第2話 50歳の生活

雪がちらついたと思っていたら、ただの千切れたティッシュペーパーだった。

真冬の空に飛ぶネピア。せめて雪であったらロマンチックなのに。

一人過ごす冬に風邪を引くのが辛くて、いつも暖かいものばかり食べて過ごす。


スーツの下にはヒートテックを上下着て、駅まで走ると、熱い。

ビジネスバッグの中には、ノートパソコンと小さな魔法瓶。

仕事中にハーブティーを飲んでいることは、誰も知らない。


この世で私のことを知っているのは、ほとんどいないのではと思うほど、職場以外では人間との交流はなくなってしまった。

たまにただ思いつくままに誰かと他愛もない話がしたくて、今日も仕事終わりにこのバーを訪れた。


「いらっしゃい、よかった、今日は誰も来なくて暇だったのよ」

同い年で50歳になる女性が一人で営んでいる店は、中央線の夢町駅から8分ほど歩いてたどり着く、小さなビルの2階にある。


「ハイボールを」


今日はどうしても聞いてほしい話があった。

客が他に誰も居なくて、嬉しく思う自分に気が付いて、小さな窓から外を見ると、本当の雪が降っていた。


さっきのティッシュペーパーのことを思い出して、そのことをネタにまず話した。


「誰かがティッシュペーパーを撒き散らしたのかかしらね、でもティッシュと雪を間違えたりしないわよ、どうぞ」


氷の音を軽く鳴らしながらハイボールがカウンターに出てきた。

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運命の人はおじさん @hoshi_hoshi

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