ああ、憧れのミートパイ

 皆さん、ミートパイと聞くとどういうイメージを持たれるだろうか。


 私は、憧れだった。子供の頃、本の中に出てきた知らない食べ物、ミートパイ。

 パイと言えば、お菓子のパイしか知らなかった私は衝撃を受けた。とんでもなく衝撃だった。


 だって、お肉と野菜を丁寧に炒めて、それを包んで黄金色に焼かれたパイ。想像だけで美味しそうだ。むしろ、ミートパイという、その響きだけで幸せになれそうじゃないか。私は幸せに感じた。


 そのミートパイなるものを知ってから、それは、長らく私の憧れの食べ物になった。私は平成生まれだから、比較的、食べたいと思うものは食べられてきた世代だ。


 だけど、悲しいことにミートパイはなかなか、私の前に現れてくれなかった。あと、なぜか自分で作るとか、親に作ってもらうとか、そういう発想には至らなかった。たぶん、プロが作った物を食べたかったのだと思う。


 いつだったか、皆さんご存知、夢の国の国境に入ったか、入らずにその夢の国に隣接している商業施設だったかは忘れたけれど、その辺でとにかくついに憧れのミートパイを食べることが出来た。

 あの時と高校受験と就活が終わった時くらいに、達成感を強く感じた記憶が怪しいくらい、達成感に満ち溢れていた。


 そのミートパイは冷めてたけど、ああ、これが憧れのミートパイ!

 もう、ただ感動した。


 それから大人になっても、ミートパイは憧れだった。例えるなら憧れ続ける先輩みたいだった。

 そんな折、私は某かの母との会話でミートパイが出てきて、思い立った。美味しいミートパイを自分で作ろうと。


 世の中、便利なもので、パイシートというものが売られている。フィリングさえ作ってパイシートに包んでしまえば、あとは崇高なる石窯ドームのオーブンレンジ様が仕事をしてくれる。


 玉ねぎ、人参、しめじ、ニンニクを一生懸命、みじん切りにした。

 私は不器用だから、料理は好きだが包丁は大嫌いだ。フードプロセッサーなんて高尚なものは無い。だったら、どうして石窯ドームのオーブンレンジがあるのかは、置いておいてほしい。


 一生懸命、刻んだ野菜たちとローリエ2枚をしんなりするまで炒めて、牛と豚の合挽き肉をさらに追加して炒めて、いろいろ混ぜたソースにナツメグを入れて水分が飛ぶまで煮込んだ。フィリングだけで、我ながら美味しそうだと思ったものだ。


 あとはパイシートで包み、卵黄を塗ってやり焼くだけだ。なぜかハケが行方不明だったので、仕方なくスプーンで卵黄を塗った。


 卵黄が厚塗りすぎたので、少し焦げたが、私の中で、史上最高のミートパイができた。


 意外と簡単に作れることが分かったので、憧れの先輩が仲良くなってくれたみたいで、ただひたすらに嬉しかった。


 ああ、それでも、やっぱり君は憧れだ。ミートパイよ。

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おお、素晴らしき食べ物 西芹ミツハ @celery

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