2-9 いつもの朝食風景

 翌日の朝。

 リリアン、姫奈、龍斗はいつもと同じようにテーブルを囲んで朝食を食べる。


 なんでもない、ごく普通の日常風景。さながらどこにでもあるような、家族のような風景である。


 姫奈は、これからのことを龍斗に問う。

 龍斗が探し続けていた兄はもうこの世に存在しない。それ故、少年が旅をする理由はもうなかった。


 龍斗は箸でつまんだウィンナーに目をやり、相変わらずの気だるげな態度で言葉を紡ぐ。


「まあ……ここに居る意味はないけど、ここを出る理由もないしなぁ……」


 答えになっていない曖昧な返答をし、龍斗はウィンナーにかぶりつく。


「……」


 姫奈は適当な返答をする龍斗を睨みつけ、ちゃんと答えなさいと目で訴える。

 龍斗は姫奈の鋭い視線に気づくと、ごくんとウィンナーを飲み込んだ。

 しかし、無理矢理飲み込んだためか、奥でつっかえて少し苦しそうに俯く。

 それでも姫奈は訴える目のまま龍斗の言葉を待っていた。


 つっかえが取れてようやく苦しみから解放されると、龍斗は話した。


「んー、目的がない限りは、此処にお邪魔させてもらうという手も……」


 龍斗はちらりと姫奈の隣に座る家主に目をやる。

 リリアンはにこりと笑い、歓迎の意を示した。


「……そういうことで」


 龍斗は向かいに座る二人に軽く会釈をした。


 龍斗の返答を聞いて、姫奈の表情は今すぐにでも笑顔がこぼれる寸前だった。

 しかし本人は大人びた表情を貫こうと、つんとした態度で彼に言う。


「リリアンさんに迷惑かけないようにね」


 分かってる、と龍斗は返した。

 その直後、もう一人の居候が居間にやってきた。


「おはようございます」


 彼はいつもの敬語で丁寧に朝の挨拶をすると、龍斗の隣に座った。

 姫奈とリリアンは、いつも通りに挨拶を返した。


「……おはよう、宗治さん」


 龍斗は、スクランブルエッグをすくいながら何でもないような顔で挨拶を返す。

 そのとき、少年の首にかかった翠色のペンダントが、窓から差す朝日の光を反射した。


「今日の龍斗君は、なんだか少し頼もしく見えますね」

「……そう、かな」


 少し照れた様子で、少年は微笑った。

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