6,150,250キロカロリー食べないと死んでしまいます
あんこうなべ
第1話 私が食べ続けなければならない理由
「――うぅ……もう……無理……」
私は今、目の前のお皿をの上に置かれていた料理をなんとか食べ切った。
もうお腹一杯だ。これ以上食べ切れない。それなのに――
「じゃあハイこれ、追加分ね。頑張って食べてね」
そう言って、私が許可していないのに、無理矢理追加分をお皿に乗せる姉。
何度も言った。「もう無理」だって。でも姉は問答無用で追加分を乗せてくる。
「だってローリちゃん、沢山食べないと死んじゃうんでしょ?」」
「そうだけど、もうこれ以上は無理だよ――」
私は既にこの【スライムのゼリースープ】を2杯も飲んでいるのだ。もう食べれない。
「いや、ローリちゃん。普通このスープだったら子どもでも5~6杯は食べれるからね? ローリちゃんが食べなさすぎだから」
「だって、もうお腹一杯だし。私は普段からそのスープも1杯食べたらお腹いっぱいになるって知ってるでしょ?」
そう抗議したが、姉は無視して自分の分の料理に手を出した。
私は更に抗議したが、やはり姉はずっと無視して食べ続ける。
「――ハァ~……どうしてこんな事に……」
私は今日行われた成人の儀に思いをふけていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
私が住んでいる町は【トロテン】という、スライム料理で有名な町だ。
スライム料理とは、読んで字の如くスライムを使った料理であり、沢山食べても太りにくいという事で、多くの女性がその料理を求めて来ていた町だ。
しかし、今はその影響もとある町の出現により客足が減り、少し貧しい町になってしまった。
そんな町の孤児院で私は多くの兄弟達と育ってきた。日に日に減る助成金の煽りを受けて、今この孤児院はボロボロになりつつある。
そのため、私は少しでもお金の節約になるように、自主的にご飯を食べる量を減らしてきた。
そのせいか、今では立派な小食の少女の出来上がりである。
そんな私も15歳になり、成人の儀を迎える年になった。
この成人の儀は、15歳になった少年少女を教会に集め、神様が祝福を与える儀式である。
その祝福はさまざまであり、例えば【戦士】の祝福を貰い、兵士や冒険者になる人もいれば、【火魔法】の祝福を貰い、魔法使いになる人もいる。
他にも【料理人】や【裁縫士】、【教師】や【音楽家】といった非戦闘職なども祝福で頂ける。
私は祝福の中でも【商人】、または【商人】に関係する【口上手】や【交渉上手】といった祝福を貰いたいと何度も願っていた。
理由は孤児院を立て直すためだ。私の兄や姉達も多くの人が独立して孤児院から出て行ったが、殆どの人達が未だに孤児院に寄付をしている。
自分たちが育った故郷を潰さない為、多くの人が協力している状態だ。私もその一人になりたく、商人として成功し、孤児院の立て直しに協力したいと思っていた。
そしていよいよ、成人の儀が始まる。今私の周りには同じ15歳を迎えた子が5人と、神父様しかいない。
儀式を受ける子どもである私達は、祈りのポーズをしており、神父様が成人の儀の祝を唱えると、私達の体から光が溢れてきた。
***
『ようやく見つけました。我が愛しき子よ』
私は気が付けば何もない場所に移動していた。周りには私しかいない。
「――え? ここは?」
『ここは僕達神の領域。君は選ばれてココに来ました』
そんな声が聞こえたと思うと、目の前から5歳ぐらいの男の子が私の前に現れた。
『ようこそ、愛しき子ローリ。僕の名前はアタギーブル。祝福の儀の際、みんなに祝福を与える神だよ』
まさか祝福の儀を受けていたら【アタギーブル】様と出会えるなんて想像もできなかった。
祝福の神【アタギーブル】。全ての祝福の儀を行った人たちに、それぞれにあった祝福を与えてくれる偉大な神。
そんな存在が私の前に現れたのだ。頭は真っ白になり、緊張が体全体を襲った。
『そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。今日は君にお願いがあってきたんだ』
お願い? 孤児院で育った何にも取り柄がない私に何のお願いがあるのだろうか?
『君の祝福は【浄化】。聖なる力で汚れを払う力を君に与える』
【浄化】? それってもしかして、聖職者や聖女といった選ばれた人にしか与えられない珍しい祝福の筈。そんな祝福を私に?
『でもね、この祝福は少し困った祝福でね? 同時に呪いでもあるんだ。
君にどうしても浄化してほしいモノがある。でもそのためには【浄化】のレベルを上げてもらう必要がある。
でも困った事に、君に与えた【浄化】は何故かお腹の中に付与されたようなんだ』
のろい? お腹? 一体何を言っているんだろう?
『【浄化】をするには、その汚れを食べないと浄化できない状態なんだ。しかも【浄化】レベルを上げるには、何でもいいから沢山食べて、既定の摂取カロリーを取らないといけない。
頑張って沢山食べて【浄化】のレベルを上げて欲しい。ちなみに目標レベルまでに必要なカロリーは3,150,250キロカロリーだから』
――さんびゃくじゅうごまんにぃやくごじゅうきろかろりー? 何かの呪文? とんでもない数字のような気もしたけど?
『君が何時も食べているスライム料理。あれが大体1食150キロカロリーで、君はだいたい1日1,000キロカロリーを摂取している計算だね』
――もしかしてキロカロリーって食べた料理の数の事? しかもスライム料理1日で1,000キロカロリーって――
「あの? もしかして私、今日から沢山食べないとダメな感じですか?」
『そうだね。頑張って食べて3,150,250キロカロリーを摂取しないとね』
「――いや、無理です! その話が本当なら、私1日1,000キロカロリーしか食べてないんですよね? 目標の数字になるまで、いったい何年掛かるか……」
『しかもね、この祝福は呪いがあるって言ったでしょ? 君には5年以内に6,150,250キロカロリー摂取しないと死んじゃうから』
――今この神様はなんて言った? 私死んじゃう?
『どうしても5年以内に浄化してほしい汚れがある。だから君には頑張ってほしくて制限時間を設けたよ』
――設けたよ、じゃない! なんてことをしてくれたんだ!
『浄化してほしいモノの情報は【浄化】のレベルが上がったら教えるから、それまではレベルを上げる為に沢山食べてね』
「いや、無理ですって! 5年以内にろっぴゃく……なんて絶対無理です! なんなんですかその数字は!」
『その浄化してほしいモノを食べてほしいんだ。それを食べたらなんと3,000,000キロカロリーが一気に摂取できるよ。やったね』
やったねじゃない。絶対無理だから!
『もう決まった事だし、諦めて食べてね。大丈夫。食べ続ければいい事があるから、とりあえず頑張って食べてね』
「いや、でも――」
私が何かを言おうとすると、急に意識が遠くなってきた。
『私は何時でも君を見守っている。君の今後の人生に幸があらん事を……』
「いや、死んじゃう呪いを掛けられて幸があらんと言われても!」
こうして私は約に立たない祝福と、大迷惑な呪いを成人の儀で与えられたのだった。
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