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ふと、何を思ったか分からないが、彼の書斎に向かった。



ドアノブを回して中に入ると、本の香りが漂ってきた。



そして、ほんのり香る煙草の匂い。



私は、あまり煙草が好きではなかったけれど、彼から香る煙草の匂いは安心感があって好きだった。



彼のベットに座ると、何だか変な気持ちになった。



さとり『この間まで、此処にいたのに…』



何で、死んでしまったの?



そう問うても、応える人はいない。



何だか急に寂しくなって、今度は彼の椅子に座った。



まだ、ほんの少しだけ彼の温もりが残っているような気がして、胸が熱くなる。



彼は体育会系だったけれど、成績が悪いわけでは決してなかった。



寧ろ、上位に食い込んでいたくらいだ。



まさに、文武両道を擬人化したような人だった。



彼を思い出していると、涙が溢れて止まらなくなった。



拭いても拭いても零れてきて、彼の机を濡らしてしまう。



ぐっと唇を噛みしめて、頬を叩く。


「あんまり、溜め込まないようにね。」

「ちょっとは、僕を、周りを頼ってください。」



六花と皐月くんの言葉を思い出して、心にモヤモヤしたものを感じた。



『無理なんて、してない。』



それは、自分自身に対する言葉なのか、二人に向けた物なのか、どうしようもなく心がグチャグチャになって、分からなかった。

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