲を隠す事も出来ませんがね。
今回紹介する80cm列車砲はクルップ社が製造したもので「ドーラ」「グスタフ」の二門が完成してます。ちなみに三門目は未成です。
ですが、この列車砲は何も目的が無いのに製造した訳ではありません。フランスとドイツの国境にマジノ線というフランスの要塞による防衛線があり、ドイツ軍が堅牢な要塞を攻略する為に製造されました。
ただ残念な事にこのマジノ線、ドイツ軍はベルギー側から迂回して攻略、更にはそもそもマジノ線攻略時に80cm列車砲が完成して無かったのです。
結局マジノ線攻略から約半年後、ようやく80cm列車砲の一番砲「グスタフ」が完成、その約1年後には二番砲の「ドーラ」が完成しました。
ちなみに80cmという砲口径、カノン砲としては世界最大なのですが、それを上回る砲が実は存在します。
第二次大戦時にアメリカ軍が試験していた迫撃砲はなんと砲口径が91.4cmあり、これが砲口径としては世界最大です。
【80cm列車砲の運命】
さて80cm列車砲は完成後、しばらくの間は試験のみで実戦に赴くことはありませんでした。
初の実戦は1942年の夏にあった、ソ連軍の要塞攻撃です。
この際に、一番砲のグスタフは要塞に対して48発もの砲弾を撃ち込んでます。グスタフの戦果としては、地下30mにある厚さ10mものコンクリートで防御された弾薬庫を破壊、更には敵砲台にソ連軍戦艦から下ろされて備え付けられた砲塔に命中弾を与えるなど世界最大の列車砲の名に恥じない功績を残してます。
そんな世界最大の列車砲、威力は確かに絶大でしたがその反面、欠点も存在しました。
・砲身寿命が短い
・1時間に三発ほどしか射撃出来ない
・砲を移動させてから射撃出来るまで数週間掛かる
・砲の操作に莫大な人員を使う
こんな感じに大きいが故に扱う側も大変だった訳です。
例えば砲身寿命が短い話、100発ほど射撃したら旋条の摩擦により約400tもある砲身を交換しなければならなくて、非常に大変だったのが分かります。
次に砲の操作に莫大な人員を使う話は、砲の操作だけで約1400人、整備や砲の防衛などにも兵士を配置しないといけないですから、実際は約5000人ほどの大人数で運用していた訳です。
更に砲を移動させる場合、砲弾の輸送には専用車両砲弾を装填するのにも専用の昇降機が必要、極めつけには運用するのに鉄道用のレールを8本も敷設しなければならなかった事です。
莫大な人員と時間を掛けて準備をしなければならない80cm列車砲、準備してる間にも戦況は変わる訳で、せっかく発射準備出来たのに戦況が変わった事により撤収なんて事例もあったとか
結局、連合国軍に鹵獲されるのを恐れてグスタフもドーラもドイツ軍の手によって爆破処分、残骸のみが連合国軍によって発見されました。
【まとめ】
今回紹介した80cm列車砲、戦果を挙げた事には間違いありませんがやはりその大きさが故に冒頭で出てきた「輸送が軽快で、射撃のための準備が少なく、いたるところで戦闘をして、瞬く間に砲を隠すことができる」これには残念ながら全く当てはまりませんでした。
ですが、ロマン満点であるこの兵器は実戦参加出来ただけ幸せなのかもしれません。
ちなみに80cm列車砲、潜水艦用のディーゼルエンジンを搭載した自走型として総重量約1500tほど(計画のみで終わった陸上戦艦ことラーテの重量は約1000t)の開発計画があったり…
これの何が恐ろしいかと言いますと、その開発計画が承認されてた事です。
とは言っても、当時のドイツ軍の技術力をもってしても無謀な計画である事には間違いないですし、どこまで計画が進められていたかは謎です。
世の中の珍兵器まとめ(改) 艦本式 @kan_hon_siki
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