第2節、2話

パリン!皿が音だろうか?パリンパリン!、もう二枚割れたのだろうか?どうやら、力加減を間違えて皿を割ってしまったようだ。


「本当にごめんなさい!割ったお皿は、必ず弁証します」


コックのおばちゃんは、少し苦笑いする。


「いいよ、いいよ。昨日の勝利を喜んだファンとイリーナが、大量に注文に料理を注文しているから、此方としては大儲けだよ。

むしろ、勝利に導いてくれたカズミには、感謝しているよ」


「そう言って頂けて、有難いです」


「だからお金の事は、心配しなくていいよ。むしろ心配なのは、あそこで青ざめている、二人だよ」


スズネとクラリスは、青ざめていた。

イリーナの余りもの大食ぶりに、銀行で下ろして来たお金を足してもなおお金が足りなくなってきた事に、気がついたのだ。

今更ながらに、二人は後悔していた。


「「何故、イリーナに食事を奢ると言ってしまった・・・」」


後悔している二人だが、元はと言えば二人が撒いた種が原因である。


カズミは金属製の食器に変えてもらい、ようやく食事にありつけた。

異世界での食事に、不安はあった。

だがこの国の食事は日本食に近いこともあり、難なく食べる事が出来た。


「まだコメとシューマイしか食べていないけど、他に何か食べないのか?」


「僕は食が細いし、後はご飯一杯で言いよ」


それを聞いたイリーナは、険しい表情になった。


「もしよければ、元の世界の選手の食事内容を教えて欲しいのだが?」


カズミは自分の食事内容や強豪校の食事を伝えた所、イリーナの表情は、更に険しくなった。


「圧倒的に、たんぱく質が不足している!たんぱく質の不足分を、炭水化物で補っているとしか、思えない」


「けど炭水化物は、エネルギーの源だよ」


二人の会話を聞いていたクラリスは、そこに割って入る。


「確かにカズミの言う通り、炭水化物はエネルギー源。

運動で消費したエネルギーが食事で摂取したエネルギーを上回れば、筋肉中のたんぱく質を分解して、エネルギーに変換してしまう。

そうなれば、筋肉の成長は望めない。

だからこそ、たんぱく質を多目に摂取しなければいけない。

そもそも、食事の炭水化物とたんぱく質の比率がおかしく・・・」


「クラリスさん、説明が長いです・・・」


スズネの冷たい目線が、クラリスに突き刺さる。


「わかっているさ、だから短めにしただろ」


「貴女の短いは、一般人と比べても、まだ長いです・・・」


スズネの発言に、クラリスは苦笑をする。


「クラリスさん、僕はどのくらいの、たんぱく質を摂取すればいいんですか?」


「それは・・・」


「この世界の感覚で言えば、体重1kgあたり2~4グラムのたんぱく質は欲しい」


今度はイリーナが、割って入った。


「体重1kgあたり2~4グラム!それ、多くない?」


カズミはイリーナに問いかけたが、構わず話を続ける。


「例えば、私の身長体重は、172㎝の65㎏だから、約260グラムのたんぱく質を摂取している」


「何で、身長まで・・・」


カズミの発言に、イリーナは少し顔を赤らめる。


「だって・・・体重だけ聞いたら、太っているように聞こえるじゃないか・・・」


それを聞いたカズミは、納得した。

だが、何故体重を公表したのかと言いたくなったが、それを口に出すことはなかった。

いくら身長があるとはいえ、体重の割にはスタイルが抜群だ。

スラリと伸びた手足は、筋肉で引き締まっているが、薄皮一枚位の脂肪が乗っている。

もし触れたら、女性特有の触ったらふわふわした手足なのだろうか?ショートパンツに包まれたヒップは、小さすぎず、大きすぎず、綺麗な丸みを描いている。

これで、その体重なのか。

下げていた目線を上に上げると、そこには豊満な膨らみがあった。

じろじろと胸を見た、カズミの目線に気がついたのか、イリーナは顔を赤らめる。


「ななな、何を見ている!まだギリギリ3桁は、いっていないぞ!」


ギリギリ3桁無いと言うことは、98か99㎝くらいあるのか・・・。


「相当あわてていますね、今まで胸を見られても、何も反応をしなかったのに。

やはり、好きな人が目の前にいると、違いますね・・・」


「しかも、カズミを試合後にお姫様抱っこをしていたしな。

と言うことは、カズミはイリーナの豊満な胸を、真下から拝んだのか。この、幸せ者めー」


あの時は、試合の疲労と、お姫様抱っこの恥ずかしさで気がつかなかったのだが、今思い出すと、凄い光景だった。

真下から豊満な胸を見上げると言う機会は、もう二度と無いだろう。

流石に、これ以上は不味いと思ったのか、クラリスは話題を変えようとする。


「で、イリーナ。話しはどこまでいった?体重辺りの、たんぱく質摂取量だったよな?」


顔を真っ赤して湯気の出ていたイリーナだが、食事と栄養の話になったとたん、いつもの引き締まった顔に戻る。


「ゴホン!そうだったな。と言う事で、たんぱく質摂取の話に戻る。

カズミはたんぱく質の摂取量が少ない上に、これからはマナを大量に消費する。

なので、一日体重1kgあたり2~4グラムのたんぱく質を摂取しよう」


「分かったけど、イリーナが勝手に決めて良いんですか?本来なら、栄養士がこう言う話をするのでは?」


「心配には及びません。イリーナは、食への愛が高じて、栄養士の資格までとってしまった人です。

ですから、私たちも食事や栄養バランスに困ったら、相談に行ってるくらいです・・・」


話を聞いていたイリーナは、いつものどや顔をする。


「まあ、いきなり4グラムは大変だから、少しづつ増やしていこう。

食事は美味しく、楽しく食べないとな!」


「イリーナは、良いことを言うな。

これまでの食事を胃に流し込む、苦痛な食事も無くなって、楽しく美味しい食事が増えて欲しいものだ」


「僕も同意です、あれは・・・キツかったです」


「そう言えばカズミ、さっきはイリーナの体重を気にしていたかな?」


急に話題を変えられて、ビックリしたカズミだが、一番ビックリしたのはイリーナだ。


「クラリスさん!今度は何ですか!」


「慌てるなよ、イリーナ。別に変なことを言わないさ。

いつもやっている、活動の話をするだけさ」


それを聞いたイリーナは、ほっと胸をなでおろす。


「活動?」


「うん、活動。健康的な体重を、広める活動おしてるんだ。

そもそも体重て、なんだと思う?」


カズミは、大いに悩んだ。

まさか、女性から体重の話をされると言う、想定外の事態に混乱をした。


「え、体重ですか?うーん、重さとしか・・・」


「答は、目安にならない指標と言った所かな」


「ドクター、どういう意味ですか?」


「例えば、イリーナの体重を聞いて、少し重いと思ったろ?」


「そ、そんな事無いですよ。重いなんて、思っていませんよ!」


カズミは、ちらっとイリーナを見たが、ただ黙っているだけだ。


「でも、印象と違うだろ。

体は引き締まり、健康的で美しい。

なのに重いと思わせる体重、不思議だな」


「はい、不思議です。イリーナの凄く綺麗な体を見ていると、体重とのギャップと言うのかな?そう言う物を感じます」


カズミの発言を聞いていたイリーナは、またも頭から湯気が出る。


「イリーナは、期待通りの反応をしてくれるな。

では、ギャップの正体を明かそう。

筋肉と脂肪は同じ重さなら、面積が大きいのは脂肪なんだ。

だから、筋肉が多く脂肪が少ないと、見ためと体重のギャップが出てくる」


「なるほど、筋肉は脂肪を比べればおもいからか」


「言ったろ、目安にもならない指標だと。

もっと笑える話があるぜ。

キャプテンのキーンの体重は、指標から言うと、デブで不健康らしい。

鋼の筋肉で引き締まって、体脂肪の少ないなのにな。

つまり体重なんて、参考にもならないクソ指標って事さ」


クラリスの話に、目から鱗が出る。


「大体分かりましたけど、イリーナが行っている活動と、どういう関係があるんですか?」


すると、しばらく黙っていたイリーナが語りだす。


「女性の選手は、正確な体重を出さない人が多いが、私は公表している」


「と言うか、イリーナが初めて、体重を公表した選手です。

私も影響を受けて、今年から公表しています。

と言っても、私の体型は特集過ぎて参考にはなりませんが・・・」


「あたしも公開してる、チームの名鑑に、スタッフ枠で掲載されている」


「どうして、そこまで」


カズミは、驚きを隠せなかった。すると、イリーナは、重い口を開ける。


「私の友人が、体重を気にしすぎて拒食症になってな。

最後は骨と皮になっていた・・・誰が見ても、惚れ惚れする美しさだったのに。

彼女は現状の体重に満足出来ず、無理な食事制限して、そうなった」


「僕の世界でも、時々話は聞く。

でも、周りにそう言う人が居なかったから・・・」


すると、コックのオバチャンが、こちらに顔を出した。


「うちの娘でね、あたしにゃー何も出来なかった。

皮肉なものだよ、飲食店の娘が拒食症なるんだから」


「オバチャンは、悪く無いですよ。何て言うか・・・ごめんなさい」


「カズミが謝る事は無いだろう。

でも、最近少しづつ食べるようになってきたんだ。

来月からは、退院する予定だよ。

全ては、イリーナのおかげだよ。

体重は美しさの、指標にすらならない。

私の体と体重見れば、一目瞭然だと。あの発言には驚いたよ」


「何故で講演で、あんなことを言ったのだろう。

自分でも分からないが、今のような結果になって、良かった」


「おかげで、全世界から体重を過度に気にする風潮が、消えつつあります・・・」


「だから、楽しく美味しい食事か」


「ちょっと、暗い話になったな。

辛い事を思い出させて、ごめんね。オバチャン」


「いいさ、むしろあたしからは、感謝しかないよ。

先週もお見舞いに来てくれただろ。

あの子は、嬉しいかったみたいだよ。

よしお礼に最高の料理を作ってくる、少し待っていな!」


厨房に戻ったオバチャンは、早速料理をつくり始める。

ジュージューと焼ける音、何かをへらでひっくり返している。


「この懐かしい音、ソースと海苔の香り。

もしかして!」


「はいお待ち!豚肉たっぷりのお好み焼きさ!」


豚肉たっぷりのお好み焼きは、かつお節と海苔が熱で踊り、ソースとマヨネーズが食欲を誘う。

僕は、切り取ったお好み焼きを手に取り、熱々のそれを口に放り込む。


「ハフハフハフ」


熱々でシャキシャキとしたキャベツ、溢れる肉汁。

口の中ではかつお節が踊り、香ばしい香りが鼻をくすぐる。


「美味しい、美味しいよオバチャン!こんなに美味しい、お好み焼きは初めてだよ!」


「そう言ってもらって、嬉しいよ。よし、今日はあんた達が食べた分は、三割引きだよ」


「「三割引き!良いんですか?」」


オバチャンの発言に、真っ先に反応したのは、クラリスとスズネだった。

彼女達はイリーナの食事代を払うのだから、喜びもひとしおだ。


「いいさ、あたし言葉に二言はない。

さあ、沢山食べな!

その代わり、うちの店をガンガン宣伝しておくれよ」


その後は、一次の暗い雰囲気からは一転。皆で、楽しく美味しい食事を楽しんだ。





「で、どうする?この金額」


クラリスは、明細書に記載された金額を見て愕然とする。


「まさかあの一言で、イリーナの食欲が加速するとは、思わないだろ?」


「クラリスさんの言う通りです。

私たちは、イリーナの食欲を侮っていました・・・」


「これ、経費で落ちないかな?」


「明日、経理のスタッフに相談しましょう・・・」


「イリーナの食欲、恐るべし」

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ファンタズムボウル 「異世界に召喚されたら、アメフトの様なものを、はじめていました」 アイビス @ibiskakuyo

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