君たちが見上げる桜の木の下にはきっと僕が埋まっている。

早崎 早希

第1話 もうすぐ死ぬ僕より。

 余命、2週間。14日。336時間。20160分。1209600秒。それが僕に残された時間だった。これは、僕がこの世を去る前にどうしても伝えたかったことをどうしても伝えたかった人に伝えに行く話である。



 1日目。まず、君のいる場所を探そう。あの時の記憶をたどると確か、このあたりだった。僕は買ってきた地図を広げてあたりを付けていく。それから自分のスマートホンに入っている当時の知り合いの連絡先に片っ端から電話、チャットをし彼女のいる場所を探した。


 2日目。初めに彼女が当時住んでいただろう家に来た。ただ、その家はすでに取り壊されており、知らない、新しい家が建っていた。しょうがない。スマホには数人から返信があったが、卒業後の進路は知らない、すまない。という連絡だけだった。僕はそれに気にするな、と返信しアプリを閉じた。


 3日目。次に彼女がアルバイトしていたコンビニに来た。「店長」と書かれた名札を付けた人に彼女のことを聞いてみるが、どうやら怪しまれているようで教えてもらえなかった。とりあえず今日のところは引き下がり、ちゃんと整えてからもう一度訪ねようと思った。


 4日目。コンビニに再チャレンジするために今日は資料集めだ。卒業アルバムがいいか、当時の学生証がいいか、それとも僕が彼女に送った手紙がいいか……。いや、手紙はやめておこう。下手したらストーカーだと思われかねない。とりあえず学生証と免許証、それから卒業アルバムを準備した。

 

 5日目。コンビニ再チャレンジだ。店長に昨日集めた資料を見せると少し疑わし気な顔をしながら、当時の彼女の様子を話してくれた。その話を聞き、僕は不覚にも涙してしまった。それと同時にやはり彼女に伝えに行く決心ができた。店長もその様子を見て、僕のことを少しは信頼してくれたみたいだった。


 6日目。死ぬまでに彼女に会いに行くにはそろそろ焦る必要がありそうだ。ただ、困ったことに手掛かりが途切れてしまった。と思った矢先に当時の同級生から有力な情報が手に入った。どうやらその人は彼女のお兄さんに会う方法を知っているらしかった。


 7日目。大きな収穫を得た。僕はさっそくそのお兄さんとコンタクトを取るべく準備を開始した。初めに連絡をし、会えるかどうか考えてもらった。そうしたところ例によって連絡をくれた当時の同級生が計らってくれて特別に会えることになった。本当に感謝しかない。


 8日目。彼女のお兄さんに会えるのはどうやら4日後らしい。僕はそれまで自分の体がもつか不安だったが、それでも異例の速さであったため感謝をし、承諾した。お兄さんに会えるのはわずかな時間であるから聞きたいことをまとめようと思う。そうだ。どうせなら3日間、彼女との思い出の場所でもめぐってみよう。


 9日目。今日は当時通っていた学校に来た。懐かしい。さすがに恩師である当時の担任の先生は不在だったが、同級生が教師になり、母校に勤めているらしかった。

久しぶりに会った彼は変わっておらず、久しぶりに校舎を一緒に散歩した。学園祭、体育祭、それから彼女の話をした。懐かしくて、いい日だった。


 10日目。教師になっていた同級生とそのまま飲みに行き、彼の家に泊まった。語り明かした僕らはいつの間にかあっていなかった時間を埋め、元通りの友達になっていた。そして僕は昨日の夜こっそりとしたためた手紙を置き、彼を起こして家を後にした。またな、と彼は行ってくれたがそれにこたえることができないのが歯がゆかった。


 11日目。今日は彼女と初めて歩いた公園に来てみた。小学生くらいの子が走り回っており、なかなかにぎやかだった。僕らが歩いた日は寒い雪の日で、その日も小学生が元気に走っていた。子供は風の子、と彼女が言って、じゃあ大人は?と聞くと決まってるでしょ、大人は風の親。と自慢げに話してくれた。懐かしい。


 12日目。やっと今日。彼女のお兄さんに会える。あったことは多分1度か2度。いや、3度かもしれない。僕は緊張しながらお兄さんのもとへと向かった。


「おう。なにしにきた。」

「お久しぶりです。妹さんに会いたくて。どこにいるかご存じですよね?」

「なんだ、嫌みか?それとも恨みか?」

「いえ、単純に、妹さんに会いたくて。」

「だから!それが嫌味だっつてんだろ!!」

「落ち着いてください。妹さんがいそうな場所でいいんです。わかりませんか?」

「どこまでもふざけてるなお前。そうだな、いるとしたらあそこじゃねえのか?よく知ってんだろお前も。」


それだけ言うとお兄さんは奥に消えてしまった。ここまで手をかけ、特別に話をさせてもらったのだが特に成果はなかった。いや。あったか。彼女を壊した人がどうなっているのかを知ることができた。


 13日目。僕は意を決してあの場所に向かった。初めから、知っていたのかもしれない。彼女がずっとここにいるのではないかと、思っていた自分がいる。僕は彼女のお墓の前にひざまずいて、赤いバラとそれから指輪を取り出した。白いタキシードは用意できず、黒いスーツだが、許してくれるだろう。僕は笑顔で彼女に伝えた。


「遅くなってごめん。10年も待たせたね。10年たったから、僕も君の所へ行くよ。愛してる。」




 14日目。あー。こんにちは、初めまして。俺はこの日記?を書いてたやつの友達です。今は母校で教師をやっている。あいつと飲んだあと、あいつからの手紙を読んで、今、これを書いています。あいつからの手紙にはざっと、「これから自分は死んで、彼女と一緒になる。この話の結末を俺に書いてほしい。」だ。他には感謝とか謝罪とかいろいろ書いてあったが、まあ、いいだろう。でだ。この話をするにはまず、ある事件を教えなきゃいけない。それは「高校生の妹を大学生の兄が刺殺した」って事件だ。ここまで言えばわかるよな。まぁ、そういうことであいつは彼女と付き合っていた。そして、彼女が息絶える瞬間に立ち会い、約束したらしい。「10年で私のことを忘れて。忘れられなかったら、許さない」ってな。プロポーズのことはあいつなりの懺悔だろう。彼女は見た目に似合わず赤いバラが好きだったから、それくらいしかご機嫌を取る手段を知らなかったんだろ。あいつらがどうなったかは俺はわからない。が、幸せの形は人が決めるものじゃないからな。

 天国で赤いバラの花束をもって追っかけまわしてるんじゃねぇかな。あいつ。

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君たちが見上げる桜の木の下にはきっと僕が埋まっている。 早崎 早希 @hayasaki

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