第4話 コンスプーの町ではスライム料理はありません

 次の町まで一緒に連れて行ってくれる商人さんは、私達孤児院の顔馴染みだったため、私一人護衛として追加されるのを快く引き受けてくれた。

 しかも道中、隣町である【コンスプー】についても、いろいろ教えてくれて、大変助かった。


 なんと【コンスプー】の町には、スライム料理はないのだ。

【コンスプー】の町は冒険者や商人たちが多い中継都市とかいう町で、料理は比較的体力が付きそうな、こってりとした料理が多いそうだ。


 正直私は嬉しさのあまり、変な声で相槌を打った可能性がある。だってスライム料理が無いのだ。

 この5日間何度も何度もお腹に流し込んだ、あの忌々しいスライム料理が無い。

 それだけで私は【トロテン】の町を出て行ってよかったと心の底から思ってしまった。


 それにしても、失敗した。商人のおじさんに料理や食べ物の事ばかり聞いたので、私は食いしん坊として認識されてしまった。

 実際に会話中「ローリちゃんは小さい見かけによらず、食いしん坊なんだね? おじさん知らなかったよ」とか言われる始末。

 違うんですおじさん。私は見かけ通り超小食で全然食べれる人じゃないんです。とか言いたかったけど、言えず仕舞いに終わってしまった。



 その後は特に魔物も出ず、予定通りに【コンスプー】の町に着いた。

 私はおじさん達にお別れの挨拶をした後、さっそくこの町にいる兄弟を求めて歩き出した。

 確か私より2個上の姉がこの町の裁縫屋で働いていると聞いたけど、どの変かな?

 そう思いながら適当に歩いていると、人にぶつかってしまった。


 しまった。初めての町だから前方を見ずキョロキョロ歩いていたせいだ。

 私は咄嗟にぶつかった相手に頭を下げて謝った。


「ごめんなさい! 前をよく見ていませんでした!」

「ええ、大丈夫よ。それよりあなたは大丈夫?」


 ぶつかった相手は私よりもミキ姉よりももっと身長が高く、黒く長い髪の女の人だったが、ぶつかった私の方を気にしてくれた良い人だった。


「はい! 私は大丈夫です! 本当に申し訳ございませんでした」


 これでも私は謝りなれている。弟や妹がよく近所に悪戯をした際、私も一緒に謝っているからだ。

 ご近所さん曰く、私の謝罪は凄く綺麗で、清々しいとか言っていたので、この謝り方だ間違いない筈だ。


「そう、よかったわ。ところで、何か探していた様だけど、どうかしたの?」

「はい……実は私、この町に来たのが初めてなんです。お姉ちゃんの職場を探してるんですけど、どこにあるか分からなくて……」


 つい思わず私の目的を喋ってしまった。あれだけミキお姉ちゃんから、知らない人には気を付けましょうって言われていたのに――


「何所の職場かわかる?」

「えっとはい。裁縫屋って聞いてます」

「それならこの町には3件あるわ。どうせなら、一緒に探しましょうか?」


 なんと、一緒に探してくれると行った? このお姉さん。何で?


「今私って丁度暇してたの。だからココで会ったのも何かの縁って事で。

 私の名前はチョウ。一応冒険者よ。貴方は?」

「私はローリっていいます。あの? 本当にいいんですか?」

「ええ、ローリちゃんぐらいの女の子一人だと、この町広すぎるでしょ? お姉さんがいろいろ案内してあげる」


 そう言われ、私はチョウさんに手を繋がれ、町の中を歩くことを再開した。

 チョウさんの教えは親切で、この店は何だ、あの店はどうだ、ここの道は何所に繋がる等丁寧に教えてくれた。

 やっぱり良い人なんだ。そう思っていると、最初の裁縫屋さんに辿り着いた。


「じゃあ私は待っているから、家族がいるか確認してきな?」

「はい、ちょっと待ってて下さいね」


 私は店に入り、事情を説明した。どうやらこの店では無いらしい。

 店から出てチョウさんに説明し、次の店を目指した。



 2件目も姉はおらず、最後の3件目に到着したが、どうやら姉は3日程前に結婚の為少しだけ遠くの町に引っ越したようだ。

 一応姉から孤児院に手紙を書いたと言われたので、もしかしたらすれ違いになった可能性が高い。

 私はとりあえず、その事をチョウさんに伝えた。


「これからどうするの? この店で働いていたお姉さんを頼りに此処まで来たんでしょ?」

「はい……どうしましょう?」

「他に行く当ては?」

「次の町に兄がいますが、流石に結婚していると聞いているので、私が転がり込むのも気が引けますし……」


 一応チョウさんと一緒にこの町を廻っている間に、兄達が働いていた場所も尋ねたが、みんな結婚しているのであった。

 何人かは結婚しているって知っていたけど、未婚と思っていた兄もいつの間にか結婚していて、凄くビックリした。

 しかし、そうなると家に泊めてとも言いづらい。流石にお嫁さんがいる家庭に私のような血の繋がっていない妹が長居するのは良くない気がする。


「だったら、私達のところに来る?」

「――ふぇ?」

「私達、一応この町に長く滞在予定なの。だからしばらくは一緒に暮らさない? 宿屋暮しになっちゃうけど」

「――いえ! 私お金とかあんまり持っていないので、迷惑になります! だからごめんなさい!」


 流石に今日出会ったばかりの人に今後の生活をお願いするなんてできない。

 だから私は遠慮というか、無理だからごめんなさいと言ったが、何故かチョウさんは私を見つめながらずっと微笑んでいた。


「私の冒険者としての勘が囁いているの。ローリちゃんと一緒にいた方が良いって」

「――冒険者の勘ですか?」

「そう。私の祝福は【勘】。良いようにも悪いようにも働くこの祝福で、私はローリちゃんと一緒にいた方が良いと、勘が告げているの。だからこっちからお願い! 一緒にしばらく行動しない?」


 なんとチョウさんは自身の祝福を口にしてまで私と一緒にいたいと言い切った。

 普通祝福の内容は自分の親しい人にも限定してしいか言わない。だって悪用されたりする恐れもあるから。

 だから基本的に祝福の内容を言うのはタブーとなっている。それを私なんかに言っちゃった。


「えっと……あの……」

「あはははは――急でごめんね? でも今日1日一緒に過ごしてローリちゃんが良い子だってわかったから、余計に一緒にいたいのかもね?」


 そこまで言われると、無下には断れない。だから――


「あの――じゃあちょっとだけお世話になっていいですか?」

「――うんうん! もちろん大歓迎だよ! 大丈夫! 私の勘って外れた事ないから! 安心して?」


 そう言って私の手を取り、泊っているという宿屋まで一緒に歩いた。



 泊っている宿屋は冒険者ギルドがすぐ近くにある宿だった。

 私とチョウさんがその宿に入ると、チョウさんを見つけた一人の女性がこちらに駆け寄ってきた。


「おかえりチョウ! お休みは十分楽しめた?」

「ただいまイーサ。十分休めたわよ」


 チョウさんの隣に立つイーサさん。イーサさんは私より少し身長が高いぐらいで、多分ミキ姉と同じぐらいかな?

 緑色の髪を後ろで束ねて邪魔にならないようにしている。


「ところで、その子は?」

「拾ったの。可愛いでしょ?」


 え? 私ってチョウさんに拾われちゃったの? そう思っていると、イーサさんがツッコみを入れてくれた。


「拾ったって、ちゃんと説明しないと、ポベド君が困って頭抱えて寝込むよ?」


 ツッコミじゃなくて、もう一人のお仲間の心配をしていた。


 その後、私がチョウさんと一緒にいる経緯を説明したところ、イーサさんは全然問題無いとあっけらかんとOKを出してくれた。


「だって、こんな可愛い子なんだもん。しかも此処まで来たのって訳があってでしょ? だったら協力してあげる。私達こう見えて忙しいけど暇だしね?」


 それってどっちなんだろう? 忙しいのであれば、私は邪魔になると思うけど……


「大丈夫だって。だってチョウが【勘】で連れてきたんでしょ? だったら信用出来るから」


 どうやらチョウさんの【勘】は、仲間内にも知れ渡っており、信用度抜群の様だ。


「とりあえず、もう夕食の時間だし、ご飯にしようか?」

「賛成! そのためにチョウを待ってたんだから!」


 そう言って宿屋の1階に作られている食事が出来る場所まで移動した。

 丁度いいから私の祝福もここで説明しよう。チョウさんは祝福の内容を私に教えてくれたんだ。だから私も教えないと。

 そう考えながら席に着き、チョウさん達と一緒にメニューを見た。


「今日はローリちゃんと出会った記念なんだから、好きなモノ頼んでいいわよ?」

「そうそう、遠慮なく食べてね? 今日はチョウの奢りなんだから」


 流石に私も遠慮しようとしたが、二人の勢いに押されて奢られる事になった。

 でも私はこの町に来たこともなければ、スライム料理以外に知っている料理って、お肉を焼いただけのものや、野菜を湯がいたものしか知らない。

 だから二人におススメを紹介してもらい、それを食べる事にした。




「――こ! ……これは! ……なんてカロリー量!」

「……かろりーって何? 知ってるイーサ?」

「さぁ?」

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6,150,250キロカロリー食べないと死んでしまいます あんこうなべ @seiya1027

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