40発弾倉のリボルバー その6
サドン崎は去った。最初から何も変わっていない状況をただ再確認だけして、それで安心して帰って行った。正直に言えば、俺もその罠に嵌りかねない気持ちだ。水は低きに流れる……その言葉を身を持って実感している。
「あいつのほっとしたような顔、軽蔑に値するぜ。想像力を使っていない」
サドン崎に対する光汰の侮蔑は、ありがたい事に俺への叱咤にもつながる。その通りだと必要以上にうんうんと頷いた。
「あれほど頭がパーだとはな。授業中にわからない問題当てられた事とかねーのか、あいつ」
これにもうんうんと頷いておく。授業中なら恥をかくだけで済むが、今回ばかりは「えー……ではサドン崎君!」と言われた時点で死ぬ。1/40とはそういう確率だ。この例えはわかりやすいので、俺も覚えておこうと思った。
「今の気持ちはただむかつくって事しかねえが、邪魔がいなくなったのは喜ぶべきだろうな」
三人になった事により、話しやすくなった。あとは起死回生のアイデアが突然浮かんでくるだけで良い。俺、塔哉、光汰、そして起死回生のアイデア。それだけでこの物語は円満に解決するのだ。
起死回生のアイデア! 起死回生のアイデアを皆が待ち続けている!
そしてただ風が木々を揺らし頬を撫でる、穏やかな時間が続いた。誰も何も口にしない。起死回生のアイデアは人見知りして出てこない。
俺達が出来る事、割りに合わない事、ここまでに結構色々な事を話し合ってきた。ハッキリ言えばおおまかなアウトラインはもう出尽くしていると言えた。そこを崩すような強い案が必要だと解っているからこそ、誰も何も言えずにいた。
「これはもう、最後の一発がジャムるように祈るしかないな」
「いや、リボルバーだぞ」
光汰のツッコミに「そうか」と相槌を打ったが、リボルバーだぞと言われても銃に詳しくないのでリボルバーだから何なのかがわからない。そもそもジャムるというのがどういう現象なのかも知らない。多分弾が詰まる事だと思うが、弾が詰まるというのがどういう状態なのかがこれまたわからない。
「とにかく祈るのは後だ。それこそできる事を全てやって、最善を尽くしてからだな」
「ん? ちょっと待て」
光汰の言葉に引っ掛かる。半分は異論無いのだが……。
「むしろ俺達は全力で祈るべきじゃないか?」
「どういう事だ?」
光汰が眉根を寄せる。何を言い出したのかという不可解さと、何か言ってくれるのかという期待がないまぜになった顔だ。
「だって、冷静に考えたら見えない銃で狙ってくるような超常的な存在に叶う訳ないじゃないか。逃げても駄目そうだし、武装しても意味があるかどうか。そもそも土俵が違うし、フェアでもないんだよ」
「はあ」
曖昧な返事を返される。理解はできるが頷くべきかどうか……そんな感じだ。
「だから、そんな俺達にもできる事って神頼みじゃないのか?」
ズバリ言った。方向性を変える一言。
「自分でなんとかしようって時点で間違ってたんだよ。古来より人類は人の手に負えない事態には神の協力を仰いできたはずじゃないか。昨日までの俺達だったら、それを一笑に付していたかもしれないが……でも今は違うだろう。今の俺達は、大真面目に怪談なんかに立ち向かおうとしているオカルトマニアだ。既に超常の存在を肯定しているんだからな」
「……つまり?」
光汰が聞く。
「つまり、今から近所の神社とかに行って……賽銭とかをする。そして助けてくださいと頼む」
光汰はいかにも微妙そうな顔をしている。胡散臭いし心許ない案だ。だが怪談という現象を前にしたこの状況で即座に切り捨てられるほど場違いでもない。
彼は迷ったあげく塔哉を見た。
塔哉はそれを受けて少しの間だけ考え、そして口を開く。
「そういえば、神頼みと言えば……」
「嘘だろ、乗るのか!?」
光汰が素っ頓狂な声を上げる。近くの桜から鳥が飛び立った。そのどちらも気にせずに塔哉は言葉を続ける。
「光汰が前に言ってたよな。樽宮公園には、昔に活躍した武人が神として祀られていると」
「えっ。いや、それは……」
別方向に舵を切ってほしかったのだろうが、塔哉はこちらについてしまった。しかも己の過去の発言を持ち出される始末だ。
「……確かに、そういう話はある。詳しくは知らないが、公園内にでかい岩があるらしい。別に何の説明書きもされちゃいないが、それが神を祀ったものらしいと」
仕方なくといった具合にボソボソと説明してくれる。俺はそれを聞いて、なかなか光明の刺す思いがした。
「強いのか?」
大分乗り気になった俺は光汰から情報をせしめる事にする。
「さあ……強かったらしいとは聞くが……」
「具体的に誰?」
「知らん。そんなに活躍してたら有名だろうし、ガセかもな」
「ほう」
現代人特有の手っ取り早さで「樽宮公園 神 とても強い」で検索してみたところ、確かに光汰が言ったのと似たような話が少しヒットする。
反面、名前や出自に関しての情報は一切出てこなかった。ただの地元の都市伝説という事だろうか? だがその割にはSNSで全く関係無い地域の学者が触れていたりもする。詳細が失伝しているという可能性も考えられた。
「よし、今からぱぱっと行ってくるか!」
「マジかよ……」
「そんな嫌そうな顔するなよ、どうせ他に案も無いんだ。片道数分、祈り得だろ?」
「賽銭するなら金銭的に損だけどな」
光汰も強くは反論しない。他にする事も無い以上、俺を止める理由も見つからないだろう。
二人の会話をよそに、塔哉は既に走る準備をしている。カバンを持ちあげ、スマホの画面をこちらに差し出した。
「岩というのはこれらしい」
誰か地元民がアップロードしたらしい写真が表示されていた。数秒観察すれば、すぐに見覚えがある場所だと気付く。
「あー、確かにこんな岩あったかもな。道の端にあった。でかいのに案外目立たないもんなんだな」
苔むして木に囲まれていれば、どれだけでかくても背景になるらしい。さっき地下鉄まで歩く時に通った道だ。
「これならほんとに数分で済むな。よし行くぞ!」
俺が駆け出すのを合図に、塔哉も走り出す。光汰も一人で待っている訳にも行かず、やや遅れてついてくる。
さあ、果たしてこの公園に神はいるのかどうか。
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