はつこい

ねこたば

はつこい

高校一年の冬、僕は初めて彼女と話をした。


ショートカットの似合う美少女。

だけどどこか影があって近づきがたい、そんな子だった。


話すようになった理由は単純明快。席が隣になったから。

そのうち携帯でもやりとりをするようになった。


話をするたびに彼女に惹かれていく僕。

いつしか日々は色彩豊かなものとなっていた。

僕は彼女に恋をした。



だけどしばらくして。

彼女に彼氏ができた。

彼は、僕のよく知る友人だった。



「男友達」として相談に乗る毎日。

付き合いたての少女はとても幸せそうで輝いていた。

『恋する少女は美しい』

誰がいったか、そんな言葉を僕は思い出した。


だけど、彼氏の方はそうではなかったらしい。

「付き合ってみたら好きになるかと思ったんだよ」

ある日、彼はなんとはなしに僕にそう言った。

結局好きにはならなかったけどね、と笑う彼はその少し後に彼女と別れた。

まだ桜が蕾んでいるような、そんな時期のことだった。




二年生になっても彼女とは同じクラスだった。

僕は相変わらず彼女の「男友達」だった。


好きな気持ちに変わりはなかったけれど、一方で仲良くなるにつれて離れることが怖くなっていった。

彼女は好きでもない男とは付き合わない。そして僕のことを彼女は恋愛対象として見ていない。

そのことをよくわかっているから、僕は告白をしなかった。告白をして今の関係が壊れることを恐れた。

「友達」なら離れることはない。


決定的な矛盾に気づかないふりをして、僕は唇を噛み締めた。






夏前に行われた文化祭。その最後に僕はひとりの女の子に告白された。

人生初の告白。僕は受け入れた。

……本当の気持ちに蓋をして。


その女の子との日々は楽しかった。

季節はちょうど夏。キラキラと輝く毎日の中で知らない世界をたくさん知った。

幸せな時間。


それでも満たされることはなかった。

何が足りないのか。

どうして満足できないのか。

気づかないふりをしているうちに自分の心がわからなくなって……。



気づけば僕は、自分のことを好きと言ってくれた子を裏切っていた。

本当に好きな女の子は一人だけ。

一人の女の子を傷つけて初めてその想いに向き合った。






だけど僕は何も出来ないままだった。

気持ちが通じないことを恐れて一歩を出せなかった。

ただ友達としてそれまでと同じように過ごすだけ……。

それだけで幸せだと、また自分を諦めて。







そのまま冬が過ぎ、春が咲いて、夏が去り、そして秋が散り。







彼女は大学受験に成功し、一方で僕はもう一年戦うことを余儀なくされた。

高校卒業後も彼女とは幾度か会っていたが、結局一度も彼女に気持ちを伝えることはできていなかった。

そんな資格は無いと言い訳をして、「男友達」の仮面に隠れたまま。






秋。

彼女に再び彼氏が出来た。

「年上で頭が良くてかっこいいんだよ!」

彼女は幸せそうに、僕の目の前でそう語った。


その時、何かが僕を貫いた。

それは、彼女が僕に振り向くことは一切ありえない、という確信。


「……」


雷に打たれたように固まって、彼女を見た。

なおも、彼女は僕の目の前で素敵な笑顔を浮かべていた。

その笑顔に、僕は思う。


恋する少女は、美しい、と。

僕の手の届かぬほどに、と。


三年と半年。初めは彼女に届けと願い積み始めた日々は、いつしか彼女に届かぬほどに高く重く不安定になっていた。

こんなことなら、積まなければ良かった。

こんなにも不恰好に積み上がり、固まってしまう結末だったのなら……いっそ……。


「ずっと好きだったよ。」


いっそ、僕は全部を崩してしまおう。

友達であることも、自分の想いも。

彼女との過去も、友としての未来も。

全部……全部。


「……うん」


彼女は一瞬驚いた表情を見せたあと、すぐに悲しそうに微笑んだ。


「知ってたよ。」







最初で最後の告白から数ヶ月。

あれ以来、僕は彼女と連絡を取っていない。


きっとあの告白は彼女を傷つけただろう。

友達だと思っていた存在から下卑な目を向けられていたと知らされたようなものなのだから。

恐らくは、ずっと心に隠しておくべき想いだったのかも知れない。


でも僕はただ、苦しかった。


ただ…………苦しかった。



だから今は。

泣いても、いいよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はつこい ねこたば @wadaiko_pencil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ