第3話 ご褒美を貰ったので、旅に出ようと思います

 あれから4日経った。私の事を気にしてか、姉は積極的に私に食事をさせようと無理矢理詰め込もうとする。

 昨日なんて、私があまりにもお腹一杯でもう無理と言い続けたせいか、強引に私の口を開けて、スライムゼリースープを流し込む暴挙までされた。

 もちろん吐こうと思ったが、無理矢理飲み込ませられ、余計にぐったりしてしてしまった。


 この時程孤児院のチビ達に無理矢理薬を飲ませる技術を呪った事はない。まさかこの年になってあの技を使われるとは思っていなかった。


 そして今日も沢山のスライム料理を食べさせられている。この生活は本当に辛い。しかも今どれだけのかろりーを摂取したのかも分からない。

 まるでゴールが見えない道を全力疾走している、そんな気分だ――走ってなくて、食べているだけだけど。



 そんな事を思いながら、スープを飲んでいると、急に意識が遠くなり、私は気が付けば真っ白な空間にいた。

 もしかしてこれは成人の儀の際にアタギーブル様と出会った空間では? と思っていたら、案の定目の前に以前お会いしたアタギーブル様と邂逅した。


『よく沢山食べたね、愛しき子ローリ。その細い食でよく頑張った』


 どうやらアタギーブル様は本当に私の事をずっと見ていたらしい。本当に私にしては沢山食べた方だ。何度吐き出そうと思った事か……


『そんなローリに朗報だ。どうやら【浄化】レベルが上がったようだよ』


 確か食べるとレベルが上がると言われていたから、これは嬉しい情報だ。スライム料理を5日間食べ続ければレベルが上がるなんて、本当によかった。


『そんなローリにご褒美を上げよう』


 そう言ってアタギーブル様は手を翳し、私に柔らかな光を当ててきた。

 温かい――そう思っていると光は止み、アタギーブル様は授けてくれたご褒美について説明を始めた。


『ローリに与えたご褒美は、料理を見ると摂取できるカロリーが分かる【神眼】という能力だ。これでこれからはどんな料理を見ても、すぐさまカロリーがわかるよ』


 それは嬉しい能力だ。でも気になる事もある。


「あの! 食べ続けてレベルが上がったという事ですが、いったい私はどれだけのかろりーを摂取したんですか?」

『5,000キロカロリーだね。次のレベルまであと145,000キロカロリーだ。頑張って沢山食べてね』


 ――えっと……5日で5,000きろかろりーという事は、1日1,000きろかろりー……次のレベルまであとじゅうよんまん……え!?


「あのアタギーブル様! このまま食べ続けても、到底5年で目標の――えっと……」

『3,150,250キロカロリーだね』

『さんびゃ……間に合いませんよね!」


 私は明らかに無理があるこの目標に対して訴えた。この調子だと絶対に無理だからである。


『いや、愛しき子ローリよ。別に世界にはスライム料理だけではないでしょ?』

「――え?」

『世界にはスライム料理以外にも沢山の料理がある。だから君は沢山の料理を食べて、沢山のカロリーを摂取するといい』


 そう言われると、また意識が遠のく感覚に襲われた。恐らく元のスライムゼリースープを食べている状態に戻るのだろう。


『さらばだ、愛しき子よ。次はまたレベルが上がった時に出会うだろう』


 果たしてどれくらい先の事になるのか……そんな不安を抱えながら、私は元の食事中の私に戻ってきた。


 ***


 さて、未だに私はスライムゼリースープを食べているのだが、果たしてのスープは何きろかろりーなのかが気になった。

 さっそく神様からもらった神眼を発動する。すると目の前の食べかけのスライムゼリースープのかろりーが表示された。


『スライムゼリースープ:60キロカロリー』


 半分も食べていないスライムゼリースープからそんな表示が現れた。

 残り60キロカロリー……半分も食べてないと考えると、このスープ1杯は約100キロカロリーぐらいか……

 一応今回はスライム麺も用意されていたので、一口も食べていないその麺も確認してみた。


『スライム麺・塩とんこつ味:130キロカロリー』


 少ないよねこれ? 普通の料理を最近見てないから判断が付かないけど、私は今日朝にパンを少し食べ、お昼にスライム焼きとスライムゼリースープ、そして夜にスライムゼリースープとスライム麺だ。

 お昼のスライム焼きが麺と同じぐらいのカロリーとすると、私が今日1日摂取したカロリーは600カロリーぐらい? いや、かなり少ないよね?

 一応昨日は沢山無理矢理食べさせられたので、なんとか今日中に5,000キロカロリーに達したと思ったけど、もし今後もスライム料理ばかりだと、絶対に間に合わない。

 とりあえず私は今日分のご飯を全て平らげ、姉に相談する事にした。


「お姉ちゃーん。ちょっといい?」

「ん? どうしたのローリ?」


 私は洗い物をしている姉の傍に行き、一緒に皿拭きを始めた。

 姉が洗い、私が拭く。この孤児院ではよくある光景の一つだ。

 私は皿を拭きながら、食事の時にアタギーブル様に貰ったご褒美について説明した。


「へぇ~じゃあローリはこれからどんな料理もそのかろりー? が見れるんだ」

「うん。ちなみに今日のスライム麺は130キロカロリーだったよ。ちなみにとんこつって何?」

「とんこつ? あれの事かな? それは教えられないな~。ローリりが結婚する時に教えてあげる」

「ま、結婚なんてできるか分からないから保留で。で、やっぱりスライム料理はカロリーが少ないみたいなの」

「そうなの?」

「うん。しかも次の祝福レベルっていうのがあって、145,000キロカロリーが必要なんだって」

「そんなに!? しかも今日まで5日かかって5,000きろかろりーなんでしょ?1日1,000きろかろりーじゃあ、次の目標まで何日掛かるか分からないわね?」


 流石にお姉ちゃんでも、簡単な計算は出来るけど、6桁の計算は難しいみたいだ。私も分からないし。


「で、アタギーブル様に言われたの。この世界はスライム料理以外にも沢山料理はあるって」

「そりゃそうよね。あくまでもこの町の名物がスライム料理なだけで、もっとたくさんの料理はあるわよね」

「だからそれを沢山食べなさいって。どうしようお姉ちゃん?」

「そうね~……それは困ったわね」


 この孤児院は決して裕福ではない。スライムならこの町は沢山流通しているため、格安で手に入るが、その他の食材となるとスライムと比べると高い。

 しかし、スライムは低カロリーみたいだから、沢山食べてもお腹は膨れるが、カロリーは摂取できない。

 もしかして、以前沢山の女性がこの町のスライム料理を求めて来てたのって、この低カロリーが原因なのかな?

 たしか、スライム料理は沢山食べても太らなくていいとか言ってた気がするし。


 その時私は閃いた。沢山の女性がこの町に来ていた。何所から? もちろん町の外から。

 じゃあ反対に高カロリーの料理は、この町ではなく、別の町にあるって事じゃないかな?


「お姉ちゃん、私この町から出てみようかと思う」

「え!? いきなり何言ってるのローリ?」

「この町の料理は低カロリーでしょ? だったら高カロリーの料理を求めて別の町に行こうかなって」

「でもローリ、お金はあるの?隣町に行くには歩いても4時間ぐらい掛かるし、外はスライム以外の魔物もいるのよ? 危険だわ」

「そうだよね……どうしようか?」


 私と姉はあーでもないこーでもないと言いながら、どうにかして隣町に行く方法はないかを考えた。

 しかし、なかなかいい案が浮かばず、その夜は解散となった。



 次の日の朝、解決策は意外と早くやっていた。


「ミキさん! 明日から俺達隣町まで商人の護衛として出て行くので、しばらく会えない事を伝えに来ました!」


 今お姉ちゃんに挨拶している人は、お姉ちゃんに惚れている人の1人である。名前は知らない。

 だってそんな人は沢山いるから、いちいち1人1人の名前を覚えるのが大変なのである。


「あら、そうなの? いつも野菜とかお肉とか分けてくれてありがとうございます。そうですか……寂しくなりますね」

「大丈夫です! 護衛依頼が終わったら、すぐにまたこの町に戻ってきますので! 安心して俺達の帰りを待っていて下さい」

「あら? 本当ですか? じゃあ気を付けていってらっしゃい」

「――ハイ! 行ってきます!」


 どうやらお姉ちゃんに惚れている人達は、お姉ちゃんに「いってらっしゃい」と言われたたいらしい。

 そりゃ美人のお姉ちゃんに言われたら嬉しいのはわかるけど、わざわざお姉ちゃんに会いに来るついでに、みんな野菜とか果物とかお肉とか持ってきてくれている。

 ある意味孤児院への寄付には一番いい物であるため、私達も彼らを追い返さない。食べ物は偉大だし、食べ物には罪はないのである。

 お姉ちゃんとの交際は絶対に反対するけど……


 そこで私は閃いた。


「お姉ちゃん! 私あの人たちに付いて行くのはダメかな?」

「ローリ?」

『あの人たち冒険者だから護衛になるし、戻ってくるって言ってるから、私の近況もすぐに伝えれると思うんだ。どう?」

「あなたもう出て行くの? 早くないかしら?」

「ごめんなさいだけど、私は一刻も早く隣町に行った方がいいみたい。だって今日の朝のパンのカロリー、少なすぎだもん」


『パン:140キロカロリー』


 まさかのスライム料理以上のカロリーがあった事には驚いたが、それでも私の必要なカロリーには足りない。

 だから私はこのタイミングがチャンスと思い。お姉ちゃんに提案してみた。

 お姉ちゃんは少しだけ考えて、微笑みながらOKを出してくれた。


「じゃあ私からあの人たちにお願いするから、ローリは出かける準備をしてきなさい」

「わかったわ! ありがとう、お姉ちゃん!」

「ところで、どれくらい向こうにいる気?」

「とりあえず、向こうに住んでいるお姉ちゃんかお兄ちゃんに会って、働けるか聞いてみる! それ次第だね」

「わかったわ。じゃあ私も手紙を書いておこうかしら?」


 そう言って私は出発の準備を、お姉ちゃんは先程挨拶に来た冒険者に事情を説明し、私を隣町にまで連れて行ってくれるように説得してくれた。

 彼らはお姉ちゃんの頼みならばと快くOKを出してくれて、明日の朝、町の出口で待っていると教えてくれた。

 お姉ちゃんは急いで隣町にいる兄弟達への手紙を書き、私に渡してきた。


「いいローリ。例え次の町に行って辛い事があったら、迷わずこの家に戻ってきなさい。いつでも貴方の帰りを待っているわ」

「うん。絶対に必要カロリーを摂取して帰って来るよ! それに、私もやっぱり結婚したいし、この孤児院をもっとよくしたいしね。頑張って来るわ!」


 私はその日、出されたスライム料理を何とか食べ終え、お姉ちゃんと一緒のベットで眠った。

 お姉ちゃんに力強く抱きしめられてちょっと苦しかったけど、少しだけ離れ離れになると思うと寂しくて、私も思いっきりお姉ちゃんを抱きしめた。


 そして次の日、とうとう私は生まれて初めてこの町を出ていく事になった。

 本当は【商人】とかになって、この町を出ると思っていたのに、まさか料理を食べる為に出ていく事になるなんて、思ってもみなかった。

 でも私は食べないといけない。神様のお願いだからっていうのもあるけど、何よりも自分の命の為に、頑張って沢山の料理を食べようと決意しながら、この町を出て行くのであった。



【ローリの残り必要カロリー数:3,144,550キロカロリー】

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