7-8 白竜とナイフの謎
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「ありがとうございました、坂上さん」
「いいってことよ。また何かあればいつでも使ってくれな!」
坂上さんはぐっと親指を立てて、翼猫と共に去っていった。
「白竜さん、とても酷い火傷ですね……すぐに治療いたしましょう」
リリアンさんはそう言うと、自室へ薬を取りに行った。
白竜は今、僕の部屋に運び込まれている。
治療だけならリリアンさんの部屋の方が良いと提案したのだが、その提案はリリアンさんに却下された。
理由は、“安心できる人間が傍にいる方がいいから”、ということだった。
僕に懐いているのを見抜いたのだろう。流石リリアンさんだ。
「こいつが竜か。実物を見たのは初めてだ」
「アタシも初めてみたわ。近くで見ると意外と可愛いのね」
「お前……実はヘビとかヤモリも可愛いっていうタイプだろ」
「ヘビは無理。ヤモリはセーフかな」
「隆一おじさん、嬢ちゃんの判断基準が分からへんよ」
僕の部屋には隆一に加え姫奈ちゃんと龍斗くんもいた。
それもそうだ。負傷した竜が運び込まれたと聞けば、部屋を覗きたくもなるだろう。
「で、さっき言ってた例のナイフはどこ?」
「あ、そうそう。これが伝説のナイフです」
ナイフを取り出し、姫奈ちゃんと龍斗くんに見せる。
「これ……前に宗治さんが持ってた」
「そうですね。前に見せたナイフです。まさかこれが暗示を解く代物だとは思いませんでした」
「そう、そうか。竜に使ったって言ってたやつ……そうだったんだ」
龍斗くんは何故かほっとしたような表情を浮かべた。
「それで隆一さんと白竜の暗示を解いたってことね」
「そういうことです」
「早川ってやつはどうなったんだ?」
「――ああ、それなんですが……」
僕は、ことの顛末を全て話した。
「に、逃げた?」
「それって、またアンタが狙われるかもしれないってこと?」
「そういうことになります」
僕がそう言うと、いつの間にか戻って来ていたリリアンさんと一緒に白竜を介護している隆一が話す。
「まあ、言うてあっちゃんは前も逃げよったからなぁ。なんか瞬間移動すんねん」
「瞬間移動? 移動系の魔法が使えるの?」
「瞬間移動っていうと、そうとしか考えられないよな」
龍斗くんと姫奈ちゃんは驚いた表情で顔を見合わせる。
「実界人なのによくそんな魔法が使えるわね」
「だな。ただものではないな」
確かに、二人の言う通りだ。
実界人も鍛錬を積めばある程度の魔法を使うことは可能だ。
しかし、幻界人ほどの魔力を持たないため通常は高度な魔法は使えない。
だが、早川は暗示や瞬間移動といった高度な魔法を駆使する。
この類の魔法は、幻界人でも習得するのにかなり苦労すると聞いたことがある。
「言うても魔法を勉強する機会なんてないと思うで。中学からまた実界に戻って来てるし」
「確かに……早川が幻界に居たのは三年ほどだしね」
実界出身の小学生が三年で魔法を習得できるとは思えない。
早川への謎は深まるばかりだ。
「あと、気になったことがあるんですけど」
「はい、何でしょう」
龍斗くんは、僕の手元にあるナイフを指して言う。
「そのナイフ、どうやって手に入れたんですか?」
「これですか? これはこの白竜が持っていたものです」
ぐったりとした白竜に手を添えて、僕は言う。
「白竜が……?」
「はい。信じられないかもしれないですが、彼がこれを持っていたんです」
「へぇ、なんでまたこんなすごいものを持ってたのかしら」
不思議そうに首を傾げる龍斗くんと姫奈ちゃん。
確かに僕も不思議に思っていた。
伝説のナイフと白竜。一見、何の繋がりもないように思える。
「もしかしてこの白竜って、神界の使いだったり……なんて」
「龍斗って、その手の話好きなの?」
「そ、そんなんじゃねぇよ! ただ、神界が本当に実在してたらって話で……」
「アンタって本当にお子様ね。アンタがっていうか、男子ってそうよね」
ごめん、姫奈ちゃん。実は僕も似たような発想だった。
弄られている少年を見て、口にしないで良かったと思ってしまう成人男性の僕だった。
「いうて、あながちありえん話でもないと思うで」
「りゅ、隆一さん? マジで言ってる?」
隆一に有り得ないものを見るような目を向ける姫奈ちゃん。
またしても僕は、言わないで良かったと思ってしまうのであった。
そんな視線を気にも留めず、隆一は話を続ける。
「ナイフの伝説って、例の山の頂上にあるっちゅう話やろ? あの山は一種の霊山として有名な山やし、白竜もその山の洞窟におった竜やねん。せやから、神界の使いとして崇められてもおかしくはないわなと」
「つまり隆一は、何が言いたいんだ?」
「つまりやな、実際に神界があるかどうかは置いといて、宗教的にそういう話が出てもおかしくないっちゅう話。ナイフは誰かが適当に捨てたものかも分からんけどな」
隆一が言っているのは、あくまで宗教的な話だ。
たまたま山の頂上に落ちていたナイフが“暗示を断ち切るナイフ”と云い伝えられ、それをたまたま山に住んでいた白竜が拾ったと。
そういう意味では、白竜の存在が“神界の使い”として崇められることも有り得ない話ではない、と。
「結局、隆一さんも神界は宗教的な伝承として捉えてるってことか」
「ま、そういうことになるわな」
四人で色々意見を出し合ってみたが、結局白竜とナイフの謎は深まるばかりだった。
理由も分からず僕を襲う早川についても警戒が必要だ。
これからは、用心棒やなんでも屋に加え、こういった問題にも立ち向かっていかなければならない。
その後。
夜も更け、夕飯と風呂を済ませた後、僕は倒れるように床に就いた。
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