#33(最終話)

 つまり、こういう経緯だった。


 某国の秘密研究組織『アイランド』は、確かに人型搭乗兵器の開発を進めていたが、あんなでっかい機械が直立二足歩行で稼働するなど、夢のまた夢であった。そもそも、ロボットである必要がない。戦車に頭と手を付けたガ○タ○ク型でも、用途としては十分汎用性があるのである。


 では、なぜ直立二足歩行にこだわったか? 当時所属していた研究者……後に『三賢者』と通称された人々が、こだわったのである。もし、そんな兵器が開発できたらどうだろう? 人々を熱狂させるに違いない。なにより、自分たち自身が。そんなおかしな自信に……つけこまれたのである。世界規模のニュースメディアであるGNNを統括する、経営者としてやり手で国家の機密情報にも精通、そして、話題性の高いニュース素材を誰よりも欲する、キース・フォルティス氏に。


 ある日、フォルティス氏がある国際会議に参加した時、ヒューム・グランザイア教授と出会った。気楽で、直感的で、論理的で。才能にも溢れた彼女をすっかり気に入ったフォルティス氏は、彼女が祖国では機械制御に関する技術の第一人者ということを知って、『アイランド』の研究者に推薦した。国としても機密性の高い組織を大手マスメディア首脳に知られてしまった負い目もあって、お試しでグランザイア教授の参加を認めた。が、たった数か月で人型搭乗兵器開発の見通しがついたことから、『フェザーズ計画』として再出発すると同時に、グランザイア教授を正式に招聘した。


 そして、フェザーズがほぼ完成した直後、グランザイア教授が突然行方をくらませた。関係者は誰もが驚いたが、フォルティス氏にだけは手紙が届き、消息不明としてほしい理由が書き連ねられていた。曰く、『私は人の心を操る物を作ってしまった』と。作ってしまった物……『微弱電流感応結晶体』は、研究組織、ひいては招聘国のものとなってしまい、取り返せない。だが、その仕組みの詳細は他の研究者たちに伝えず、資料と共に自身がいなくなれば、同じ物が作り出されないはず。せっかく推薦してくれたフォルティス氏には申し訳ないが……ということだった。


 フォルティス氏は、グランザイア教授の意思を尊重してその事実を隠しつつ、『フェザーズ計画』の研究者たちと面会した。『心を操る』技術が使われているという人型搭乗兵器が気になったからだが、グランザイア教授が行方不明となったにも関わらず、自分たちの成果として酔いしれていた彼らを見て、怒りと不信を感じると共に、意趣返しの意味も込めて利用することを考えた。『フェザーズ』が実戦投入されれば、戦争の歴史が大きく変わる。人も多く死ぬ。それならばいっそのこと……と考え出した壮大な計画が、『人類統合組織ヒューム』という、人類の歴史を大きく変える、しかし、いかにもマスコミ受けしそうな世界観だった。


 計画は念入りに行われたが、フォルティス氏自身が『同調者レベル5』であったことから、研究者たちには『同志』として簡単に受け入れられた。世界征服までは考えてなくとも、特別な人間しか操縦できない『フェザーズ』を通して各国政府を操るなどといった野望を有していた彼らを籠絡するのは、比較的簡単であった。素人ながらも、『結晶体』オリジナルが確かに人々の心理に影響を及ぼすことを確認したフォルティス氏は、効率の良い通信機器の開発のためと称して、『結晶体』にGNN謹製の自律型通信機を組み込ませ、『洗脳』実験を続けた。その効果は抜群で、3年ほどで組織作りを完了した。GNN内部も『同調者』を調べて勧誘させ、ヒューム侵攻およびその後の世界秩序における役割は十分果たせるだろうという目論見だった。


 ……キース・フォルティス氏の唯一の誤算は、失踪したヒューム・グランザイア教授を、最後まで発見できなかったことだろう。新しい世界秩序の頂点に、彼女を迎える。それを成し遂げられないまま、幻影の彼女を記録映像から生成し続けなければならなかったのは、彼にとってはかなりの苦痛だったらしい。いつかは、自らの手で『亡くなった』ことにしなければならないから。



「要するに、アレよね。フォルティス氏はヒュームさんに惚れていたと」

「身もフタもないこというんじゃねえよ。だからお前はモテないんだ」

「え、井上くん、私のこと本気で好きだって言ってたじゃない」

「それでも敬遠されてる状況を反省しろってんだ! このチャラいモテモテなイケメンが躊躇するって、相当だぞ!?」

「だから……本人がいる前で、そんなこと……」

「ほらみろ、井上のライフはもうゼロだ!」

「井上くんのライフをゼロにしたのは成瀬くんだよね……?」


 いや、わかってますよ、わかってますからね?


 でも、もし私がヒュームさんの立場なら……ああいや、たぶん、まさしく今の私はその心境なのだろうけど……フォルティス氏の、愛が重い。気楽に行こうよ、気楽に。ヒュームさんも、暑苦しい野望とかを語る研究者たちに嫌気がさして、行方をくらませたんだろうし。それで致命傷を負ってあっさり亡くなったのは残念だけどさ。


「まあいいや。御子神、お前は危険人物として全世界からマークされてるんだ。大人しく高校生らしい生活をしてるんだな」

「私がヒュームさんから引き継いだ『結晶体』も没収されちゃったしなー。『ハルト』の作り込みも直接は・・・できなくなっちゃったし。ぶー、だよ」

「でも、その代わり、『ハルト』専用の芸能事務所ができたじゃないか。しかも、各国最先端の研究組織と共同運営で」

「いやあれ、各国がAI技術をパクりたいってだけだからー。性格と造形は引き続き私が作り込めるけど、いちいち事務所に行かなきゃいけないしー」

「おう、なら、良かったな、これからも毎日『ハルト』に起こしてもらえるじゃねーか。ひひひ」

「うっさいわね、私の黒歴史を掘り起こすんじゃないわよ! ……ったく、あんな・・・小芝居・・・、するんじゃなかった」

「霞? 歓声で聞こえなかったんだけど、何か言った?」

「なんでもないよ、みこちん。さー、応援しよ!」


 わー、きゃー


『じゃあ、最後の曲だね。「フェザーズ動乱」の後に作られた最初の曲、カスミ渾身の一曲だから、みんなも楽しんでね。「私の彼氏はVTuber」!』

「だから、VTuberでもなんでもないじゃねえかあああああああ!」


 うっさいなー、もう。ほら、成瀬くんもせっせとサイリウム振りなさいよ。せっかくの武道館ライブなんだから!

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私の彼氏はVTuber。ただし中の人はいない。 陽乃優一(YoichiYH) @Yoichi0801

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