また君の顔が思い出せたなら.....

のの

第1話 彼女との出会い

あと1時間。そう思いながら僕は、白い錠剤をヨーグルトに浮かべながら笑った。きっとこれが最後の晩餐だなと心のどこかで安堵した。

錠剤を浮かべたヨーグルトを食べると、もう何もわからないくらいグジャグジャな脳と共に地下鉄の駅へと向かった。頭痛がひどい。吐き気もする。僕はそれにまた安堵した。この頭痛と吐き気達それとこの喪失感とももうお別れだと。この日だけを心望みにして今日まで生きてきた。妹を失ったあの場所で、同じように妹のところへ逝く。1年前のあの日からずっと決めていたことだ。毎日、毎日、何度も悩んだ。電車が通るたび、何度飛ぼうと思ったかわからない。何度カッターを手の感覚がなくなるほど強く握りしめたかもわからない。だがそんな日々も今日で終わる。そう思っただけで、僕と妹の1年は無駄じゃなかったと思えた。僕は地下鉄のホームが嫌いだった。目の前に電車が通る。一歩踏み出すだけで、逝けるのに逝けなかったからだ。でも今日の地下鉄のホームは違った。モノクロだったはずの電車が今日は妹のところへ連れていってくれる魔法の電車のように思えた。気付いたら駅に着いていた。降りると北口へと向かった。一歩一歩あの場所へと近づいていく。それはまるで、妹のところへと近づいていく感じに似ていた。

10分ほど歩くとあのマンションに着いた。もともと僕たちが住んでいた部屋は、事故物件だけあってまだ人は住んでいないみたいだった。

 ドアノブを捻ったが、鍵がかかっていてドアが開かない。僕の思考に何かが襲ってくる感じがした。ここまでこれほどこの計画はうまくいっていたのに。このドア一枚さえ越えればいいだけなのに—————

 いろいろ考えているうちに過呼吸になっていた。どうして屋上に上がったかはもう自分でも分からなかったが、屋上へと上がった。屋上への階段は一段一段がすごく重くて、足が鉛になったように感じた。どうしても最後の一段が登れなくて、もがいているとどこからか「そこどいてくれない?」そんな声がした。はっと我に戻って振り向くと、とても整った顔立ちの少女が立っていた。だが彼女の顔もどこか青白くて、どこか寂し気で、生気が感じられなかった。

 よく見ると彼女の身体には、たくさんの傷があった。

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