第2話 スライム料理には限界があるある
成人の儀が終わり、私はすぐに孤児院に向かって走り出した
どうやら私以外の子達は普通に祝福を貰っており、アタギーブル様の姿を見た子はいないみたいだ。
だから私はこの事を直ぐに院長である姉に報告するために、走って帰ってきたのであった。
孤児院に着き、ちょうど姉が庭の手入れをしているのが見えたので、私は直接庭に向かった。
「お姉ちゃんただいま! 聞いて聞いて、大変なの!」
「おかえりローリ。どうしたのそんなに慌てて?」
お姉ちゃんはゆったりとした動作で立ち上がり、私を迎え入れた。
お姉ちゃんの名前はミキ。先代院長のお子さんで、先代が歳で引退するからとこの孤児院を引き継いだばかりの女性だ。
歳は20歳。とても美人で、凄く綺麗な長く赤い髪が自慢のお姉ちゃんだ。そんなお姉ちゃんに会うためにいろいろな男の人が何度も来ている状態だ。
ちなみに私は15歳なのに小柄な体格だ。よく12,3歳の子達と間違えられる。髪も肩までしかない銀色の髪だからかな? 本当に失礼しちゃう。
私は美人なお姉ちゃんに憧れてはいるが、今はそのゆったりした動作にも少しだけイラっとしてしまう。
だからだろうか、少し強い口調でお姉ちゃんに当たってしまった。
「お姉ちゃん! こっちは大変な事になってるの! 私死んじゃうかもしれないんだよ!」
「何言ってるのローリ。もう成人の儀は終わったの?」
「終わったよ! だから急いで戻ってきたの!」
「じゃあまずは手洗いうがいをして、洗濯物お願いしていい?」
「もう! 私死んじゃうかもしれないのに!」
そうは言ったが、私の姉の言うとおり手洗いうがいをして洗濯物を干しだした。
私達の孤児院は全部で15人いるので、洗濯物も沢山ある。
私は一緒に手伝ってくれている姉に、シーツを干しながら事の顛末を説明した。
「そんな祝福聞いた事ないわね? 本当なの?」
「本当よお姉ちゃん。 ほら? 身分カードにも祝福名が書かれて……あれ?」
この身分カードは10歳を過ぎると誰でも持たされるカードである。
このカードがないと、町の出入りが出来ないばかりか、就職も出来ないので、絶対に無くしてはいけないカードだ。
そのカードには自分の名前と年齢、職業の他に祝福が書かれているのだが、その祝福欄に変な名前が書かれていた。
「お姉ちゃん……なんだか変な祝福名になってる」
「変なのってどんな?」
「祝福名【浄化=消化】……消化? 聞いたことある?」
「いや、ないわね。今までの出て行った兄や姉達も、そんな祝福名とかなかった筈だし?」
確かアタギーブル様は私の【浄化】は食べないといけないとか言っていた。という事はつまり?
「もしかして、食べないと浄化出来ないから、【浄化】だけじゃなくて【消化】も記載されているって事?」
「そうなの? 食べないといけない祝福とかも聞いた事ないから、もしかしたら本当なのかもね」
姉は暢気に「あらあらどうしましょう?」と言っているが、私としては焦ってしまう。
もしも本当だったら、私は20歳で死んじゃうことになる。そんなのは嫌だ!
「お姉ちゃん……どうしよう……私死んじゃうの?」
「大丈夫よローリ。確かアタギーブル様は食べ続ければいいと言ってたんでしょ? だったらお姉ちゃんにいい考えがあるわ」
「本当!」
「ええ、お姉ちゃんに任せなさい」
そう言ってお姉ちゃんは自分の胸を手で叩いて、その自慢の胸を震わせた。
私は震えるほど胸はないので、その光景にわずかな殺意を抱きながらも、頼もしい姉に改めて尊敬の念も送った。
その夜に出てきたのは、この町名物のスライム料理の数々。
スライムで作られた麺に、スライムゼリーの温かスープ。スライムカレーにスライムのステーキ。
思い付く限りのスライム料理がテーブルに沢山並べられた。
流石にここまで沢山のスライム料理が並べられると、一緒に食事をとる弟や妹たちもブーイングの嵐だ。
「今日ってローリ姉ちゃんの成人の儀だったんでしょ?何でスライム料理?」
「わたしおさかなたべたーい」
「わたしもー」
「ぼくおにくがよかった」
比較的年長である弟や妹達は料理のラインナップに疑問を持ち、小さい子達は料理に文句を言う始末だ。
姉は何を考えているんだろう? そう思っていると、席に着いた姉が事情を説明してくれた。
「みんなごめんね? 今日は知っての通り、ローリの成人の儀が行われたわ。
そこでローリったら、神様に出会って神託を受けたんですって。
何でも沢山の料理を食べなさいって言われたらしいわ。
ほら、みんなも知っての通り、ローリはこの孤児院1の小食でしょ?だから沢山の料理を食べるために、あえてスライム料理を沢山作ったの。
これなら、ローリも沢山の料理を食べれるでしょ? だからみんなも協力して?」
そう姉が言うと、みんな素直なのか、可愛らしく「はーい」と返事をし、目の前の料理に手をつけた。
ちなみに我がミキ姉は料理の腕が凄く上手く、スライム料理ではこの町一の腕前じゃないかと思っている。
しかし――
「ちょっとお姉ちゃん!? 私沢山の料理を食べるんじゃなくて、沢山食べないといけないだけだから!」
「あら? そうなの?」
「うん、そうなの! しかもアタギーブル様曰く、スライム料理は1日1,000きろかろりーとかいう単位らしく、ニュアンス的にとても低いみたいなの」
「じゃあ、沢山食べないといけないわね? 丁度いいじゃない。今日は沢山用意したから、沢山食べて?」
「いや、多分スープ1杯でお腹一杯になると思うけど……」
「ダメです。お姉ちゃんが妹の為に一生懸命沢山作ったんだから、頑張って食べてね?」
そう言われて、私の前に用意されるスライムゼリースープとスライムステーキ。そんなに沢山を食べれない私は、とりあえずスープから飲み干すことにした。
このスライムという食材は、それ単体では味は一切ない。故に作りての腕の良さにより、味の方向が全然変わる。
姉はこのスライムゼリースープに少しの塩と動物性の何らかの調味料、そして野菜を3種類と燻製肉を少しだけ入れている。
燻製肉が塩漬けされているため、そこから肉の旨味と塩味が溶け出し、スライムにしっかりと味付けされ、噛んでみるとそこから美味しい旨味が溢れてくる。
何でこの調味料と材料だけでこんなに美味しくできるの聞いたことがあるが、絶対に教えてくれなかった。私がお嫁に行く時になったら教えてくれるとの事だ。
私って結婚できるのかな? ていうかその前に死んじゃうかもしれないから、先にその問題から解決しないとね……
私は何とか1杯のスープを飲み干した。すると姉がサッとお皿を下げ、スルッと台所に移動し、ササッとお代わりを置き、静かに自分の席に戻っていった。
余りの早業に止める暇もなく、気が付けばまたお皿にはスライムゼリースープが……しかも大盛りで。
「お姉ちゃん。私まだステーキ食べてないけど?」
「どうせお代わりしなくちゃいけないんだから、先に入れておいたわ」
「いや早すぎだから。お代わりがいる時は私が自分で動くから」
「そんな事するわけないでしょ?ローリったら誰よりも一番食べないんだから。そのステーキを食べたらお腹一杯とか言って部屋に戻る気でしょ?」
正解だ。流石私の姉。よくわかってらっしゃる。しかもこの家のルールとして、出された食べ物は全部食べる事となっている。
お代わりがおかれたこのスープを残すことはできない。
私は少し涙目になりながら、何とかステーキを全部食べ、スープを全て飲み干した。
しかし――
「――うぅ……もう……無理……」
「じゃあハイこれ、追加分ね。頑張って食べてね」
無情にも新たなお代わりが勝手に追加された。
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