第6話
「なるほど、ね」
こちらを調べられるような感覚に、ハッとして頭の上に視線を向けたけれど、そこには何もない。いつも見えているはずの性癖が全然見当たらなかった。
今まで性癖が見えないことなんて、一度もなかった。誰しも知られたくない性癖があるのは当たり前で、それがないということはない。
「君、名前は?」
「ソフィアンです」
「すごく、君は魔力量が多いんだね」
「えと、あ、はい」
一瞬、自分の正体がバレたのかと思って、冷や汗が出たが、どうやら私たち一族のことまでは気づいていないらしい。とりあえず、そのことに安心するしかなかった。
「いいね、ほしいな」
「ユーイン様」
「いいじゃないか、彼はきっといい人材になる」
目の前で交わされるやり取りに、全くついて行けず、騎士様と二人で目の前の偉い人を見つめる。
「ソフィアン、軍直属の魔法治療師にならないか? 俺は君がほしい」
「ユーイン様、誤解を招くような言い方はよしてください」
即座に訂正の入る言い方、たしかにこんなイケメンに君がほしい、と言われたらドキドキもするし勘違いもする。
「僕には……目的があります」
イケメンで高身長、さらに身分も高いとなると引く手数多であろう、目の前の男性。穏やかな笑みを浮かべてはいるものの、強い圧も感じる。嘘は許さない、自分の思い通りにするという、強い意思も。
「ほう、目的と。なんでも言ってみろ」
スッと細められた目に、恐怖が襲い来るが震えを隠してまっすぐに見つめる。私の目的が達成されるということは、みんなを守ることにつながる。
「僕の村は、もうすぐ国に捨てられる、そんな地にあります。きっと国の上層部は村を消しにかかってくる。僕は、それを回避したい、村に住むみんなを守りたい。僕を信じて送り出してくれたみんなのために、僕は僕にできることをする……あなたは、僕が軍の魔法治療師になったらそれを助けてくれるの?」
助けるつもりもない、ただのスカウトなら私は断る。その思いで目的を吐露した。
「僕の村には、魔法治療師は一人しかいない。明日食べるものにも困るほどの貧しい村だ。それでも、僕の未来を考えてくれた村の人たちに、僕は応えたい。あなたが、僕の望みを叶えられるのなら、僕はあなたに従う。逆に叶えるつもりがないなら、従わない」
負けるつもりはない、こっちだってみんなの命がかかっている。目の前の人の、ただの気まぐれなら私は逃げてでも次へ行く。
「やはり、いいね。ソフィアン、君の望みを叶えよう。その代わり、俺に従ってもらう」
「わかりました」
こっそりと魔法を使って発言に嘘がないかを確認し、目の前の人が嘘をついていないことがわかったので、私は頷いた。この魔法は、私たちの一族が迫害される理由になった一つだ。
元々私たちは他者の心に作用する魔法を扱う精霊師の一族。どんな形であれ、誰かの心を操ることもできるから、あの王国から狙われた。軍事利用ができるし、心を操ることができれば、他国の侵略だってもっと容易にできるようになる。
いろいろな思惑が重なって、あの戦争が起こり、私たちは滅びることを選んだ。でも村には少ないけれど、私よりも幼い子どもたちがいる。私は、未来ある子どもたちのためにもこんな状況を変える。
「契約成立、だな。で、ソフィアンの村はどこにあるんだ?」
「……リンデ村です。ここの国境の森を越えたところにあります」
「あの地はだいぶ荒廃している土地ですね。ユーイン様、どうなさいますか」
男の人の側に立っている側近みたいな人は、すぐに村がどんな状況なのかがわかったようだ。他国にまで広がっているとなると、なかなか酷い状況なのだろう。
「ちょうどいい、あちらは俺たちに借りがある。その借りをリンデ村をもらうことで無しにしようか」
「ああ、あの件ですか。それならば、十分でしょう。しかし、渋られた場合はどうなさるおつもりですか?」
「王国としては、あの件がある限り我が帝国に強く出ることはできない。それを村一つでチャラにできるんだ。絶対に頷く、頷かなければ強請るだけだ」
あっという間に交渉の日時なんかも決まって、私の身の置き場も用意されることになった。一応、まだここにいていいとのことだが、準備ができ次第、彼について行くことになるらしい。
こんなところで重要なことを決めて行っていいのか、なんてちょっと不安だが、おそらくそれができる立場なのだろう。目の前の人は閣下、と呼ばれていたし、かなりの身分のようだ。
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