あの日のユキと、今日の雪
あげもち
大人になった僕
今日、都心では珍しく雪が降った。
ふわふわと、風に流され灰色の道を白く染め上げる。
それを、会社の休憩室から見下ろしていた僕は小さくため息をついた。
「雪、降っちゃったよ」
きっとこれから電車は止まるし、車だって動かなくなる。
都心は北海道と違って、たった5cm積もれば交通網は止まってしまうのだ。
今日は歩きか? そう考えるだけでパソコンも、今日の会議も、上司や同僚との関わりも全部億劫に思う。
つまるところ、
「あぁ、面倒くさ」
ってやつだ。
紙コップのコーヒを口に含んで、もう一度窓へ視線を向ける。
降りかかる雪が勢いを増して、それがなんだか、僕の子供の頃の記憶を引き出した。
北海道を思い出すな…。
僕が生まれたところは、豪雪地で冬は毎日除雪車が道路の雪を吐き出している。
だけど、そんなのが日常だった僕だけど、雪が降るとすごく嬉しくて。
新しく降った雪は、ふわふわで冷たくて、それがあれば雪合戦だって、かまくらだって作れた。
雪が僕達の遊び道具で、だから、雪が降るのはとても楽しかった…。
だけど…。
はぁー、息を吐き出す。
いつからだろう、その雪が嫌になってしまったのは。
『そんな時期もあったな〜』という言葉で片付けてしまうようになったのは。
それはやっぱり、大人になってしまったからなのだろうか。
あの日の僕に、「大人の僕は雪が嫌いだ」と言ったらどんな顔をするのだろうか。
ふと時計に目を向ける。
ッチと舌打ちをした。
「時間か〜」
残っていたコーヒーを一気に流し込む。
冷めきったコーヒーは、妙に酸味があって実にまずい。
とりあえず帰りが億劫だから、せめて残業はしないよう、仕事を全力で終わらして定時で帰ろう。
そんで、帰ったら久しぶりにザンギでも、食べようかな。
あの日のユキと、今日の雪 あげもち @saku24919
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