見送って

増田朋美

見送って

見送って

一年で最も寒くなる時期であった。と言っても最近は、寒くなってくれてよかったね、という声があちらこちらで聞こえてくる。それほど今年は、温暖な冬であるらしい。それが続けばやがて恐ろしい災害が起こると予言する人もいる。寒くて困ったねではなくて、寒くなってよかったねという言葉が、日本中に響き渡るのも、そう遠くはないのかも知れなかった。

その日、製鉄所はピリピリしていた。何て言ったって、今日は東大を受験する例の利用者が、いよいよ出征する日なのだ。製鉄所を管理しているジョチさんまでもが、彼女を応援するために、鉛筆をくれた。

「じゃあ、頑張って行ってきてくださいね。」

ジョチさんは、製鉄所の玄関先で、出征の支度をしている彼女を見送っていった。彼女は緊張しすぎているのだろうか、何も言わずにそのまま建物を出て行った。

「やれれ、いよいよ東大へ行ってしまうんですかね。」

ブッチャーは、やれやれという顔で、彼女が出ていくのを見つめた。

「そうしなければ、お母様に勝てないと思っているんでしょうかね。」

「まあねえ、本来の勝ちと言いますのは、そういう事じゃないと思うんですけどね。最近の若い人は違うのかなあ。親御さんよりも上の大学へ行かないと、自分は成功しないと思っているんでしょうね。本当は、そうじゃないんですけど。」

ジョチさんもブッチャーも、あーあとため息をつく。

「でも、ここで不合格でありましたら、かえって考え直してくれるかも知れませんよ。そうすれば、人生で本当に大切なものは、大学ではないとわかってくれるでしょう。」

「はい、俺はジョチさんみたいに、博学的ではありませんが、少なくとも、彼女には、東大へ行ってほしくありません。それは俺も、思います。彼女には無理だと。」

ブッチャーは、ジョチさんの話に相槌を打ちながら、そういうことを言った。と、同時に、製鉄所の中にある柱時計が10回なった。

「ああ、急いで庭掃きの仕事に戻らなくちゃ。」

ブッチャーは、急いで庭掃きの仕事に戻った。庭は結構汚くて、大量の落ち葉が落ちたりしていたため、庭を掃除するのにかなりの時間がかかった。いや、もしかしたら、彼女の事が心配で、庭掃除をするのに、時間がかかっただけかも知れないけれど。

その数時間後、利用者たちは、食堂に集まって、食事をし始めた。みんな配られた宅配弁当をおいしそうに食べていた。あの、東大受験生も、弁当を食べているだろうか。変な食あたりはしないといいなあ、なんてブッチャーは、弁当を食べながら考えていた。やがて、利用者たちが、弁当を食べ終わって、おしゃべりしながら、勉強したりしていると、

「ちょっと静かにして!」

と、一人の利用者が言った。みんな黙ったので、彼が持っているスマートフォンの音しか聞こえなくなった。

「どうしたんですか?」

みんなを代表してジョチさんが聞く。

「何か事件が起きたみたいなんです。」

と、彼はスマートフォンを見せた。ちょうどテレビでニュースをやっていた時間だった。疲れた顔をしたアナウンサーが、こんなことを言っているのが聞こえてくる。

「今日、午前11時ごろ、三島駅を発車した新幹線こだま号の車内で、刃物を持った男が押し入り、乗客一人と車掌一人が、殺害されるという事件がありました。ただいま新幹線は、運転を見合わせております。」

「11時というと、ああ、あの東大受験生が乗っていった新幹線ですよね。確か、10時36分に新富士駅を出て、10時52分に三島駅を出たはずですから。」

ジョチさんがそういうと、ブッチャーも急いで自分のスマートフォンを出して、調べてみた。確かに、11時と言えば、10時52分に三島駅を発車した新幹線が、走行しているはずだった。という事は、事件は、三島駅から、熱海駅の間を走行していたところで起きたことになる。

「とにかく、彼女に電話してみましょう。」

ジョチさんは、直ぐにスマートフォンをダイヤルした。でも、いくらかけてもだめだった。いずれも、彼女は応答しない。

「駅員か車掌さんからの連絡を、待つしかなさそうですね。」

ブッチャーと、ジョチさんは顔を見合わせた。たぶん駅は予想外の出来事で大混乱になっているだろうから、今は急いではいけない、もうちょっと待ちましょうとジョチさんは言った。

それから数十分して、三島駅の駅員さんから、製鉄所の固定電話に電話があった。やはり、彼女を迎えに来てほしいという。彼女の手帳には、自宅の番号ではなく、製鉄所の番号が載っていたため、こちらにかけたと駅員は言っていた。かなりの錯乱状態で、彼女から連絡先を聞き出すのは、非常に難しかったけど、つながってよかったとも言っていた。その駅員さんが、かなりの年を取っているような感じの人で、どこかおおらかなところがある人であったのが良かった。そういう人であったのは、幸運と言っていいだろう。ブッチャーも、電話を受けたジョチさんもほっとした。すぐ迎えに行くと言って、ジョチさんは電話を切った。

とりあえず、小園さんの車で、三島駅に向かった。ブッチャーとジョチさんが三島駅につくと、駅はごった返していた。とりあえず、犯人は逮捕されて、新幹線は運転再開したようであるが、まだ怖い気持ちがあるのか、新幹線に乗ろうとしている人はほとんどいなかった。ジョチさんが駅員に、加藤真理さんという女性はどこにいるかと聞くと、カフェで別の駅員と一緒だといった。三島駅のカフェと言えば一つしかないので、二人はそこへ向かった。

カフェに行くと、確かに加藤さんがいた。老齢の駅員さんが彼女を慰めていた。たぶん電話をくれたのはこの人だと思われる。彼女は泣きはらしていた。それと同時に駅員さんが、優しく彼女に何か言っているのが聞こえてきた。

「あ、ああ、御迎えに来てくださったんですね。なんでもこの方、お受験だったそうですね。本当に申し訳ありませんでした。すみません、私たちJRの不注意で。」

と、二人がやってきたのに気が付いた駅員は、申し訳なさそうに言った。そうか、そうなると、東大受験は、もうだめになってしまうという事だ。なんとも言えない大迷惑である。

「まあ、ああいう事件が発生してしまったんですもの、仕方ありませんよ。それより、無事でよかった。怪我でもされていないか、心配だったんです。」

と、ジョチさんは言った。事件はしかたないで終わってしまうのか。そうなると、日本の治安もずいぶん悪くなったものだ。こんな新幹線のなかで、事件が起こってしまうのだから。

「はい、彼女は、事件が起きた車両の隣の車両に居ましたので、直接けがをするという事はありませんでした。しかし、怖かったと思いますよ。隣の車両で、そんな事件が起きてしまったわけですからね。お迎えが来てくれて、良かったです。有難うございます。」

と、駅員さんは言った。

「そうですか。指定席か、グリーン車を取らせるべきでしたね。そうすれば、もっと安全に行けたかもしれません。」

ジョチさんがそういうが、こういう場合は、どこの席に座っていても、同じ恐怖を感じるものだろうな、と思われた。

「まあいい。とりあえず帰りましょう。こういう事件はどこに居ても必ずあります。アメリカに行けば日常茶飯事。仕方ないですね。」

ジョチさんは納得しているようであったが、彼女にとっては、東大を受験できなかったことは、非常に辛い出来事になるだろうな、とブッチャーは思うのであった。ただ、ここでジョチさんにアメリカほどではないと訂正を言うのは、やめた方がいいと思った。こういう時は、矢鱈と油を注ぐような行為はしないほうがいい。静かに簡潔に動くのが、一番いいのである。

「さあ、帰りますよ。泣くのは製鉄所に帰ってからでいいでしょう。」

と、ジョチさんは言って、加藤真理さんにもう帰るように促した。泣いている彼女は、静かにそれに従った。若しかしたら、暴れる可能性もあるから、ブッチャーが、しずかに彼女の肩を掴んでいた。

二人は、彼女を二人で挟むような形で並んで、小園さんの車に彼女を乗せ、製鉄所に帰った。このとき、小園さんがクラウンではなくワゴン車を用意してくれて、本当によかった。ワゴン車の後部座席は、窓を黒いシートで覆って、そとから見えないようにしてあったからだ。ちょっと護送車みたいだったけど、彼女は周りの人が見えないでいたからだろうか、泣いていたが落ち着いて車に乗ってくれた。ブッチャーは、もしもの時のために、影浦先生を呼び出すことを考えていたが、それは、必要ないとジョチさんは言った。

とりあえず、ブッチャーたちは、製鉄所についた。テレビのニュースを聞いて、心配になっていた利用者たちが、彼女を迎えに来たが、彼女がこの世の終わりだという顔をしているのを見ると、何も言わなかった。利用者たちも、矢鱈何か言ったら、余計に悪化することは経験で知っている。だから、お帰りも何も言わず、その日は、誰も彼女には声は掛けなかった。

しかし、その翌日から、大変なことになった。少なくとも誰か一人は、彼女を見張っているようにしなければならなくなったのである。加藤真理は、以前よりも増して無気力になり、もしかしたら、自殺の恐れもある、と言われるようになったのだ。入院させようかという話も出たが、彼女が絶対に自宅に電話しないでくれというので、それはできなかった。かといって、東大を受験できなかったことを、家族に話すという事もできなかった。受験の話になると、彼女は声を上げて泣き出してしまい、話をすることも碌にできないのだ。

他にも受験生の利用者はいた。勿論東大という大学を受けるのは彼女一人だったが、他の受験生たちも、彼女に考慮して、製鉄所の中では受験勉強をしなくなった。この製鉄所では、そういう利用者に対して、文句を言わないのがいい所だった。ただ、事実は事実として受け入れろという、おしえがしっかりしみついているのかも知れなかった。中にはもう合格発表の通知が届いた者もいたが、その利用者たちも、声を上げて喜ぶことはなく、みんな加藤真理に考慮して、しずかにしていた。

「みんな、寂しいというか悲しくないのかい?せっかく大学に行けるようになったんだ。もっと喜んでもいいんだぞ。」

ブッチャーは、そうしている利用者たちを見て、心配そうな顔をしてそういうのであるが、

「いいえ、加藤さんが、あんなに悲しそうな顔しているんだもん。あたしたちは、喜んではいられないわよ。」

と、別の大学に合格している利用者が言った。

「そうよ。東大なんて、日本一の大学じゃないの。それに勝る大学なんてないんだから、あたしたちは、しずかにしていますよ。」

また別の利用者もそういうのである。彼女は、先ほどの利用者に、受験のコツを静かに教えてもらっていた。ブッチャーは、それを聞いて、余計に切なくなった。

「そうかあ、でも大学受験何て、本当に、うれしいことなんだから、喜んでもいいのに。」

「いいえ、ブッチャーさん、大学に入ったなんて大したことじゃありません。あたしは、勉強したいことがあるから、その大学を受けただけなの。だから、大学に合格したって、たいして嬉しくもありませんよ。」

ある程度、年が行ってから大学を受験するとなると、こういう風に解釈する人が多くなるらしい。どこどこ大学ではなく、そこで勉強したい科目があるからという意味で受験をするようになるのだ。それが、現役生とは、一寸違うところだと思われる。

「そうそう。あたしも、彼女を見習って、何処の大学へ行くかなんて気にしてないわ。それよりも、面白い科目があるかどうかで、今の大学を決めた。」

と、二番目の利用者が言った。本当は、現役生全部がそうなってくれたら、もうちょっと受験も楽になれるのに、とブッチャーは思う。そういう選び方をしてくれた方が、東大受験生よりももっと大人になっているような気がした。

不意に、頭上から咳き込む音が聞こえてきた。

「ブッチャーさん、水穂さん呼んでるよ。」

と、二番目の利用者に言われて、ブッチャーは急いで四畳半に走っていく。もしかしたら、水穂さんこそ、東大受験性に一番近い人物なのかも知れない。

いずれにしても、加藤真理は、自殺の恐れがあるからとして、ブッチャーか、別の誰かが、常に見張り役をしなければならなくなった。可哀そうだと思うけど、自殺だけはしてはならないから、みんな嫌がらずに見張り役を代わり番子に続けていた。ブッチャーも、見張り役の利用者たちも、東大なんか行かなくても幸せになれる、と言って励ましたり、中には彼女が志望していた学部と、近い学部を持っている別の大学の案内状を、インターネットで取り寄せてくれた利用者もいたが、彼女はそのようなものにも、一切目を向けなかった。でも、利用者たちは、見張り役を嫌がらずに続けていた。

ある雨の日だった。ちょうど、見張り役をしていた女性利用者が、ご不浄に行きたくなって、加藤真理のそばを離れた。と、同時に、人がやってくる音が聞こえてくる。見張り役が、戻ってきたのかな、と思ったが、それとは音が違っている。誰だろう、と思って、加藤真理は後ろを振り向くと、にこやかに笑って、水穂さんが立っていた。右手には焼き立ての石焼き芋が握られている。彼は、しずかに、ほらと言って、石焼き芋を加藤真理の前に差し出した。

「これをどうするっていうんですか。」

ぶっきらぼうに加藤真理が言うと、

「ええ、だから、どうぞと言っているんです。」

と、力のない声でいう水穂さん。彼の弱弱しくあるけれど、にこやかな顔を見て、加藤真理は、もらわなければならないと思ったのだろうか、石焼き芋を受け取って、そっと、口に入れた。

「おいしい。」

ひとことそういう彼女だが、ふっと、涙が出てしまう。

「たいへんでしたね。」

と、水穂さんは、彼女の隣に座り、羽織を着直した。

「でも、東大受験できなくて、残念でしたね。どうしても東大へ行きたいんだって、ずっと仰っていたんですから、本当にお辛かったでしょう。」

「水穂さんにまで、そんなこと。」

と、彼女は、また涙を流す。

「いいえ、いいんです。その気持ちわかりますよ。僕も、若いころ、桐朋しか受ける大学がなかったので、それを取られたら、本当につらかったでしょうから。せっかく努力したのが、水の泡になってしまったんですものね。」

水穂さんは、そっという。真理は、おどろいた表情をしていたが、本当は心の底から望んでいたセリフを言ってもらえたので、泣いて喜びたいくらいだった。

「東大、受験しないと、お母さんに勝てないと言ってたでしょ。どうしてお母さんに勝とうと思ったんですか。」

水穂さんに聞かれて、加藤真理は、泣きながら答えを出した。

「いつも、お母さんみたいに、お母さんみたいにって比べられたから。周りの人が、お母さんがうちの中で一番偉い人みたいに奉ってて。」

「そう。それは大変だったね。」

「だって、いくらがんばっても、お母さんにはかなわないと言って、却下されちゃうんですもの。だから、おかあさんより、上の大学に行くしかないじゃない。何をしても、お母さんにはかなわないって言って、私の努力は、みんなむだになるのよ。私は、お母さんを引き立てる役柄じゃない。そういう訳で、東大に行くしかできないんだと思ったのに。」

彼女は、涙をふくこともなく、泣きじゃくった。

「そうだったんですね。でも、お母さんより上を行こうと考える必要もないと思いますよ。確かに引き合いに出されたのかも知れないけど、お母さんより上の大学というのは、必要ないんですよ。それより大事なことは、加藤さんが、毎日を生き生きと生きている事のほうが、親御さんは喜ぶんじゃないでしょうか。ただ、東大を目指してくるしむよりも、そっちの方が、よほど大切なのではないですか。」

と、水穂さんは、そういった。

「でも、私、やっぱり、今までやってきた分、おかあさんよりも上の大学へ行きたくて。」

と、真理は言って、水穂さんの回答を得ようと頭を挙げたが、返ってくるのは咳だった。水穂さんは、激しく咳き込んでいた。

「水穂さん大丈夫?」

と、真理は言うが、水穂さんは返答しなかった。代わりに、口から言葉ではなく、朱い液体が漏れた。

「水穂さんしっかりして!大丈夫?」

と声をかけるものの、真理はどうしたらいいのかわからず、そう声をかけるだけである。その時、真理さんごめんね、ちょうど、御不浄から出たら、勉強の事で質問されたのよ、と言いながら、見張り役の女性が戻ってきた。彼女は、この有様を見て、すぐ顔色を変えて、

「何やっているの!早く部屋へ連れ戻さなきゃ!」

と、水穂さんをよいしょと背負って、四畳半に連れていく。見張りをしていた女性は、水穂を急いで布団に寝かせ、口元を拭いてあげたが、咳き込むのは止まらなかった。真理もこの有様を見ていたが、彼女は、何もできなかった。ブッチャーも、これを聞きつけてやってきて、

「よし、俺、帝大さんを呼んできます。」

と、急いでスマートフォンのダイヤルを回した。その間にも、水穂さんの咳き込むのは止まらない。

少したって、帝大さんこと、沖田眞穂先生が、やってきた。もう90歳を超えている老医師の沖田先生は、確か帝大、つまるところの東京大学の出身者だったはずだ。いくら、旧制だと言っても、東大は、東大だ。それだけでもすごい人生だったんだろうな、と、真理は勝手に思ってしまう。

沖田先生は、しずかに水穂さんを診察した。咳き込んでいる水穂さんに注射器で薬を飲ませると、

水穂さんはやっと咳き込むのをやめて、うとうと眠ってしまった。これで何とか大丈夫でしょう、と沖田先生は言うのだが、しかし、絶対安静の指示は出したのに、なんで羽織を身に着けているんですかね?と聞いた。彼が一人でに、動き出すことはないので、何か理由があるはずだ、とちょっと語勢を強くして言ったので、真理はちょっと罪悪感を感じ、こう発言する。

「水穂さんは、落ち込んでいた私に、焼き芋を持ってきてくれたんです。」

そのあと、真理は言葉をつづけられない。

「はあ、そうですか。でも、なんでまた焼き芋なんか持ってきたんですかね。たぶん、近くに焼き芋屋が通ってそれを買ったと思うんですが。」

「ごめんなさい!水穂さんが、動いてはいけないといわれていたなんて、知らなかったんです。」

沖田先生の話に真理は、言葉に詰まった。

「知らなかったでは困りますな。水穂さんが、何回も喀血の発作を起こしているのを目撃している以上、安静が必要なのはわかりますでしょう。それなのになんで、焼き芋屋に走らせたりしたんです?」

と、帝大さんの顔は厳しかった。

「これ以上、発作を起こさないためにも、出来るだけ安静にしてもらいたいというのが、私たちの気持ちなんですがね。それがお分かりになりませんでしょうか?何か理由があったんですか?焼き芋屋に走らせなければならない、理由が。」

「ごめんなさい。あたしが、東大を受験できなくて、落ち込んでいたからで。水穂さん、私を慰めてくれるために、焼き芋をくれたんだと思います。」

と、真理は、泣きながらそう理由を言った。もう、帝大さんに言われた以上、本当の事を言わなければならないと思った。帝大さんこと沖田先生は、一寸溜息をついて、眠っている水穂さんの方を見たが、その顔はだんだん柔らかくなった。

「いや、君ね。」

と、沖田先生は、そっと言った。

「96年間生きて来ましたが、東大なんて出たのが役に立ったことは、一度もありませんでしたよ。」

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見送って 増田朋美 @masubuchi4996

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