高校生特殊能力者バトルレース 決勝戦!

うどんのぐ

高校生特殊能力者バトルレース 決勝戦!


『さぁ、いよいよ大詰めになってまいりました。第34回高校生特殊能力者バトルレース 決勝戦!


ここゴール前会場の熱も上がっております。実況はこの私。報連相がお送りいたします。


さて、現在トップをひた走るいや、ひた飛んでいるのは、富山県立秘紋魔術学校期待のエース!霜月エリー選手!


そして、そのすぐ後ろを付かず離れずの状態で爆走しているのは、熊本県立強鍛超人学校が生んだ怪物!武田 猛選手!


飛んでいるエリー選手を走って追いかけています!


では、改めてルールを確認いたしましょう。このバトルレースは大阪府立スーパー能力者共学校からスタートし、東京都立特殊能力修練学園前にあるゲートをすぐればゴールとなります!


コース上にはチェックポイントがあり、全てのチェックポイントを通らなければ文字通りゴールゲートは通ることができません!


なお、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません!


…と、いった所で、このレースには4人の選手がエントリーしているはずなのですが、あと二人の選手はどこにいるのでしょうか?


おおっと、そんなことを言っているうちに、もうエリー選手、猛選手ゴール目前です。


おおっと、ここで二人とも止まりましたーーー!


はい、ここで特殊ルールが二人を阻みます!


ゴール前100mに他の選手がいるとゴールできません!


このルールがあるせいで毎回100m前でゴールを争う乱闘が発生します!


どちらかが行動不能になるまで終われません!


これは圧倒的猛選手が有利かー!?


先ほど毎回と言いましたが、第19回大会と第27回大会では一人の選手が独走状態だったため――』




実況が聞こえる。辺りは大勢の人だかりで歓声や応援が飛び交う。


エリーは横にいる半そで短パン角刈りの男を見る。


その男は、エリーの高速飛行術に自分の足で地面を走って付いてきた。


「私の独走だと思ったんだけどね。」エリーは余裕ぶった表情でそう投げかけた。


「それは、こっちのセリフだ。」そう、猛ははつらつと答えた。


猛はその場でトントンとリズムをとるように足を上下させる。


うむ、まだまだ走れる。大阪から東京まで結構あると思っていたが案外そうでもなかったな、と猛は思った。


そして、横にいる女を見る。


ダイバースーツのようなぴったりとした服を着ているが頭だけは出ており、地面に届きそうなほど長い髪は一本に束ねられている。


「そんな重しを頭にのせてたら勝てるもんも勝てねえな」と猛はののしる。


「フン、髪の長さは魔力の量に比例するんだから。」とエリーは鼻を鳴らす。


『さて、どうなる!このレースでは少し特殊なルールがありますが、それに違反しなければどんな能力を使ってもOK!


両者ともにらみ合って距離を取っています。さあ、どんな技を披露してくれるのでしょう!』




ところ変わって、スタート地点の大阪府立スーパー能力者共学校。その校舎屋上に一人の少女の姿があった。


上にはブレザー、下はくるぶしまで隠れるほどの黒いロングスカートを身にまとっている。


ゆるふわの髪をなびかせつつ、下に広がる街を眺めている。


その瞳はまるでこの世界を憂いているかのようだった。


彼女の名はガブリエルさん。神奈川にある私立聖女学院超能力者科の学生だ。


「やあ、こんなところにいて大丈夫かい?」


ふいに後ろから声がした。


ガブリエルさんが振り向くとそこには人?が立っていた。


長袖長ズボンの黒の学生服、白い手袋に、白い上履きと靴下。さながら応援団のような恰好をしている。


しかし、頭は黄色く真ん丸で、そこに大きくて黒い目とにっこり笑った口が付いているだけで、鼻や耳はおろか、髪すらない。


彼の名はニコちゃん。ここ、大阪府立スーパー能力者共学校の生徒でレースの出場者だ。


「貴方こそ、ここで油を売ってて良いのかしら?」


そういいつつ、ガブリエルさんは手に持っていたスマホを確認する。


すると、ガブリエルさんの姿が一瞬で消えた。


が、すぐに元の場所に現れた。


「なるほど、空間転移か。でも連続でした方が効率よくないかい?」


ニコちゃんは顎?に手を付ける。


「無駄な労力は使いたくないの。」そうガブリエルさんは一蹴する。


彼女もこのレースの参加者だ。先ほどの空間転移はチェックポイントを通過するために行ったものだ。


「それにしても貴方のその恰好、ふざけているの?」


「ふざけているって?」


「その夏なのに暑そうな全身真っ黒の格好。手足だけ白って。」


「上履きには青いラインのワンポイントがはいってるぜ。」


「どうでもいいわそんなこと。それにあなたの頭。ふざけてるの?」


「生まれてこのかた、この頭でやってきたけど?」


「そんなわけないでしょ。馬鹿なんじゃない?」


「バカってなんだよ。アホにしてよ。」


「じゃ、阿保。」


「アホなんて、ひどいなーまったく。」


「貴方が言わせたんでしょ。」


「そうでした。」


自分で頭を小突き、テヘペロをするニコちゃん。


ガブリエルさんは付き合いきれないと思いスマホに目を戻す。


「と、もうそろそろね。」


ガブリエルさんは姿を消した。




ところ戻って、レース会場ゴール前。


『さあ、両者ともににらみ合って距離を取っています。さあ、どんな技を披露してくれるのでしょう!』


「女に暴力をふるうのは気が乗らないが……仕方ねえ!」


『おおっと、先に動いたのは猛選手!猛スピードで距離を詰め、殴りにかかったー!』


「舐めないでくれる!」


『それに対し、エリー選手は前面に魔法陣を展開!防御陣でしょうか、それともカウンターでしょうか!?


解説の翼わかるさん。』


『えー、あれは――』


突然、会場にどよめきが生まれる。


『おおっと!?両者ともピタッと動きが止まってしまったぞ?どういうことだー?


ああ!あれは、ついに現れました!三人目の選手。ガブリエルさん選手です。


今まで彼女はチェックポイントにしか現れませんでした。今までどこにいたんでしょう。


それにこの状況で現れたということは、彼らが動けないことに関係があるのでしょうかーーー!!!』


「ったく、五月蠅いわねここは。」


『えー、ガブリエルさん選手の解説をさせていただくと彼女は空間転移使いでして、今まで姿を現さなかったのは――』


『はい、特殊ルール!トップより前に空間転移をしてはならない!それが彼女を阻んでいたわけですね。


このルールにより、誰かは自力で移動しなくてはなりません。また100mルールにより、トップとここでの戦闘は避けられません。』


『えー、空間転移使いは基本的に戦闘は不向きな場合が多く、大会ではあまり見かけませんでした。

しかし、彼女はこのレースに出場しています。これは特殊な技を持っているのでしょう。

彼らが動かないのは彼女の術かなにかでしょう。』


『解説ありがとうございますわかるさん。では状況を――』


「ほんと、単純よね貴方たち。」


ガブリエルさんは動かない二人を横目に優雅に歩き始めた。


「何をしたんだ……」猛は動かない頭を必死に動かそうとしながらそういった。


「なにって、簡単よ催眠術をかけたの。」


「そんな、いつ……」エリーも必死に体を動かそうとするが動かない。


「貴方たちさっき、目の前の相手を打ちのめして、優勝する想像したでしょ。

あれ、単なる妄想とかじゃなくて私がかけた幻術。それを見た貴方たちは私の催眠にかかったの。

私の催眠術は相手が今最も望むものを見ることで掛かけられる。それが現実だろうと幻術だろうとね。

条件が複雑だけど、でもその分強力。貴方たちがどんなに頑張ってもその催眠は解けないわ。Do you understand?」


そう言い残し、ガブリエルさんは手を振りながらゴールへ歩く。


と、突然目の前に何かが現れた。


『おおっと、あれはーーー!!!キターーーー!!!我々スーパー校のスーパースター!ニコちゃんだーーーー!!!』


会場が割れんばかりの歓声に包まれる。


「やー、どうもどうもー。」


ニコちゃんは会場の観客に両手で手を振り、時折投げキッスを振りまいている。


「貴方一体どうやって!それに空間転移ではトップより前に立てないはずよ!」


ガブリエルさんは怒りと驚きの混じった声でそう言った。


「なら、問題ないね。空間転移なんて使ってないし。」ニコちゃんは余裕の表情だ。


「は?なら空でも飛んできたのかしら。でもチェックポイントはどうしたのよ。あれを通らないとゴールできないはず。

私が通ってきたチェックポイントでは前の二人しか通ったことになってなかった。しかも最初のチェックポイントはさっきまで通過者3人のままだったわ!」


「それも、問題ない。」そういい、ニコちゃんは実況席の方を見る。


『はいはい。ただいま入った情報によりますと、今すべてのチェックポイントの通過者が4人となっていることが確認されました。

このチェックポイント審査はDNAで判別されるため、代行などの不正は行えません。

はいはい、また新たな情報が入りました。ニコちゃん選手がガブリエルさん選手を追い抜いた様子がカメラによって映されていました。

これによりニコちゃん選手は完全に潔白となります!なお、追い抜く際、カメラに投げキッスをしていたとのことです。』


「一体全体どういうこと!説明しなさい!」ガブリエルさんは自分の理論がすべて覆されたことで完全に逆ギレしている。


「まあまあ、落ち着いて、かわいい顔が台無しだよ。」ニコちゃんはヘラヘラとなだめる。


「茶化さないで!」ガブリエルさんはニコちゃんが差し伸べた手をパシっと振り払う。


「おお怖い。でも君がここにいると僕もゴールできないわけだし、そうムキにならなくても。」


ガブリエルさんはその言葉に「そうね……」と冷静さを取り戻した。


「で、僕がどうやったのかだけど……」


「早くしなさい」とガブリエルさんは怒りがまだ収まっていないのか急かす。


「物質縮光速移動法って知ってるかな?」


「勿論。でもあれは一昔前の能力……まさか!あなたそれを使ってここまで。そんな古びた能力を習得しているなんて。」


「確かに空間転移の登場により物質縮光速移動法は廃れた。でも、こういう場面では使えるでしょ。」とポーズをとる。


『出たーーー。ニコちゃんお得意の例のテーマパークのマススコットキャラクター風のポーズ!』


「何…それ……」ガブリエルさんは怒りを通り越してあきれ顔だ。


「さあ、まだレースは終わってないよ。」


『その通りです!ゴール100m以内に他選手がいるとゴールできません!さぁ、この状況!二人はどう動くのでしょうか!目が離せません!』


「ふん、ここまで追いついたことは褒めてあげるわ。でもここまで、最後に勝つのは私なんだから。」


ガブリエルさんはニコちゃんに幻術をかけた。


褒められたことに、にへら顔のニコちゃん。(って言っても表情かわってないけどね)


が、催眠にかかった様子はなく、頭をかいている。


再度、幻術を掛けるが


ニコちゃんは煙たがるように顔の前で手を動かしている。


「あー、だめだめ。こんなんじゃ。うっとうしいだけだよ。」


「なんで!?貴方も優勝を望んでいるはず!」


「えー、僕ってそんなふうに見えるんだ。心外だなー。ま、確かに優勝はしたいけどさー」


「な…」


「「なんなのあなた!」」


二人の声がハモった。


「しまっ…」


ガブリエルさんはそこで下唇をかんだ。やられた!


下半身が一切動かない。


「あはっはー、さすが、察しがいいねー。でも残念。もう遅い」


「同調音声……」


「ご名答。相手と同じ言葉を同じ音程で発することで相手に催眠を掛ける。催眠術の初歩の初歩。

ま、基本的にもう少し長い言葉じゃないと掛かりづらいけど僕の場合3文字で足りる。

でも今回は君相手だから特別大サービスで7文字だよ!」


ニコちゃんは嬉々として説明する。


「さっき屋上で話したとき君は僕の思った通りのことをそのまま返してくれた。

その時ピーンと来てね、これで行こうって決めたよ、っとこのままもう少し話していたいんだけどもうネタが底をつくぅーチャンチャン♪

だから君を場外に出さないとね。」


そういって、ニコちゃんはガブリエルさんの足をつかんだ。


「な、なにをするのぉぉぉぉぉ」


『ニコちゃん選手!なんとガブリエルさん選手の足をつかみ豪快に振り回し始めた!

これにはガブリエルさん選手、スカートを抑えるだけで精いっぱいです!

そして、ニコちゃん選手、ガブリエルさん選手を投げたーーー!

いまだ動けない猛選手とエリー選手の元へ飛んでいくーーー!

ぶつかったぁーーーぁあ、あれ?』


そこには猛とエリーそしてぶつかったニコちゃんが倒れていた。


「パ……ピ…クーーー」と言い残し、ニコちゃんは眠った。(目は開けたままだが寝息がする)


『な、何が起こったのでしょうか!確かにニコちゃん選手がガブリエルさん選手を投げ飛ばしました。

しかし!倒れているのはニコちゃん選手。そしてガブリエル選手がニコちゃん選手のいた場所に立っています。

そしてそのまま、ガブリエル選手ゴーーール!。今回の高校生能力者バトルレース優勝者はガブリエル選手だーーー!』


あっけにとられていた観客がだんだんと歓声を上げ、大きな拍手が巻き起こる。


こうして、第34回高校生能力者バトルレース決勝戦は幕を閉じたのだった。



大会後の選手インタビュー会場にて


「最後の場面。物質相間転移で入れ替わったのは理解できますが、その後ニコちゃん選手が眠ってしまったのはなぜなんでしょう。」


「催眠術を掛けました。咄嗟だったので睡眠術になってしまいましたが。」


「ですが、ニコちゃん選手はそれまであなたの催眠術にかかる様子はなかったですよね。

なぜあの瞬間にかかったのでしょう。」


「申し上げられません。」


「何か別の術を使ったのでしょうか」


「申し上げられません。」


「それともニコちゃん選手の弱点を見つけたのでしょうか――」


「申し上げられません!私のあれを…あいつに…あげたなんて…。死んでも言えません!」


そういって勢いよく立ち上がるとガブリエルさんは会場を足早に出て行った。


「ガブリエルさん選手!ガブリエルさん選手!」


あとに残された報道陣の声がそう飛び交っていた。

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