第7話
「なあ、ソフィー」
「どうかしましたか?」
私と仲良くしてくれている騎士様が、珍しく顔を不安そうに歪めて声をかけてきた。彼の頭上には変わらず『ナイスバディな雄っぱい』がこれでもかというほどに主張している。いつも明るく、ムードメーカー的な存在でもある彼が、こんな表情をするなんて本当に珍しい。
「行くのか、帝都に」
「……僕には村を守るという目的があります。あの村には、僕よりも幼い子どもたちだって、少ないけれどいるんです。僕は、そんな子たちのためにも未来を切り開きたい。そのためなら、僕は何だってします」
この世界に転生した時に現実を嫌というほど見せつけられた。ここがボタン一つで切り抜けられる世界でないことも、知っている。村にいる家族たちが、現実で存在する人たちであることも、もちろんわかっている。
だからこそ、私は、私ができる最大限のことをしなければならない。私には何の力もない、あるのは精霊師としての力だけ。この力があっても大きな武力の前には歯が立たない。
「心配だよ。お前みたいな可愛い顔をしたやつはすぐ狙われるから……」
「ん?」
「いいか、ソフィー。知らねぇ奴に声をかけられてもついて行くなよ? 身なりがいい男に声をかけられたら、騎士団所属だって言えよ? それでもうるさいなら、金的だ」
私は、彼の中でどんなイメージなんだ?
「僕、そんなに可愛い顔はしていませんよ。それに田舎者なんて、都会では相手にされませんって」
「いいや、帝都にはヤバい連中がウヨウヨしてる。ソフィーが狙われる!」
うわあああ、と嘆きだした騎士様に、私はどうしようかと思っていると、さっきまで違う場所にいたはずのユーイン様が戻ってきた。ちなみに彼のことは閣下ではなく、ユーイン様と呼ぶことになった。
「どうした、ヨハン」
「閣下!」
ヨハン、と呼ばれた騎士様。そこで私は、そういえばこの人の名前はヨハンだった、なんて思い出した。人の名前って覚えるの大変だね。
「閣下、ソフィーが帝都に行くのは心配であります!」
先ほど私に語った内容をユーイン様に語りだしたヨハンさんに、私は二人の方を見ることができない。絶対、ユーイン様は呆れているだろうし。
「たしかに、ヨハンの言うことは一理あるな。なら、ヨハン。お前も来い」
「へっ?」
「はい?」
どうせ笑うと思っていたら、真面目な顔で頷きだしたユーイン様。雲行きが怪しくなってきたのは気のせいだろうか。絶対笑って流してくれると信じていたのに。
「ヨハンの言う通り、お前の顔は帝都でも目立つ。それなら護衛としてヨハンを連れていけばいい。絡まれて面倒ごとになるよりもいいだろう。いいな、ヨハン」
「はっ! 拝命いたします」
ユーイン様が騎士のトップなのだろう、彼はヨハンさんの行き先を決められる立場。そんな彼が私とともに帝都へ行けと言ったら、ヨハンさんは異動するしかない。私のせいで帝都へ行かされると言っても過言ではないのが、少々心苦しい。
「……ヨハンさん。僕と一緒に行くことになりましたけど、いいんですか、本当に……」
「なぁに、構わないさ。ソフィーの行く先が、俺の行く先だ。なんたって、ソフィーは俺の命の恩人だからな」
「ヨハンさん……僕は、僕にできることをしたんです。それにあれは僕だけの力じゃない、ヨハンさんの生きたいという強い気持ちが、今に繋がったんですから」
ヨハンさんは、私が魔法治療を施した時、瀕死の状況だった。初めて会った時から仲良くしてくれていたけれど、騎士として働いている以上、傷を負うこともある。親しくしてくれた人が死ぬかもしれない、なんて状況になったあの日のことを私はよく覚えている。
ヨハンさんはあの日、必死で生きることを諦めないでいた。どれほどの傷の深さだろうと、諦めてはいなかった。少しでも私の到着が遅れたら手遅れだったのに、彼は私が必ず来る、間に合うと信じてくれた。
だから、私も諦めないで頑張れたのだ。何より、ヨハンさんを死なせたくなかった。ずっと仲良くしてくれた彼を助けられずに死なせるなんて、私にはできなかったから。
どうも、他人の性癖が見えるヒロインです。【改稿作業中】 高福あさひ @Fuji-lout
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