第三八話 守護代信長、尾張統一
◆天文十五年(一五四六年)三月上旬 尾張国 岩倉城(愛知県岩倉市)付近
尾張国(愛知県東部)は、形式上はこれまでに再三触れているが、足利将軍から任命された守護の
上四郡は山側、下四郡は海側、と考えれば分かりやすいかもしれない。元々は一つで、2つの家に分かれた大和守家と伊勢守家が、尾張を分割統治したイメージだな。
信長ちゃんの織田
それはさておき、昨年十一月の三河と尾張の戦いで、
信パパに交渉をしてもらった事だが、まず尾張守護の
尾張守護代の任命についても、足利将軍の職務だからだ。併せて将軍に三千貫(三億円)の献金を行なう。もちろん献金はエサの意味合いになる。
守護の斯波義統は、身柄が清州城にあるし、もともと信パパのシンパだから否はない。
また義統の今後の安全保障も約束し、京都に屋敷を与えることにした。
今後の京都における、足利将軍や朝廷との交渉拠点にするためだ。そもそも斯波氏は足利氏の分家で、幕府の重職を務めた血筋の良い家柄。
義統も、この当時の感覚では田舎の尾張よりも、京都のほうが過ごしやすいだろう。
『今後は義統さんの生活の面倒をみるから、尾張の政治は信長に任せて、京都でロビー活動をしててね』といったイメージ。
当然ながら、義統のお目付け役が必要となるし、朝廷や幕府とのパイプ役を、織田家から京都に送り込まなくてはいけない。
『明智十兵衛が相応しいのじゃ』
信長ちゃんの提案で、京都には明智光秀を常駐させることにした。史実で信長が、足利義昭を擁立した際の明智光秀の役割と似ていて、歴史好きとしてはとても興味深い。だがやはり、光秀を京都に置く点については、また一歩本能寺の悪夢に状況が近づいている気がして、大きな不安が残ってしまう。
とはいえ、尾張の人材は政治家よりは軍人タイプが多く、光秀に代わる人材も難しい。だから、現状は光秀の監視を充分にするしかないだろう。
この時期の第十二代将軍、足利
尾張全域支配の名目を得た信長ちゃんは、岩倉城に向け兵三〇〇〇にて出兵するとともに、守護の斯波義統に和睦仲裁を依頼し、書状を
『尾張全域の守護代は織田三郎信長である。
織田信安の長男の織田
もはや、尾張国内に敵は存在しない。ここに信パパ悲願の尾張平定はなった。織田
史実よりも十三年も早い尾張統一だ。
次の狙いは、肥沃な土地の美濃と伊勢だろうか。まあ、次なる手は信長ちゃんと相談だな。
守護代
◆天文十五年(一五四六年)三月中旬 尾張国
岩倉城出兵から帰還して、自宅でくつろいでいた。
がたっがたっ……だーんっ!
尾張統一を成し遂げようと守護代だろうと、愛しの姫ちゃんは相変わらず所作が荒い。
この部分はそっくりな妹の
「さこん、ぽかぽかしようぞ」
信長ちゃんはぜんざい茶碗を持ってきて、ささっと横に座る。きっと、ぜんざいは『自分へのご褒美』なのだろう。
「尾張の敵は全て平らげたな。さこんもよくやってくれたのじゃ」
「おれは姫の手伝いをしただけですよ」
「さこんがいなければ、ワシはここまで戦えなかった。感謝するぞ」
喜びを隠し切れない素敵な笑顔である。好物のぜんざい効果も、きっとあるんだろうけどね。
「これで尾張に戦はなくなったはずじゃ。さこんとともに、那古野の町を歩いたり、小物を見繕ったり、ともに食事をしたりしたいものじゃ」
女性の一人歩きも可能、と巷でいわれるほどに、那古野の治安は良い状態ではある。だがさすがに承諾できない。
「姫とデートですか。とても楽しそうですが、他国の間者も紛れ込んでいるので危険ですよ」
「さこんとともに、町を歩く事をでえとというのじゃな。日ノ本のあらゆるところで、でえとできるようにまだまだ気合を入れねばな。楽しみなのじゃ」
「ええ、姫は日ノ本の戦をなくす事ができます。さすれば、あらゆる場所でデートができます」
「うむ……でえとが楽しみなのじゃ」
「おれも姫とのデートが楽しみです」
「で、あるか!」
信長ちゃんは満足そうな笑みを浮かべる。
「さこんの願っていた
総技研(=総合技術研究所)はおれが依頼していた案件。さまざまな商品や武器から、農具、食料品に到るまで多種多様な研究と開発を行なう機関だ。那古野だけでなく、織田領から有能な人材を集める意味もある。
研究機関の設置と人材の確保を認めさせたわけ。
未来の知識を利用して、様々な研究開発を行なっていこう。まずは春の田植えに向けて、塩水を利用したモミの選別と苗代を利用した稲の苗の栽培。田植えの際に、基準線を引くための木枠の開発といったところだろうか。
「さこんに褒美を与えたい。さこんがほしいものはなんじゃ?」
信長ちゃんから、信頼感や愛情を寄せられているのは既に感じていたので、気持ちだけで充分だった。
「姫の気持ちどおりで充分ですよ」
「ワシの気持ちどおりか……」
「ええ、姫の気持ちどおりです」
「左様か。ワシのいまの気持ちは、こうしたいのじゃ」
信長ちゃんがおれの顔を、腕で自分の胸に当てるようにしっかり抱き寄せた。いきなりの大胆な抱擁だ。
彼女の体温と、身体の柔らかさと、ほのかな甘酸っぱいような体臭が、布地越しに強く感じられて心地が良い。
「奈津にな。ワシを好く男を
「姫の温もりを感じられて、天にも昇る気持ちです」
「ワシもさこんの温もりを感じて、らぶらぶな気分じゃ」
苛烈なところもあるけれど、信長ちゃんが愛しくてたまらない。
「おれもらぶらぶな気分です」
しっかりと、信長ちゃんを抱き締め返す。あまりの幸福感に、理性が吹き飛びそうだ。だがさすがに、十三歳の信長ちゃんに手を出すわけにはいかないぞ。自分に強く言い聞かせる。
「さこん。これからも頼むな」
腕の中で彼女がそっと囁く。
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