第6話 遺跡探検隊、蛇神御一行
バイト帰りの夜。
すっかり人の少なくなった帰り道を三人で並んで歩く。
「遺跡探検、か?」
「ええそうです! お宝探……ゲフンゲフン、思い出作りとして色々なことをしようと思いまして!」
「お宝探しって言っちゃってるじゃないですか」
口が滑ったのを誤魔化そうとしたが、カナタがそれを許してはくれなかった。
「ふふ、良い。リンノが金にがめついことは既に察しておるからの」
「な、なんで……」
バイト代を貰った時に有り得ない程口角が上がっていたり、落とした小銭を全速力で拾いに行ったりする場面を見れば、誰でもリンノが守銭奴であることには気づくだろう。
「それで、話を戻そうではないか」
「で、ですね。さっき、王都の東南に遺跡があるってお客さんから聞いたんですよ。だから明日のお休みを利用して行ってみませんか?」
「儂は構わんぞ。冒険してみたいとも思ってたんじゃ」
「僕も大丈夫です」
二人の了承を得て、リンノはガッツポーズをする。
「いよっし! 明日はお宝探すぞぉ!」
「おおー!」
そして、翌日。
リンノは準備がいる、ということで二人は王都を出た所で先に待っていた。
「遅いのぅ、リンノ」
「何かあったんですかね……僕、探してきましょうか」
カナタが探しに行こうと足を動かした時、どこかからガシャガシャと騒々しい音が聞こえた。こちらへと向かってきているようだ。
「一体何の音じゃ?」
「ま、まさか……」
音の方向を注視すると、ただの鎧が動き、歩いているではないか――!
「な、な、なんじゃあっ!?」
「鎧が……動いてる……」
「ぉ~ぃ……」
「シャベッタァ!」
何か喋っているみたいだが、声がこもり過ぎて何を言っているのか判別できない。
「か、兜取るぞ……?」
おそるおそる、ガタガタと震える兜を掴み、取る。
「って、リンノ?」
「ぷはぁっ!」
サイズの合わない鎧を着こみ、騒音をまき散らしていたものの正体は、守銭奴の少女、リンノだった。
しかし何故こんなものを着ているのか。疑問に思ったカナタは口を開く。
「どうしたんですか、それ」
「昨日は忘れてたんだけどさ……外って、魔物、出るよね? だから準備してきたのよ」
リンノの顔には何処か余裕がないように見える。何かに怯えているみたいだった。
「魔物、怖いんですか?」
「きゃうっ!?」
図星である。
「ここここわいわけないじゃない!」
「まあ、なんでもいいですけど。基本的に避けて進みましょうか」
「ニョロスケブレイドがあるとはいえ、何があるか分からんからの。念には念をと言うやつじゃな」
「そうですよシオ様!」
リンノが鎧姿のままシオに抱きつく。
「いったぁ!? やめるんじゃこの馬鹿者、いた、あだだだ!」
「リ、リンノさん、そこまでに……」
カナタの制止もリンノの耳には届かず、抱擁が一層力を増す。
「ああもう、離れよ!」
流石に不快と感じたのか、シオは力一杯リンノを突き飛ばす。
「あ〜れ〜」
リンノは吹き飛んで頭から地面に突き刺さる。突然出来た異質なオブジェに、近くにいた野生の動物は驚いて何処かへ走り去って行ってしまった。
「あ」
「シオ様……」
ピクピクと痙攣する足を見つめながら、シオは内省するのであった。
◇
地面に埋まったリンノを引っこ抜き、遺跡に向かった一行。
一時間ほど歩いた所で、三人の足は止まっていた。
「えっと……ここで合ってるんですか、リンノさん?」
「そ、その筈なんだけど……」
困惑する三人。眼前には、遺跡とは名ばかりの小さな洞窟がある。入るまでもなくすぐに行き止まりになっているのが外からでも目視できる。
「……どうしよう?」
「ふむ。考えるより先に行動すべきじゃ。中が遺跡に繋がっているかもしれぬじゃろ?」
シオは洞窟へと進む。続いて、カナタとリンノも進むことにした。
洞窟に入ってみると、やはり外から確認できた通りすぐに行き止まりとなっていた。
「……ダメそうですね」
諦念の中、視線を動かすと何やらシオが洞窟の壁を叩いていることに気がつく。
「シオ様?」
「ふむ。……どうやら、当たりらしいぞ」
当たりとはどういうことか。
質問してみようと思ったが、シオは白蛇の一匹を服の裾から取り出し何か話している。
「ニョロゾウ、頼む」
ニョロゾウはシャーと返事をして、先程シオが叩いていた壁へと近づく。
ふとニョロゾウが動きを止めたかと思うと、体が膨らんでいく――!
「シ、シオ様あの子!」
「案ずることはない。ふむ、儂らは少し離れておくか」
シオに促され、ニョロゾウから離れる。
少し経ってからニョロゾウは口から、白くツヤツヤした物体を吐き出した。
「……?」
「来るぞ」
次の瞬間、白き物体が発光、爆発する――!
「うわああああっ!?」
轟音が鳴り響き、大地が振動する。パラパラと上方から小石が落下し、身体に直撃。
「いた、いたたた!」
「シ、シオ様ぁ!」
「二人とも我慢せいっ」
やがて、振動が収まる。
ニョロゾウが爆弾を吐き出した地点を見ると、先程は無かった奥へと進む道が現れていた。
道を観察すると、周囲の光景とは違う、しっかりと石を積み上げられて作られていることが分かる。
「み、道が……!」
「ふふん、思った通りじゃ」
シオは新しく出来た道へと歩いていく。カナタとリンノも、おそるおそる着いていく。
「そういえば、ニョロスケは刀になって、ニョロゾウは爆弾を吐き出しますよね。ニョロミは何が出来るんですか?」
「毒が吐ける」
「えっ?」
聞き間違いかと思い、リンノはもう一度聞き返す。
「ニョロミは何が……?」
「毒が吐けると言ってるじゃろう」
聞き間違いでは無かった。
「そ、それだけ?」
思わず口からそんな言葉が出てきてしまった。
それにはニョロミも憤慨した様子で、
「痛っ!?」
リンノの腕にガブリと噛み付いた。
「ちょっ、毒! シ、シオ様助けて!」
「……ニョロミに謝るか?」
「謝ります! 謝りますから!」
「そうか。ニョロミ、離してやるんじゃ」
シオが静止すると、ニョロミの牙が肌から抜かれる。
「ほっ……、ごめんね、ニョロミ」
リンノは深々と頭を下げ、謝る。
「そんなに謝らんでも良いんじゃが……のう、ニョロミよ?」
「ど、どういうことです?」
シオとニョロミが顔を見合わせクスクスと笑っているのがリンノには分からなかった。
「毒が吐けるとは言ったがの、リンノには出しておらぬよ。ただ、からかっただけじゃ」
その言葉に、リンノは全身の力を抜いて、大きく息をつく。
「そ、そんなぁ〜」
「言葉には気をつけることじゃの」
ぐたっとへたり込むリンノに、シオ、カナタは笑いがこみ上げてくる。
「も、もう、笑ってなくていいから先行きましょうよ」
「そうじゃの」
「ですね」
先に進もうとするが、一行はすぐさま足を止めることとなる。
「二人とも、前見えます?」
前方には一面の闇。真っ暗で、どういう構造になっているのかも把握出来そうにない。
「……見えんのう」
「ふふん、こんなこともあろうかと……」
リンノはニヤニヤと呟きながらバッグを漁る。
「てってれー、松明ーっ!」
「おお……!」
「すごいです、リンノさん!」
「もっと褒めても良いのよ」
ニョロミに狼狽えていた時とは打って変わってドヤ顔で松明を掲げるリンノ。
次にマッチを取り出し、松明に火を灯す。すると、周囲の光景が一変した。
「これで先に進めるのう」
「はい、行きましょう」
と、進もうとした瞬間、リンノは足に何かを引っ掛けてすっ転ぶ。
「っつ〜。もう、今日なんでこんなに酷い目に――」
足を引っ掛けた物の正体を確認しようと、視線を動かすと、そこにはボロボロになったガイコツが――!
「ぎゃあああああッ!」
「な、なんじゃリンノ! 急に大声を出すでない!」
「が、ががが、ガイコツ……!」
震える指でガイコツを指すと、シオの手が頭に置かれる。
「そんなに怯えるでない、リンノよ。ただのガイコツじゃ。動いたりはせぬ」
「動かなくても怖いですよぅ……」
「仕方ないのう。ならば目を伏せておくのじゃ」
シオはリンノの手を握る。それなりの年齢の少女が小さな子供にすがりついている情景は中々に危ない。
ガタガタ震えるリンノが松明を持つことに不安があったので、先導するカナタに松明を預ける。
カナタ、シオ、リンノの順で、松明で照らされてもなお薄暗い遺跡を進む。
「……長いですね、この道」
カナタが言った通り、いくら歩いても周囲の光景は全く変わらない。三人はこのまま歩いていっていいのか、不安になっていく。
しかし、その不安はすぐに払拭されることとなる。
「――あ」
不意に、カナタの口から声が漏れた。
「な、何かあった? カナタ」
「扉……ですね」
ゆっくりとリンノは顔を上げる。そこにはまさに扉というべき扉。ただ、取っ手のようなものは見当たらず、どうやったら開くのか、分からない。
「ふむ……。どうすれば開くのじゃろうな」
シオが扉を調べるも、特に目ぼしいものは無い。
「……扉?」
「リンノさん、何か思い当たることでも?」
「いや、私の故郷の話なんだけどね。開かない扉があったら取り敢えずこの言葉を言ってみるの、『開けゴマ』って……なんてね」
リンノが『開けゴマ』と口にした途端、扉がズゴゴゴ、と鈍い音を立てて開いていく。
「おお、やるではないか、リンノ」
「すごいです!」
「う、嘘でしょ……」
「行ってみましょう!」
カナタは好奇心を抑えきれず、新たな道へと向かっていく。
「儂らも行こう」
「は、はい…………こんなのでいいのかな……」
蛇神様とぼくら。 奈槻由羅乃 @natukiyura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蛇神様とぼくら。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます